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十万億土の星屑  作者: 長月塞翁
第一章 サバイバル編
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第三話 名もなき星座

「ふぅ、これでだいたい半径50メートルの範囲は見て回ったか」


 ミロクは2時間ほどかけてポッド周辺をぐるぐると渦巻き状に回りながら進んだ。太陽はすでに頂点から下がり始めている。


 ポッド周辺は広葉樹の原生林のようで、落ち葉と倒木、そしてそれらを苗床とした下草が鬱蒼と繁りまさに道無き道を切り開きながらの歩みとなった。地球の植生から類推すると、広葉樹林帯は比較的温暖である可能性が高く、針葉樹林帯に比べて木の実や果実なども多い可能性が高い。さらに落ち葉や倒木も多いので下草も豊富なことから、食料になる地下茎を持つような植物も生えている可能性もある。

 更に言えば、これだけ植物が豊富であれば当然のことながら動物も生息していることだろう。

 

「よし、じゃあ毒味タイムといきますか」


 偵察の成果として、何種類かの木の実とキノコ、柔らかそうな野草を選んで収集していた。小型の蛇らしき生物も捕獲してある。

 昔であれば毒味はパッチテストなどを繰り返し時間をかけて行うのだろうが、現代はナノマシンで全てを行う。

 全ての収集物をナイフで切断し、断面へ指先から血液を付着させていく。蛇は頭を落として皮を剥いで、同じように処理する。

 あとは浸透したナノマシンが毒性を判断してくれるのを待つだけだ。

 実に簡単である。


 黙々と切断と付着の作業をしながら、探索した周辺の地図を見ながら今後の方針を考えていた。


 ナノマシンには自動的に周囲を探索するようなことはできないが、私の視覚情報をもとに合成して地図を作ってもらっておいた。

 絶対的な座標も無く正確な距離測定も出来ないので、左右の眼球の視覚情報の差異から三角測量で距離を計算し、それを幾重にも重ねあわせて相対的な地図を作成したのだ。

 この地図のメリットは、私が集中して見続けた場所がより詳細に描けること。デメリットは視認できなければ描かれないことである。


 この周辺はほとんど傾斜も無くなだらかで、東側には丘がありその向こうには大きな山が見える。

 東の山以外には、北も西も南も森のなかからは目標物が見えなかったので、平坦かあるいは低地なのだろうと推測した。


「リュージュ、次は東側の丘に登ってみようかと思う。高台からなら見通しも利くだろうから、水源や目標物が見えるかもしれないからな」


《了解しました。良いお考えだと思います。高台からの視覚情報が得られれば地図の精度も上がり、森での偵察にも有利に働くことでしょう》


「うむ。しかしこれから向かうとしてもちょっと距離があるから往復は厳しいよな。リュージュ、観測ではどの程度の距離だと思う?」


《視線による直線距離だと3~5キロメートル程度ではないでしょうか。実際の地形の起伏なども考慮しても5キロメートル以下の距離だと思われます》


「5キロか……今日の移動のペースで考えると向こうで一泊しないと往復は難しいんじゃないかな」


《不測の事態に備えて、余裕をもった行動をしましょう。時間的余裕が無いと目的地で何かを発見しても対応できずに戻ることになりかねません》


 高台への偵察は翌朝に回し、今日はこのままキャンプの準備をすることにした。

 

 まずは先ほどした動植物の結果確認からだ。

 それぞれに左手首のリングを近づけて、付着させたナノマシンと通信しデータを確認する。


《分析結果を報告します。そのまま生食が可能なのは2種類、調理することで食用にできるものが4種類、毒抜きなどの工程が必要な物が1種類、毒性で食用出来ないものが5種類です》


 ベリー風の木の実と、ツタから生えた三つ葉の柔らかい茎はそのまま食べれるようだ。

 丸くて黄色い果肉と、フキのような背が高めの野草、白くコロコロとしたキノコ、蛇の肉は加熱で食べられる。

 ドングリのような硬い木の実は手を加える必要あり。

 そしてキノコ類と野草と真っ赤な小さい木の実は毒性があると分かった。毒性と言っても野草と木の実は下痢や腹痛程度だが、キノコ類は致死性のある毒を含んでいた。


 ちなみに、加熱で食べられる白いキノコはかなり強い毒性を持っているようだが、加熱で毒素が分解されるらしい……信用して食べちゃって大丈夫だよね?


《それぞれの分析結果を記録し、データベースを作成します。また外観的特徴も記録しておきます。しかしまだ情報量が少ないので今後も継続的に全ての収集物を分析することをお勧めします》


「なるほど、最初の採集の結果としてはまずまずかな。それにしても蛇とはいえ初日から肉を食べられるのは嬉しいな」


《ミロク様よろしいでしょうか? 重大な報告がございます》


「急にどうしたんだい?」


《実は分析の結果、動植物から微量ではありますがナノマシンを検出しました》


 ……私は……絶句してしまった。


《さらに、検出されたナノマシンは機能は保たれていたのですが、活動を停止していました》


「つ、つまりそれは、どういうことだい?」


《この事実から言えることは、まずこの星にナノマシンを持ち込んだ存在が我々以外にも居ることを示唆しています。検出されたナノマシンの構造を分析しましたが、ミロク様が使用しておられるナノマシンとは構造が違い、改良が施されています。これは相応な技術力をもった第三者の存在を示しているものと思われます》


《さらに、発見したナノマシンを含んでいた採集物の分布がこのようになっております。ご覧のように広く周囲に点在しておりますので、局所的なナノマシンの散布では無いと推察できます》


