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意思団結

王女。アルベルカの話を聞き終えた俺達四人はリーフと名乗る少女と共に長い廊下を歩いていた。


「なぁ。なぁ。やっぱ逃げようぜ。こんな世界救っても得する事なんかないって。」


さっきからこんな調子で話し掛けてくるこの男に俺は少々の苛立ちを覚えていた。


「うるせぇな。諦めろよ。逃げるったって何処にどうやって逃げるんだよ?この城の周りには魔属が従えるドラゴンにかこまれてるだろうが。結局のところ対抗できる力とかいうものを身に付けない限りは俺達はここからも逃げれないんだよ。」


「うっ…。」


俺のそんな正論に男は口を尖らせ下に俯く。

そう。力をつけなければ何も始まらない。この世界の英雄になるか云々は置いとくとして。 実際、この城を護っているのもその力のお陰とか言っていた。期待は出来るだろう。問題はそれを習得する期間だが…。


「あっ、あの?」


俺が眉間に皺を寄せて考えていると後ろから聞き覚えのあるオドオドとした声が掛けられた。


「何か?」


返答を返すとその声を掛けてきたツインテールの女はモジモジと頬を赤らめている。緊張している事は一目瞭然。


「はぁ〜。」


俺とて女性。女子との関わりは苦手なのだ。手っ取り早く済ませておきたい。


「何か用?」


ぶっきらぼうに発すそんな声に益々下に目線を落とすツインテール女。正直言って面倒臭い。


「オイッ…」


我慢出来ずに声を荒らげようとしたその時。

「駄目。駄目。女の子にそんな態度じゃ。怖がらせちゃってるよ。お前、モテないだろ?」


俺と彼女の間に馬鹿男が指をメトロノームのように横に揺らし参上した。

モテないだ?ほっとけ。望んでねぇつーの。

「君、名前は?俺は桑野真夜(くわのしんや)。怖がらないで話してごらん。」


ニッコリ笑顔で手を差し伸べる真夜。とんだプレイボーイがいたものだ。


「わたし…私は谷島紅音(やじまあかね)。その…皆の名前とか知っといた方がいいかなって思って…。」


成程。そういう事ね。


「悪かった。俺は篠田遊。」


真夜と同じ様な笑顔は出来ないが手を差し伸べる事は出来る。


「うん。宜しく二人とも。」


はにかんだ笑顔を顔にツインテール女…もとい紅音は俺達二人の手を握った。


「オーイ。そこの眼鏡の君も自己紹介しなよ。」


真夜が数歩先に歩く眼鏡女に手を振り、声を掛ける。


「フンッ。私にはあんたたちと慣れ合う気は無いわ。まぁ、名前は名乗ってもいいけれど。」


此方に来る気配の無い様子。


「私は夜雲美月(やくもみつき)。」


美月はそう言葉を残すと前に振り返り、リーフの後に続く。


「なんだあの女?態度わりぃな。」


真夜が俺達二人に同意を求める。


「確かにそうですけど…彼女。」


真夜の同意を求めるそんな言葉に紅音は言葉を濁らせる。

俺も気付いていた。きっと彼女。美月は世間でいうツンデレとか言う奴なのだ。


「はぁ〜。」

まともな奴がいねぇな。


「ちょっと何、歩行を止めているのですか?ちゃんと付いて来て貰わないと困ります。」

後ろに違和感でも感じたのだろう。リーフが後ろを振り返り頬を膨らませて怒っている。

「たくっ。特にそこの貴方。私にあんなハレンチな姿を見せておきながら…。少しは反省してるのですかね!」


プンスカ。怒る少女の矛先は俺へと向いていた。


「オイ。お前何をやったんだ?あんな発育期真っ只中の少女にお前!?」


「アッ、、、、、、」


真夜に千切れそうな程、肩を捕まれ。紅音に数キロと距離を置かれる。


はぁ〜。

俺もまともじゃねぇか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


長い回廊を終えて俺達は闘技場らしからず場所に辿り着いていた。

広さは東京ドームくらいの大きさはある。観客席なんかも設けられているのを見るに本当に闘技なんかをやってるのかもしれない。


