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十万億土の星屑  作者: 長月塞翁
第二章
9/18

第九話 道の先に

いよいよファンタジー要素に寄せて話を展開できそうになってきました。

がんばるぜー

 バサラの母親を丁寧に埋葬した。

 4匹いた子供たちのうちバサラだけを咥えて戻ってきたということは……黒狼に殺されたのか、離れ離れになってしまったのか……ともかくバサラだけは命懸けで守ったのだ。その親の思いを汲んでバサラを守ってやりい。


 落ち着いたらバサラのために首輪でも作ってやろうと思い、母親の牙と尾と毛皮を一部切り取り保管することにした。


 母親の遺体を埋め、盛土をして大きな石を墓石代わりに立てた。

 遺体は無いが、3匹の子供たちの代わりにと思い3つの石を母親に抱かせてやった。


 バサラは墓石の周囲の臭いを頻りに嗅いでいる。やはり母の臭いに引かれているのかもしれない。


 気を取り直し、黒狼の解体をしてしまう。燃えてしまった黒狼の毛皮は使い物にならなかったが、それ以外は綺麗に剥ぎ取ることができた。せっかくなので記念に牙も切り取っておく。

 肉は食べる気にはならないので、全て重ねて燃やして処理をした。


 まだ傷も痛むのでしばらくは療養しないといけないな。幸いにして燻製肉にはだいぶ余裕がある。

 バサラも私に慣れて欲しいので、ゆっくりと一緒に過ごした。


・・・・・・


 あれから3日経った。


 バサラとの生活も順調で、育ち盛りのワンパク放題である。

 遊びのつもりなのだろうが戯れて甘噛みをしてくる。しょうがないので鹿革を切り出して片袖防具を作ったが、これを作ったせいなのか前にも増して片袖防具をガシガシと噛んでくるようになってしまった。

 まぁ、子供が甘えていると思って付き合ってやろう。


 怪我は順調に治っているのだが思ったようには動けない生活が続いてかなり飽きてしまった。手慰みも兼ねてバサラのために親狼の毛皮を加工して首輪を作ってやった。本当は母親の牙も添えて作りたかったが道具が足りないので難しい加工は断念した。

 首輪をつけてやると、尻尾を振って喜んでくれた。


・・・・・・


 あれから1週間たった。


 傷はだいぶ癒え、ほとんど違和感なく動けるようになった。

 バサラも問題なく見えているようでひと安心だ。


 そろそろ次の探索に向けて荷物をまとめ始める。次は向こうに20日ほど滞在しようと思っている。あの煙の正体を突き止め、じっくりと観察することが目的だ。目的地までの往復で7キロ、滞在期間で20キロ、予備で3キロの燻製肉を運び込む。


 バサラには新しい遊びを教えた。

 投げた木の棒を咥えて持ってこさせる遊びだ。これに慣れてくれれば、なにか動物を狩るときにも役に立ってくれるかもしれない。一緒に狩りができるようになるのが楽しみだな。


・・・・・・


 今回の遠征は順調だった。

 バサラを伴い30キロも進むのは不安もあったが、流石というべきか狼の健脚はまだ子供のバサラにも受け継がれているようだ。


 前回の遠征で作成したキャンプ地を活用し、煙の正体を確認する。


 キャンプ地から5キロほど西に進むと、森の密度が一層薄くなり林と呼べるほどになった。どうやらこの林で木材の伐採を行っているようで、所々で丸太から切り落とした枝の山と真新しい切り株が見つかった。

