初めての客人
「まあ!なんて可愛らしい巫女姫様!」
銀髪の初老の女性が嬉しそうに言った。
「我が君様!私もこんな可愛らしい娘が産みたいですわ!!」
とても子供が産める歳には見えない老女は後ろから来たさらに年老いた男に言う。
二人とも王族の立派な衣と冠を着けている。
門の一つから現れたのは大国の王と王妃だった。
王族には珍しく大恋愛で結ばれた二人は隣り合う二つの国の世継ぎの王子と王女だったが子供に恵まれなかった。
それは陰謀だった。
二人が結婚して二つの国が合わさりより大きな強国になったのを脅威と感じた近隣の国が王妃に毒を盛り、王妃は子供の産めない体となったのだ。
王妃を愛していた王はそれでも王妃と共に歩む事を選び、ずっと王家には世継ぎが居なかったのだが、王の義務として子供をつくらねばならず、王妃も側室を持つ事を進め、隣国の王女が輿入れして来たのが21年前。
それから、ほどなく王子が生まれ、王妃も可愛がっていたのに、王子が二十歳の誕生日を迎えた日、反乱を起こした。
それは、王子があまりにも王に似ていないのを不審に思った忠臣が側室の周辺を調べ始めた直後の事であった。
側室と王子は追い詰めた王と王妃の前で勝ち誇ったように王子が側室の愛人の子であり王の血など一滴も引いていないのだと言った。
そして、王妃の不妊の原因である毒を盛ったのも彼女の国だったと。
「あなたが悪いのですわ!私よりその女を選んで!
だから、大国になりすぎた隣国に頭を抱えていたお父様に言って差し上げたの。
子供ができなければ王妃は離縁になって、国は元のようになるわって。
それなのにちっとも離縁にならなくって・・・。
せっかく私が後添いになってさしあげようと思っていたのに!
側室でも子供が生まれれば私の勝ちと輿入れしてくれば、あなたはほんの数回訪れて来てくださっただけ」
だから、次の月の物が来た後に男を引き入れ子供を作り、月足らずだと言うのにむりやり産んだのだ。
男の子で世継ぎとなり王にも王妃にも可愛がって貰ったというのに幼い頃から自分にだけ懐くように仕向け、王の血など一滴も入っていないことを教え、他人に知られれば殺されてしまうと脅し、自分に都合の良いように育てて二十歳で成人をむかえ、いつでも王位を継げるようになってから反乱を起こしたのだ。
彼女はほんの少女の頃から15も年上の隣国の世継ぎの王子であった王に憧れ、王妃になるのは自分だと思い込んでいたのだ。
だが、彼が別の国の姫を妻に迎えると知って歪んだ。
姫が、当然自分のものであった彼を横合いから奪ったのだと思い込んだ。
彼女の事など、隣国の姫の一人としか認識されていなかったというのに。
周到に計画された反乱はしかし、突然潰えた。
世界が激しく軋んだのだ。
希薄だった神の気配が突然濃くなる。
それはもう、キラキラと輝くように神々が今まで無関心に放置していた世界に舞い戻ってきたかのようだった。
扉が叩き壊されるように開き、王と王妃の忠臣達がなだれ込んでくる。
そのすべてが外交だのなんだのと巧みにあちらこちらに追いやられていた者達だった。
彼らはその瞬間王と王妃の危機を知り、城に戻って来ていたのだ。
中には別の大陸に居た者さえいたのだが、ほぼ一瞬のタイムラグも無く戻って来ていた。
彼は側室一味に冤罪をかぶせられ逃亡を余儀なくさせられていた将軍の一人だった。
数日後、側室一味がすべて殺され、または捕えられた後、監禁されていたのを助け出された老神官が現れ(神々の泉)の復活を告げた。
巫女を得て神々が喜んでいる事を。