「では、始めますか。」


リーフが何かの準備でもするのか手を光らせたその時。眼鏡の女。美月が挙手した。


「その前に一ついいですか?」


リーフは光っていた手を元に戻す。


「なんでしょう?」


「いえ。少し疑問に思いまして。一応ここは一国の象徴である筈ですよね?」


「ええ、まぁ。そうですね。」


「ならばオカシイじゃないですか?何故この城内には貴女と王妃がいるだけなのですか?他の者等はどこにいったんですか?」


「ええと…実はですね。私以外の者は魔属の撃退に精を出しているのですよ。この城周りを囲う結界では魔属の攻撃を防ぐには限りがありますので。」

リーフは歯切れ悪そうな声で頬を掻く。


「ならば貴女は何故、その者等と行かなかったのです?指導なんてものは王妃自らがご教授なさればいい筈。」


美月がイキイキと声を響かせるのに対してリーフはまたも頬を掻いて答えた。


「それは私以外の者は貴女方の世界に行けないからです。勿論。王妃も例外ではありません。」


「オイオイ。ってことは何だ?お前が俺達をここに連れてきたつーのか?」


それまで黙っていた真夜も話に混ざる。


「ええ、まぁ。私の親がちょっと凄い人だったのでその力が一部だけ私にもあって…まぁそのそういうわけなんです。」


変に自慢するわけでもなくむしろその逆の態度で謙遜するリーフ。


「と言うことは貴女は王妃より力があると?ならば貴女は、なおさら今からでも応戦するべきでは?」


「いえいえ。そんな私なんかがアルベルカ様より上なんて有り得ませんよ。それに私の力は攻撃特化ではありませんので。むしろ足を引っ張っちゃいますよ。」


首をブンブン。全力で否定するリーフの白い髪が左右に揺れる。


「そんな事よりもです。早く指導に移りますよ。」


リーフが再度、手を光に染める。


「なぁ?次に俺の質問いいか?」


俺はそう言葉を口に右手を挙手する。


「むっ。何ですか?」


光に染まった小さな手から光が又も失われた。


「あのさ?日食ってのは何年か一度に起きるようなもんじゃないのか?その度に魔属が世界を牛耳ってんなら今は魔属がこの世界の大半を占めてる理屈になるんだが?」


リーフは少し考えているのか少しの間を空け、口を開いた。


「そうですね。日食は百年に一度、毎年起きると言われています。仰る通りその度に魔属が力をつけていました。」


話を途中で遮った為か全裸を見た事に意識してるのかリーフはムスッとした態度で言葉を続ける。


「しかし、これまで私達、光属が魔属に屈服することはありませんでした。」


そのリーフの言葉には哀れみが含まれたように俺には感じた。


「何故なら魔属がどんなに力をつけようと私達、光属が崇高していた三人の女人には敵わなかったからです。」


「三人の女人?」


俺はおうむ返しにリーフの言葉を復唱した。

「はい。それはそれは強くて美しい方々でした。しかし…」


そこでリーフは唇を噛んだ。それは感情を押し殺しているものだとは容易に想像がつく。

「しかしその女人の中の一人が今年の日食時と同時に魔属側へと手を翻したのです。」


リーフの身体は小刻みに震えていた。それが怒りによるものか、はたまた悔やみによるものかは俺には分からなかった。


「ですから…ですから。私達にはもう貴女方しか頼れないのです。魔属を倒し、女人の中の裏切り者をどうか…」


涙をうっすらと両目にキラメかせたリーフは頭を下げていた。


「分かった。あんたらが俺達を呼んだ理由もこの世界の現状も十分に理解した。」


ボリボリ。頭を掻きながら俺は宣言する。


「急ぎなんだろ?さっさと教えてくれよ。その力ってのを。」


涙を浮かべる少女の頼みを蹴る程に俺は度胸ある人間ではない。どっちみち死んだこの身。 どこで何をしようが誰も咎める者はいない。自分以外は。その自分が認めている。それは俺以外の四人も同感だったらしい。