 あの煙は木こりが使っている伐採小屋なのかもしれない。


 時間は早朝、ある程度までは近づいてあとは朝食の煙が上がるのを待って場所を特定しよう。おそらく周囲400メートルぐらいには近づいているはずだ。

 それまではこちらも朝食タイムだ。燻製肉をバサラにも与えて私もガシガシと齧る。


 煙がゆっくりと立ち上がるのを見届けると、慎重に近づいていく。ある程度進むと伐採した丸太を運び出すための小道が出現した。

 間違いない、この道の先に煙の正体がある。


 5分ほど進むと一気に木々の密度が下がり伐採小屋を見通せるようになる。


「ここか。小屋周辺はやはり伐採で隠れる場所がないな……」


 これからの監視活動で失敗しないように場所をしっかり見渡して地図情報を少しでも充実させる。

 伐採小屋からはゆったりと煙が立ち、周辺にはパンの焼ける匂いも漂っている。

 うーん、素晴らしい香りだ。バサラも初めての香りに鼻をヒクヒクさせている。


 場所は確認できたので一旦距離を置いて慎重に観察することにする。無用な接触は無用な混乱を生むだけだ。


 1時間ほどすると伐採小屋の扉が開き4人が出てきた。5人はそれぞれ手に斧を持ち仲良くお喋りをしている。とりあえず言葉を喋る人型の生物で良かった。

 大柄で一番背の高い筋肉隆々の男。身長が一番低いがこれまた筋肉がみっちりとした髭面の男。中肉中背で私に体型がそっくりな男。細身でスラリとした身体つきの耳の尖った男。2番目に背が高く筋肉質で尻尾があり獣面の男。


 どうやら耳の尖った男が指示を出しているようだ。

 ムムッ、言葉が分からない。これは困ったな。

 一番背の高い強そうな男は1人で、髭面と中肉中背の男が一緒に、耳尖りと獣面が一緒に、3チームに分かれて動くようだ。

 男たちは丸一日精力的に働いた。私はそれを遠巻きに観察していた。


 観察の結果、男たちは分業制で動いており耳尖りと獣面が木を切り倒し、髭面と中背男が枝葉を落とし、大柄な男が丸太を担いで運んでいた。

 運ばれた丸太は伐採小屋の前に駐車された荷台に積まれていく。


 午前中だけで荷台一杯に積み込まれた丸太は、昼頃に西の道から現れた運送業者らしき男が運んでいった。運送業者は空の荷台を馬で牽引してきて、丸太を満載した荷車に馬を付けかえて牽引していった。

 夕方にも同じように運送業者がやってきて同じように運んでいった。


 これがこの伐採小屋での一日のようだ。


 仕事が終わった男たちは夕方の荷車で一緒に運ばれてきた食料や酒を飲みながら、小屋の前でバーベキューを始めた。酒が入りだいぶ饒舌になってきている。これなら少し近づいて観察しても大丈夫だろう。


 言葉が分からないままでは思うように情報が得られないので、ここはリュージュに頑張ってもらうことにする。


「リュージュ、言語の自動学習機能は順調に動いているかい?」


《問題なく機能していますよ。まだ情報量が少ないですが10日ほど続ければかなり学習が進む予定です》


・・・・・・


 2ヶ月ほど経過した。


 木こりの5人組は5日前に伐採小屋を引き払って帰っていった。彼らの会話からどうやら3ヶ月限定の季節労働だったようだ。


 今の私は彼らが引き払った小屋で寝起きしている。

 この2ヶ月のあいだに私は着陸地点を往復して食料を全てこちらに運び込んでいる。

 脱出ポッドがあると色々と便利なのだが、あそこに居たままでは何も状況が進展しない。暴走ナノマシンの存在にドラゴン、この星のことを知らないと引き篭もるにしても活発に活動するにしても判断しようがない。


 木こり5人組を観察して得た情報からまとめていこう。

 ここから40キロほど西に行くと大きな街『ベルツ』があるようだ。5人組もそこから来たらしい。馬車も行き来できる程度には街道が整備されているようなので2日ほどの距離らしい。

 ベルツは開拓民が築いた街で傭兵上がりの貴族が治めているようだ。その貴族は傭兵団を率いて功績を上げ、爵位と領地を与えられたようだ。

 5人組の祖父たちが開拓民第1世代としてその貴族と共にこの地に入りゼロから築き上げてきたベルツの街は、5人組が酔っ払いながら語り草にするほど彼らの誇りのようだ。

 ベルツ周辺には農村が点在し穀物と木材、里山を活用した放牧と養蜂が主要産業の食料豊かな地域らしい。


 また、私がこの伐採小屋の煙を見つけた滝から向こう――つまり私が目覚めた着陸地点――の領域は、ドラゴンの聖域として忌避されているらしい。彼ら5人組の木こりも、夜に酒が回っているときに怪談話や英雄譚などをして盛り上がっていたが、たびたびドラゴンの話が登場していた。

 曰く、立ち入る者は動物も人間も魔物も――魔物!――全てを喰らい尽くすだとか、ドラゴンを退治した英雄がその呪いを受け怪物となったとか、ある時にはドラゴンと盟約を結び人々を救った英雄がいたとか。

 私も一度ドラゴンに遭遇しているが、別に食い殺されるような感じではなかったのだがな。いづれにしてもそういう逸話を酒飲み話として語り合っていたのだ。


 彼らの生活レベルも興味深かった。藁を敷き詰めたベットに木製の食器、鉄製の斧刃に革製の靴だった。伐採小屋を引き払っていく際には、簡単な革製の装備と剣や弓などを装備していた。街道はそこそこ危ないのだろうか?

