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十万億土の星屑  作者: 長月塞翁
第一章 サバイバル編
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第五話 打ち捨てられた戦利品

 ドラゴンとの遭遇から一夜明け、森は朝日と清々しい空気に満たされていた。

 ミロクは木の実と鳥肉の残りで簡単な朝食を済ませ、ゆっくりとコーヒーを味わいながら昨日のことを考えていた。


 あの後、ドラゴンは姿を見せること無く、また森の雰囲気も変化が無かったためにしっかりと睡眠をとることが出来たが、未知なる生物と遭遇した衝撃は一晩では拭いきれなかった。

 訓練で多少の戦闘技能は習得しており、自分よりも小さいサイズの生物相手ならば戦うことができる自負はあった。しかし、あのサイズ感と風貌は完全に想定外であり恐怖であった。


 何よりも問題なのは、完全にこちらを認識し視線を合わせてきたこと、だな。

 巨大で鱗に覆われたドラゴンの視線からは、どのような感情で私を観察していたのかが推察できない。しかし、紛れも無く視線をしっかり合わせてきたことからは少なくない知性を感じた。

 が、知性を感じたが故に、恐怖も感じたのである。


 少なくとも地球での常識では、生物的強靭さと知性は比例しない。

 20世紀末にクジラなどの一部哺乳類生物に知性の萌芽を感じた研究者たちが熱心に研究をおこなったが、結論としては生物としての集団性が確認されただけで、知性というレベルにまで達してはいなかった。

 また長い宇宙探査の歴史においても原始生物や多少進化した生物による生態系は確認されたが、それ以上に知性をもった生物との遭遇は未だかつて無かった。

 だからこそ、人類はその生存圏において君臨し続けることができ、その文明を謳歌することが可能だった。


 視線を交わしただけで知性の全てを推し量れたわけではないが、少なくとも生物的強靭さはその風貌から十分に感じ取れた。あとは知性の多寡である。

 少なくとも敵対してはいけない。そう心に刻むだけの十分な脅威を感じた。


・・・・・・


 さて。調理セットを片付け、焚き火をしっかりと消化しながらミロクは気持ちを切り替えた。

 ドラゴン問題もさることながら、まずは毎日を生き残ることに時間を注がなければならない。


「リュージュ、今日は昨日発見した小さな湖とその川の流れを辿ってみようと思うんだ。川の流れが着陸地点の方角に伸びているから、近い川岸を確認して水場として使えるかどうか見てみよう」


《了解しました、ミロク。その計画に賛成です》


「よし、じゃあ今日も頑張ろう」


 シェルターを軽く解体し、次にここに来たとしても再利用できるようにしておく。また使おうとして中に毒蛇にでも占領されていたら嫌だからな。


 ミロクはまずは湖を目指し丘から一気に斜面を駆け下りた。


・・・・・・


 往路では湖から丘まで2時間かかったが、復路は切り開いた下りの道で1時間ほどで湖に到着した。


 昨日同様に木陰から湖畔を伺うと、大型の生物が確認できた。やはり水辺には生物が集う。


「鹿の親子、かな?」


 水辺では3頭の鹿が交互に周囲を警戒をしながら水を飲んでいた。

 1頭は大きく枝分かれした角を持っている。オスだろう。もう1頭は小ぶりな角なのでメスだと推測する。そして角をもたない小さいのは子供といったところか。


 木陰からじっくり観察していると何かに気づいたのか、3頭が一斉に周囲に目を向け警戒し始める。

 しばらくすると鹿の親子はゆっくりと周囲を見回しながら森の向こうに消えていった。


「大型の生物が居てくれて助かったな。昨日の鳥も食べごたえはあったが備蓄できるほどの量ではなかったからな。今の鹿を1頭狩ることができれば、だいぶ食料に余裕ができる」