「まぁ、どっちみち教わらない限りは何も始まらないわけだし…。」


「オオ。よく分かんねぇが女の涙は俺が拭うぜ。」


「私なんかが力になるのかな…。」


一見バラバラに見えるこのパーティーは何だかんだでベストなのでは?不覚にもそう思った。


「皆さん…。」


涙を片手で拭うリーフの目が又も輝く。


「では、まず力の本質について説明しますよ。しっかりついてきて下さいね。」


今度こそ手を光らせボワンッ。という音を鳴らすのに成功させたリーフの手にはペン。真横にはホワイトボードが出現した。

四人の心情が一つになった頃。リーフ先生の力?能力?講座が始まったのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


スラスラスラ〜。と黒のペン先がホワイトボード上に走る。背の低いリーフは椅子の上に足を乗せて一生懸命だった。そんな微笑ましい光景を俺達四人は地べたに尻をつけて見ていた。


「よいしょっ。とっ。」


書き終えたリーフはペンにキャップをはめ、椅子から足を下ろす。


「では、まず。私達が呼ぶ力の呼称について教えます。」


完全に先生になりきっているリーフの高らかとした声がこの闘技場に響く。


「この文字を見てください。」


そうリーフが指し示した文字は『想力』そう書かれていた。


「そうりょく。字のまんま想いを力に代える事を言います。」


「あの?それは想像力がどうとかそういうことなんでしょうか?」


紅音がオドオドトとした動作と声で控え目に手を挙げた。


「そうですね。一概にそうとも違うとも言えませんが想力とは云わば想像力の具現。妄想。念力の特化したものとなります。」


四人の頭に?が浮かぶ。


「論より証拠。では、見ていて下さい。今から私がその力をお見せします。」


そう言ってリーフはこれ迄幾度か見せた光を手に光らす。

ボワンッ。


「これが想力です。私は今、想いを物体に流しそれを手の中へと引き寄せたのです。」


そう言うリーフの手元には小石程の羽の生えた掃除機に似た物体が納められていた。


「そして…」


ボワンッ。


音を鳴らし掃除機は普通サイズの掃除機の大きさへとなって俺達の前に現れた。


「これが基礎的な想力です。想いで物体の大小を操ります。」


リーフはホワイトボードの文字を一つ指差して言う。


「物を操るこの力は操力と言います。そして次です。」


言ってリーフは再度、手を光に包む。

ボワンッ。


「今から想力の四つに分類した力を全て見せていきます。いいですね。」


「オイオイ。」


「さすがにこれは…」


「アッ…アッ…」


「マジかよ。」


俺達四人は口々に言葉を漏らす。何故なら俺達の目の前には全長五メートルはあるであろう、RPGなんかのゲームでよく見るオーガみたいな化け物が現れたからだ。


「では、行きます。」


そう言葉を口にリーフは翼を広げオーガに向かう。

それはまるで小鳥が恐竜に立ち向かう。そんな光景であった。


「ゴーーーーー。」


そんな奇声を上げてオーガは手の木棒を振りかぶる。

だが、そんな高速の木棒はリーフの飛行技術によって大きく空振りした。

ブォンッ!そんな大きな音と強風が木棒から生まれると下の俺達の体は吹き飛んだ。


「「うぉっ!?」」


「「きゃっ!?」」


小さな悲鳴を上げて床に体を叩きつける。


「大丈夫ですか?」


そんな声が空から届く。


「痛っ。あぁ。大丈夫だ…って、お前。前。前。」


叩きついた腰を擦り空からの返答を返す。のは束の間、リーフが目の前のオーガに目を向けていない危機に思わず大声を上げる。


「大丈夫です。見て下さい。当たらないでしょ?」


ブォン。ブォン。確かにリーフの目は此方にあるがオーガの攻撃を全て避けていた。


「なっ…。」


言葉に困っている俺を見てリーフは得意そうに口を動かした。


「これが想いを先読みする力。予知力です。そして次に…」


オーガの一振りを避けたリーフは次に手を光らせ、ボワンッ。ボワンッ。ボワンッ。ボワンッ。と数多くの音を鳴らした。


「スゲェ。」


真夜が俺の横で呟いた。それも理解は出来る。天高いリーフが飛んでいる所。そこにはリーフを中心に幾数の剣が、切っ先をオーガに向けて浮かんでいたからだ。