「じゃ、じゃあさ、私以外にも着陸した生存者が居たということなのかな?」


《それについては非常に確率が低いと思われます》


「ど、どうしてなの? 私が脱出ポッドで着陸したなら補給艦に何かあったってことでしょ? だったら他の生存者が居たっておかしくないじゃない」


《非常に申し上げにくいのですが、その可能性は低いと思われます。まず、検出されたナノマシンは活動を停止しておりました。これはつまり、活動命令を出すような存在が居ないことを示唆しています》


《……更に、これは非常に大きな理由でもあり問題でもあるので、ミロク様が冷静になられている時にご報告するつもりだったのですが……脱出ポッドがオンになり射出されてから、今日で2305年と216日が経過しております》


「……え、え、え、えええ! 嘘だ、う、嘘だ、ちょっと待って、え、そんな、イヤ、え……」


「ああああああああああああああ!!!!」


 混乱して満足に考えることが出来なかった。頭が真っ白になってしまった。

 何が、何が起こったのか。私は一人ぼっちなのか。仲間は部下はみんなはどうなってしまったのか。

 走馬灯のように一気に思いが駆け抜けて、天に向かって叫んでいた。


《生体シグナルが警戒領域に入ったので、沈静化プロセスを開始します》


 リュージュがナノマシンを使い、一気に興奮した私の体を落ち着かせる。

 脈拍を下げ、一気に噴出した脳内物質とホルモンを無効化し沈静化させる。


 電池が切れたようにその場にうずくまってしまった。

 私はナノマシンの作り出した冷静さのなかで、静かに涙を流した。


・・・・・・


 時が流れ、私は静かに立ち上がった。空には夕暮れが近づいていた。

 のろのろと枯れ木や落ち葉を集め、焚き火を作る。

 慣れないサバイバル用の着火キットは上手く使えず、何度もなんども時間をかけて、やっと火がついた。

 調理キットから五徳と鍋でお湯を沸かし、コーヒーを飲んだ。


 気づいたら満天の星空だった。


「リュージュごめんね、なんか自棄になってしまいそうだったけど何とか落ち着いたよ」


《いえ、こちらこそ経過時間という重大な事実をご報告するのが遅くなり申し訳ありませんでした》


「いや、まあ、この時間経過はなかなか報告できないよね」


《……私のAIは利用者の生存を使命としております。この情報は利用者の生存の意義や意思に関わる重要な情報でしたので、報告のタイミングを測りかねておりました。誠に申し訳ありません》


「分かるよ、私も一瞬だけど頭が真っ白になってしまったからさ……救難信号は試してあるんでしょ?」


《はい。この星に着陸した約400年前から現在まで救難信号の発信を続けておりますが、反応がございません》


「じゃあ折角だし、脱出ポッドに記録されてる情報を報告してよ」


 夜の帳が降り、手が届きそうな星空のもと、森の暗闇のなかで焚き火だけが暖かさを放っていた。


 脱出ポッドの記録はこうだった。

 2305年と216日前、私が搭乗してた第六補給艦アンバーで何かが起こり脱出ポッドが宇宙に射出された。

 かなりの緊急脱出だったようで、通常の航行不能などによる脱出であれば記録されるはずの原因や経過を記した脱出命令などのログは無く、緊急により脱出ポッド射出、とだけ記録されていた。

 射出後、数日から数ヶ月は周囲の宇宙空間に同様の脱出ポッドが複数存在して、ポッド同士での位置通信が行われていた。

 それら同様の脱出ポッドも射出角度の違いなどの影響か、徐々に離れていき、私の脱出ポッドは宇宙空間を1900年ほど彷徨うことになる。

 そして400年ほど前、この星の重力に引かれ着陸した。

 着陸後のセンサー情報によると、着陸の影響で周囲は土だけになっていたようだが、時間の経過で森に覆われ、そしてついに脱出ポッドの維持に必要な太陽発電が遮られるまでになった。

 そして、予備バッテリーの残量も少なくなり、私が覚醒した。


 補給艦アンバーに何があったのだろうか? 仲間は無事に脱出したのだろうか? そして救助されたのだろうか?


 私は幸運だったのだと思いたい。様々な天文学的確率を超えて生存可能な星に着陸できたのだから。

 そして見つけた私以外の存在の可能性、活動を停止したナノマシン。

 ……そして、故郷の家族。この任務に就いた時点で家族とは同じ時を過ごせないことは決まっていた。

 しかし今、任務も無くなり遥かな時間を飛び越えてしまった。


 この夜空に輝く星たちのなかに私と家族の故郷がある。


「リュージュ、生き残ろうな」

02/07 修正 句読点


まだ1日目なんですよねぇ。話が進まない。

最初は説明がどうしても多くなっちゃう病。解消したい。


毒味機能

・生体ベースのナノマシンだから可能ってことにしよう

・実際の毒味はパッチテストするんだけど、それを自分の体じゃなく細胞に近いナノマシンで代行する発想

・視覚情報と合わせてデータベースを作成し、最終的には採集する段階で外観で判別できるようになる

・データ収集量は物による。似た外観が多いキノコとかはデータ量凄そう。


地図作成機能

・ナノマシン的チートでミロクの身体データ(身長、体の捻り角度、視線の角度、頭の角度など)から視覚情報と計算し、相互の位置関係を算出

・算出データを多重化することで精度を上げる

・正確なデータは取れないが多重化で精度を上げる手法のため近距離であるほど精度が高い

・遠距離なほど誤差は多くなるが、一目見ただけでの簡単な推測は可能

・手法的に斜度がゆるい場所ほど高さ方向の誤差が多い

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