《はい。大型ですのでナノマシン培養に使う血液も大量に確保することが出来ると思います》


 木陰から出て水辺にゆき、先ほどの鹿の足跡を観察する。


「リュージュ、この足跡を記録しておいてくれ。あとで着陸地点周辺にもあるか探そう。糞とかもあればそれも観察したかったが、そう都合良くはいかないか」


《記録完了しました。これで視界に入ればマーキングできます》


「そういえば、この湖には魚が居そうかな? カエルとかでも良いんだけど、魚も食べたいよな」


《今のところ視界情報には魚は確認できません。このまま川沿いを移動するので、そこで見つかれば湖にも魚が繁殖していると考えて問題無いと思います》


 湖から川が流れ出ている箇所で水筒へ補充し、さらに下流を目指す。今日は時間的にも余裕があるので野草や木の実なんかを採集しながら移動しよう。地下茎をもつ植物も採集したいが、手当たり次第に掘るわけにもいかない。他の動物が何を食べているかも観察して、人間の食用になるかを試してみる必要があるかもしれない。


・・・・・・


 川沿いを下流に向かって移動していると30センチ程の亀を見つけた。でかい。

 これは御馳走になるかもしれないと意気込み手早く捕獲する。血液の再利用の件もあるが、着陸地点に培養タンクを置いてきているので今回は諦めよう。

 首を落として血抜きをしつつ焚き火で水を煮沸消毒しながら休憩。やはり川沿いで水を確保できるのは大きい。

 亀を蔓で縛り上げ、腰の後ろに固定して出発する。大きな獲物は運搬に困るんだな。


 しばらく進むと川の流れのなかに魚を発見する。今は亀があるので手は出さないが、確認できただけでも十分な成果である。


・・・・・・


 やっと脱出ポッドのある着陸地点へと戻ってきた。たった1日とはいえ、脱出ポッドのような人工物があると何故かホッとしてしまう。

 川はここから北に150メートルほど行った場所を流れている。これで水の確保も目処がついた。


 新たに収集した野草や木の実を毒味検査しつつ、亀を調理してしまおう。ついでに燻製にも挑戦したい。

 水の確保には成功したが、今後のことを考えると食料の保存と備蓄は避けて通れない。


「せめて塩があれば保存食作りも捗るんだけどな。岩塩とかを探してもいいけど、そう簡単には見つからないだろうし」


《ミロク、塩の確保なら別の方法をご提案できますよ》


「え?」


《生物の血液には塩分が含まれています。それをナノマシンで精製すれば良いのではないでしょうか。例えばこの亀は体重1キロほどですので、亀全体で5グラムほどの塩分を保持していると思われます。健康維持に必要な最低限度が1日3グラム、通常時ですと5グラム必要ですから、毎日肉を1キロ食べれば継続的に補充されることになります》


《もちろん生物によって塩分保持量は違うでしょうから一概には言えませんが、概ねこの計算で良いかと思われます》


《先ほどの鹿は推定体重が100キロを超えていますので、捕獲できれば500グラムの塩分を確保でき、これは100日分の塩分に相当します》


「なるほど、そうなってくるとやはり大型生物の捕獲は長期的に考えると必須になってくるな。ありがとうリュージュ、参考になったよ」


 燻製作りに挑戦するために、まずは燻製器の作成にとりかかる。

 美味しさはともかく、ようは煙と熱がしっかりと対流して肉に当たれば問題ないだろう。


 地面に軽く穴を掘り、その上に長めの木の枝で三角錐を組む。三角錐の中ほどに亀を乗せる棚を作って三角錐の周囲を枝と葉で覆い煙を逃さないようにする。これで完成。


 亀を手早く捌き棚に乗せて、あとは地面の穴で焚き火をするだけだ。

 燻製には向かなさそうなゼラチン部分や肉の切れ端は全部鍋に入れて野草と一緒に煮込む。


 ちょっと早いが昼ご飯にしよう。


・・・・・・


 大型動物の捕獲に向けて午後は罠作りをしてみようと思う。

 実際問題として常時狩りができるほど動物が群れているとも思えないし、仮に群れた獲物に遭遇したとしても投石か先を削った木製の槍ぐらいしか選択肢がない現状では逃げられるのが目に見えている。古代の地球で狩猟で生活してけたのは複数人で追い込みながら狩猟ができたからだ。私は一人なので罠を仕掛けて待つしかない。