そして、その刃達はリーフの手が揺れると同時にオーガに迫った。


「オォォォォーーーーー」


全ての刃がその巨躯に突き刺さるとオーガの奇声が闘技場に大きく反響する。

耳を塞いでも鼓膜に振動する大きな奇声。

そんな奇声が収まるとリーフの声が続けて届いた。


「これがさっか見せた操力の応用。更に…」

言って今度はリーフの手に緑色の光が帯びる。リーフはその手をオーガに向ける。


「ゴワァ〜〜。」


すると心なしかオーガが気持ち良さそうに見え、傷が回復している。


「これが相手に想う気持ちを流し、傷を治す治癒力。そして、最後に。」


何のつもりか敵であるオーガを回復させたリーフの体が今度は全体が光る。


ブォォォォォ。そんなリーフに迫る木棒。

しかし、次の瞬間…


ドバッ。


光の柱がオーガの体を包み込んだ。と思った矢先、柱は直ぐに消え空からリーフが降りてきた。


「・・・・・・・。」


口をアングリ。そんな俺達にリーフは片手にペンを持つ。ホワイトボードの文字をグルリと丸で囲みそして言う。


「これが攻撃特化の力。夢現力(むげんりょく)です。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


リーフが自身で呼んだ化け物を消滅させた事で俺達はその力。というものを信じるしかなかった。


「あっ、あのそれ程の力を持ってしても魔属には勝てないのですか?」


初めて動揺の表情を見せた美月が始めに口を開いた。


「はい。力をつけた魔属はそれ以上です。私程度の力ではその魔属が従える飛竜にも勝てませんよ。」


「そっ、そうですか…。」


目の前で見たリーフの力は絶対的なものを俺にも感じた。しかし、それでも魔属というこの世界の敵。俺達に託される敵はそれ以上なのだ。

本当に俺達に勝てるのか?

今さらながらに不安と疑問が体と脳に走る。

「余談はさておき。これから本格的な指導に移ります。」


パンパンっ。両手を叩き意識を自身に注目させる。


コクリッ。


四人皆が緊張を顔に首を縦に動かした。


「いいですね。では、そこの女性二人は私に。男性二人はここに残って下さい。」


「「は?」」


俺と真夜は同時に口を開ける。


「オイオイ。何で俺達だけここに待機?リーフちゃんが教えてくれんじゃないのかよ?」

真夜の訴えに初めて俺も同意した。


「違いますよ。見れば分かりますでしょう。ご自分に生えているその翼をどうぞ見てください。」


「は?翼?」


真夜が口に。俺は黙って後ろを振り返る。


「?何もないぞ?」


見た先には確かに何もなかった。


「そりゃぁ、そうですよ。ちゃんと広げて下さいよ。ほらこうやって背中に意識を集中させて。」


言ってリーフは自身の白色の翼を音を発てて広げる。


「こうやってて…こうか?」


俺と真夜は見よう見まねで背中に意識を集中させた。

すると俺達の後ろで音と共に何かが広がった。 不審と疑問の双方の感情から俺は後ろを振り返る。


「黒っ!?」


見ると俺の後ろには悪魔が生やす黒色の大きな翼が広がっていた。それは隣の真夜も同じだ。


「分かりましたか?貴方方二人は私達とは種族が違います。」


「違う。ってじゃぁ。俺達は…。」


この世界には種族が二属しかないのは説明を受けて俺は知っていた。光属と魔属。なら、必然的に分かってくる。光属では無いと言われた俺達は…


「はい。魔属ですね。それで貴方方二人の指導は同属であるこの方に頼みます。」


理解が追い付けないでいる俺達を無視してリーフが行動を示す。

手を光らせ先程出現させたある物に手を向ける。


「バスチーユ。」

鋭く一言。その物は又も煙に包まれる。

皆が目をそこに集中させる中、段々と煙が晴れ…


「ふぁ〜ぁ。やっとの解放か。もう千年経ったか?」


煙が漆黒の翼で吹き飛ばされる。中から眠そうな欠伸混じりの声が放たれる。


「いいえ。まだ三十年ちょっとです。少し事情が変わりました。この者等の指導を頼みます。」


煙から現れた人物はその短いリーフの言葉で全てを理解したようで言ったのだった。


「あぁ。了解。それでいいんだな。」


掃除機から化けて現れたその悪魔はニヤリと口元を曲げたのだった。




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