 さらに給与の計算でもしたのだろうか、簡単な計算式が書かれた羊皮紙も小屋に残っていた。何かに使われた後の羊皮紙を小さなサイズに裁断して再利用しているようで、裏面には何かの文章の一部が細かく手書きで書かれた断片になっていた。


 もしこの世界が地球でいえば中世程度の文明レベルだとしたら、これから情報を得ていくにはどうしたら良いのだろうか?

 おそらくだが、本は貴重品だろう。羊皮紙では大量に出回っているとも思えないし、そうなると価値はかなり高い。おそらく教育も推して知るべしのレベルであろう。

 そうなると貴族や統治機関にコネを作るか、あるいは宗教関係の人物、そして商人にコネを作るのが良いのではないだろうか?

 貴族や宗教関係者や商人であれば読み書きソロバンも必須だろうし、なによりこういう文明レベルで組織化されている団体はそれぐらいしかないだろう。


 当面の目標はベルツの街を偵察して、あわよくば街に入り情報を集めてみたい。今後の身の振り方を考える上でも、この世界の情報は集めておきたい。


・・・・・・


 ベルツの街に向かうにあたって、私は服装をすこし変えた。

 今までは脱出ポッドから目覚めたままの服装で白を基調とした乗務員用の服だったのだが、巨大黒狼に噛みつかれて左腕と左肩と右太腿がズタズタになっている。

 森のなかで誰にも合わずに生活しているだけなら気にする必要はないが、この服装でこの世界の人間に出会うと警戒されてしまうだろう。


 前々から毛皮を使って簡単な服を作りたいと思っていたのだが、針が作れなくて断念していた。しかしこの伐採小屋には砥石が置かれている。この砥石を使って鹿の角から針を作った。


 鹿革で巻頭着を作り、帽子と首鎧の代わりに巨大黒狼の毛皮を贅沢に使った。ちょっとカッコつけ過ぎだろうか。

 肩当てと腕当てには黒狼の毛皮を使い、腿当てと脛当てには鹿革を使った。

 さらに、軍用リュックでは目立ちそうなので鹿革でリュックの外装を作った。これで少しでも違和感がなくなって欲しい。


 これで白服の謎の人から、狩人ぐらいには見てもらえるかもしれない。


 材料を贅沢に使ったので――節約する技術が無かったので――毛皮などの残りは少なくなってしまった。この残りの毛皮と鹿角と狼の牙を街で売って、現金が手に入れば何かと便利になるだろう。

 残りは黒狼の毛皮1枚、鹿角2セット、黒狼の牙5セット。これだけある。あとは手製の燻製肉である。


 武器はサバイバルナイフをメインとして、手製の鹿角を使った弓矢と槍、そして投石である。


 これで準備万端だ、明日には出発しよう。


・・・・・・


 翌朝、ベルツの街に向かって意気揚々と出発した。街までは40キロ2日の行程である。馬があればかなり楽になるんだがな。


 初日は何事もなく無事に街道を進むことができた。バサラも初めて歩く街道に興味津々で右で道端の花を嗅いでいたと思ったら、左でヒラヒラと飛ぶ蝶を追いかけたりと大忙しのようだ。

 30キロほど進み街道の丁字路に当たると道標の岩がチョコンと立っており、ベルツへの道を示していた。この丁字路からベルツまではおよそ10キロ。反対側の道は20キロほどでシュメイという場所に着くようだ。


 そろそろ日も落ち始めそうな時刻なのでここらで野営をしようと思う。

 ちょうど丁の字のところにひときわ大きな木が堂々の枝ぶりで生えている。木の根元は雑草もあまり生えておらず人が腰掛けれるような岩が数個だけ転がっている。もしかしたらこれは距離を示す塚の役割なのかもしれない。