 作るのは括り罠。スネアトラップとも呼ばれるものだ。選択した理由は難易度が低いからである。


 まずは括り罠の輪っか部分に使うために、サバイバルキットからケーブルを5本ほど取り出す。次に適当な枝を5センチほどに切ってから「フ」字型に切り込みを入れる。フックに使う。あとは獣道と罠のスプリングに使えそうな木を見つけて設置するだけだ。


 脱出ポッド周辺に5箇所設置してあとは結果を待つ。

 簡単にやっているように見えるかもしれないが、これだけで3時間もかかってしまった。


・・・・・・


 日暮れまであと2時間ほどある。

 この時間を活用して魚を捕獲するための籠罠を作りたい。蔓を何本か集めて籠を編んでみる。


 籠底になる基礎の部分には蔓を2本ずつ十字に交差させる。それを内側にまとめて新しい蔓を使い交差させながら編みこんでいく。大きさ直径10センチ、長さは50センチほどの籠を作るのに1時間ほどかかった。


 初めてにしては上出来なのかな? かなり隙間が目立つが、10センチ以上の魚なら隙間からは出れないだろう。


 最後に口の部分に返しをつけるため、細かい枝を逆さ方向に籠に突き刺して蔓できつく縛り完成。

 中には餌として周辺から芋虫などを集めて磨り潰し、葉っぱで包んで籠の奥に設置する。


 さっそく設置しにいきながら水も汲んでこよう。


 北の水辺に到着したら少し上流に設置する。流されないように蔓で近場の木に固定する。

 上手くいきますように。成功したらもっと数を増やしたいからね。


 せっかくなので水汲みついでに行水をしてサッパリしよう。昨日の山登りで汗もかいたし、衛生面には気を配らないと感染症の元だ。


 夕飯は亀の燻製肉と野草のスープになった。


・・・・・・


 サバイバル3日目。


 昨夜はまたドラゴンが出るんじゃないかと心配したが何事も無く一夜を過ごした。

 昨日の亀の残りと木の実で朝食を済ませる。これで亀は完食。食料を備蓄できるほど確保しないと活動範囲を広げることができない。何とかしなければ……。


 まずは川に設置した籠罠を確認してみる。


 お! 入ってるじゃないか。

 中を確認してみると5センチ程度の小魚が2匹かかっていた。ちょっと足りないが昼ご飯確保だな。


 川辺の木や石の下から芋虫を探し出しミンチにして籠罠を再設置。もっと大物がかかっていますように。

 籠罠は使えそうだからもっと作ろう。


 いったん拠点に戻り、小魚を捌いて燻製器にかける。次は括り罠の確認だ。


 見まわったが括り罠にはかかっていなかった。1箇所で作動していたが何もいなかった。

 焦らず待つべきか……もっと数を増やしてみるか?


 湖にの近くに仕掛けてみるか? 往復4時間6キロの距離は確認しに行くだけでも大変だが……。


 悩んだ末、湖の周辺にも括り罠を仕掛けることにしたが、ついでに魚用の籠罠も仕掛けたいので今日は丸一日かけて拠点で籠編みをすることにした。とにかく何としても最低限1日の消費量を稼がないと飢えてしまう。