 ちょうど良い屋根代わりにこの木を使わせてもらって、木の裏側で寝かせてもらおう。


 野営の準備のため薪集めをしていると、何やらシュメイの方向から馬車が大きな音を立ててこちらへ向かってくる。

 普通なら居住性や耐久性が大きく落ちるから馬車はあんな大きな音が出るほど速度は出さないはずだ。

 何やら嫌な予感がする。


 危険の匂いを感じた私は、バサラを首だけ出してリュックに放り込み大木へ駆け登る。暴れ馬なら余裕をもって躱せるし、厄介事なら上から眺めて情報を得ておくだけでもだいぶ違う。


 大木の丈夫な枝に登り、枝葉のあいだから改めて馬車を眺めてみると何やら追われているようだ。

 2頭立ての箱馬車を3頭の騎馬が追いかけている。追いかける騎馬は1騎が一人乗りで先行し、2騎が二人乗りで追従しているようだ。

 箱馬車の御者台から1人が後ろに向かって弓を射掛けているが、スピードが出過ぎた馬車からでは満足に狙えないようで騎馬は気にもせずに接近している。

 これは厄介事の類じゃないか。


 眺めていると丁字路から100メートルほど手前で、追いかけていた一人乗りの騎馬が馬車めがけて槍のようなものを投擲した。

 槍は見事に馬車の右後輪に命中し、車輪のスポーク――外周部と中心部をつなぐ放射状に伸びているアレ――を粉々に破壊してしまった。

 車輪が破壊されても40メートルほどは健気に走り続けたが、相当なスピードを出していたため負荷が他の車輪に一気にかかり右前輪も耐えきれずに捩じ切れてしまい車体が地面を舐めてしまう。

 車体が一気に減速したのに引きづられる形で2頭立ての馬がつんのめって転んでしまい、馬車は土煙を上げながらその場で止まってしまった。


 その様子を確認した3騎の騎馬はゆっくりと馬車まで10メートルほどの距離に近づくと、二人乗りをしていた騎馬から4人が降りて剣を抜き扇状に広がった。一人乗りの騎馬は距離を置きながら槍を構えている。


 すると箱馬車の中から革鎧を着込んだ2人の男が飛び出してきた。

 年配の男は馬車の横で剣を構え、もう1人の若い男は御者台に駆け寄り弓を射掛けていた人を助け出しにいった。

 そのまま間髪入れずに馬車の横で剣を構えた人物が叫んだ。


「お前ら盗賊か! 盗賊ならば手打ちの交渉をしようではないか!」


 すると槍を構え騎馬に乗ったままの人物が答えた。


「いかにも! 相応の金を寄越せば見逃してやるぞぉ!」


「分かった、中から金を出すからそのまま少し待て! すぐに準備するから手を出すなよ!」


「いいだろう。素直に応じればこちらからは手を出さないと約束する!」


 交渉が成立したようで、馬車の横の年配の男は剣を構えたまま馬車の中に向かって何やら話しかけている。

 そのあいだにも御者台に駆け寄った若い男が、御者と弓を射かけていた人物を引きずり出して、弓を射掛けた男に肩を貸しながら馬車の脇へと戻っていった。


話がまとまったのか、革鎧を着込んだ年配の男は馬車の中に手を伸ばし小さな袋を手にして呼びかけた。


「おい、今ある金はこれだけだ。大人しく渡すから早く何処かへ行ってくれ!」


「分かった。抵抗せずに大人しく渡してくれれば見逃してやるよ」


 槍を持った騎馬の男がそう答え、合図をすると扇状に展開していた仲間の1人が前に進み出た。

 年配の男も警戒しながらゆっくり歩み寄り小さな袋を渡そうと手を伸ばす。


 その瞬間、騎馬の男が年配の男に向かって槍を馬上から投げつけた。

 槍は年配の男の腹に突き刺さり小袋が落ちる。


「お前ら、一気に片付けちまえっ!!」

02/07 修正 句読点


更新が遅れまして、すみません。

ちょっと強引な展開かとは思いましたが、10話前にはなんとかサバイバルを抜け出したくて駆け足にしました。

その分だけ話の構成に悩んだり書き直したりで時間がかかってしまいました。


これからも頑張っていきますよ!

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