 昼は携帯食料を食べながら黙々と作業を続けた結果、全部で籠罠は8つ生産できた。小魚しか入っていなかったのを反省して今回は直径15センチほどの大きさにしてみた。

 そのうち3つは北の川沿いに、5つは湖に設置しよう。


 晩御飯は小魚の燻製と野草スープ。だいぶ野草スープにも慣れてきた。


・・・・・・


 サバイバル4日目。

 昨夜もドラゴンは現れなかった。レアケースだったのだろうか? 私としては安心できるが。


 朝食は野草と木の実だけで我慢。


 括り罠を確認して回るが獲物無し。これはいよいよ辛い、ジリ貧だ。


 北の水辺の籠罠には3匹の小魚が入っていた。やっぱり小さかったのかな……。

 最初より直径を5センチ大きくした追加の籠罠を3つ、上流と下流に分けて設置する。


 ここからいよいよ湖に移動だ。

 2回目の移動なので前回よりは地形把握も進み快調に踏破していき、1時間半ほどで到着する。


 まず先に設置するのは結果が出ている籠罠からおこなう。

 湖から流れ出す河口と、河口から離れて流れが静かな岩陰、泥が溜まっている深みにそれぞれ分けて設置する。望みが薄いのが河口かな、と予想。


 続いて括り罠だが、以前に鹿の親子を見かけた水辺を観察してみると鹿の他にも足跡が数種類発見できた。ここは少し開けていることもあって動物の水飲み場になっているのかもしれない。

 獣道をたどり、川の向こう側にちょうど良い密度の茂みがあったので、その周辺に括り罠を5つ設置する。

 お願いします。かかってください。


 せっかくなので、川の北側を探索と採集をしながら下流の拠点まで戻ることにした。


 30分ほど進むと森の少し開けた場所から鳥の羽音がする。この音は以前に投石で捕まえた鳥の羽音だ!


 獲物ゲットのチャンスだと、音を立てないようにゆっくりと接近し茂みから覗き込む。

 開けた場所の中心で、あの鳥が動物の死体を突いている。立派な角が見えるのでどうやら鹿のようだ。

 以前のように争っていないせいか、仕切りに頭を高くし周囲を警戒しながら肉を突いている。


 これはちょっと厳しいか? 弓でも投げ槍でも作っておけば良かったなと少し後悔する。


 タイミングを図り……今だ!

 ナノマシンで強化された腕で、思いきり石を投げつける。

 石は鳥の背中に当たり、そのまま鳥は倒れこんだ。

 急いで駆けつけ、鳥の首を折って止めを刺す。


「やったー! 今日は鳥肉が食べれる」


 久々の獲物に大いに気分が盛り上がる。これで明日までは携帯食料に手を付けなくて済む。


 そして最大の収穫物は、この鹿の死骸だ。

 見たところ腹が食い破られて後ろ足の右大腿部から先が喰いちぎられている。細かい噛み跡はさっきの鳥だろうか。腐敗した臭いがしないことから1日も経っていと思われる。

 これは回収しない手はない。肉も食べれるだろうし骨や腱は色々と活用できる。


「この鹿の死骸は回収するとしても……リュージュ、この噛み跡は何だと思う?」


《噛み跡のサイズから推測しますと、イヌ型の生物、おそらく狼だと思われます》


「うわー狼ってことは……不味いなぁ、群れで襲われたら対応しようがないぞ」


《幸いにして群れではないようです。群れであればこの程度の鹿は丸々食べられてしまいますが、ご覧のように腹部と後ろ大腿部しか食い荒らしていません。つまり狼は一匹だけということです。群れから追い出されたハグレ狼かもしれません》


「なるほどね、たしかに複数が食べたにしては綺麗すぎる」


 注意して周辺の足跡を探してみると、たしかに犬のような足跡があるが、群れにしては数が少ない。


「よしじゃあ狼が戻ってくる可能性もあるから、急いで回収しちゃおうか」


 すかさずサバイバルナイフを取り出し慎重に切り分けていく。流石に変な病気はもらいたくないので、狼の噛み跡らしき部分と鳥の食い千切った部分は容赦なく切り離していく。


 それでも鹿のかなり大部分が残った。

 よし、持ち帰ろう。これは大収穫だ。

02/07 修正 句読点


まとめるタイミングを失ってちょっとダラダラした展開になっちゃいました。

もっとメリハリのある展開にしたかった。

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