門
大小様々な色の泉が点在する空間。
それを取り巻く鬱蒼とした森。
空から見れば人の手の入っていない原生林の中にぽっかりと開いた空間に見えるだろうが、実はこの上空は鳥一羽も飛ぶ事は無い。
人々は神々に敬意を表して飛ばないのだと言っていたがそうではない。
ここは閉ざされた世界なのだ。
もし、空が飛べたとしても原生林の上をいくら飛ぼうと森以外の何も無くて空に開けた空間は(神々の泉)と呼ばれる神殿の前庭だけなのだ。
それを知っている者は私が巫女であった頃でさえ何人もいなかっただろう。
私が知っているのはこの地の本来の管理者である創世の女神様から直接お聞きしたからだった。
人々はどうやってこの地にやって来るのかと言えば中央にある(命の泉)の四方に立つ門と呼ばれるアーチを潜ってだ。
4つの門は4つの世界に通じている。
(神々の箱庭)と呼ばれる平らかなる世界に。
そこでは空の星は燦然と輝く夜空を彩る飾りでありけして別の世界では無い。
幼い頃私は先輩巫女に連れられて4つの門のすべてを潜った事がある。
まったく違う4つの世界は広く巨大で海の中に浮かぶ幾つもの大陸と島々から成っているのだと教わった。
剣と魔法の世界もあれば今世に私が生まれた地球のような科学の発達した世界もある。
中世のままの生活を何千年も続けている世界も。
前世で私の生まれた世界は魔法もない代わりに魔物も居ない牧歌的な中世世界だった。
人々は穏やかな気候に恵まれたその世界に満足して暮らしていたのだが・・・。
人は欲望を一旦持ってしまうと際限が無かった。
寛大な神々は人々を束縛する事もなくただ優しく見守っていたのだが、私の住んで居た村では近くの町の発展と共に作物が高値で売れるようになり山の薪も大量に売れるので一山全部を潰して薪を取り、後は焼畑にしようと考えたのだ。
もちろん反対した者も居たが欲にかられた人たちはそんな少数派の意見など押しつぶし計画は実行された。
村の水源の一つでもあった山は保水力を失い、あの災害につながったのだ。
今となれば当然の結果と分かっているのだが、あの時の人々はそれを神の怒りのように感じたようだった。
両親を失った私はもしかしたら神々に捧げられた生贄の様なものだったのかも知れない。
あの災害の後、人々はもう少し謙虚になったのだろうか?
自然を壊すような真似をすれば自然そのものからしっぺ返しが来る事を理解したのだろうか?
魔法の世界も科学の発達した世界も、人々の長距離の移動は門で行われる。
他大陸や島々、大陸内でも少し大きな町には門がある。
その行き先は複数では無いけれど、門ステーションのような所には必ず繋がっていてそこからならばどこにでも行ける。
まったくの別世界にさえ。
この創世神の創り上げた世界の構成は(神々の泉)を中心として4つの世界がある。
その世界の一つ一つからさらに何本も伸びた道が門によって繋がっている。
宇宙に進出して、宇宙開発、惑星開発なんて事は出来ないけれど無数の神々に祝福された新たなる世界があるのだ。
それらの世界のどこからも中心である(神々の泉)に来る事が出来る。
必要な時、祈れば目の前に門が現れ、こちらに来て、用が済めば同じ場所に戻る事ができるのだ。
私のようにここに受け入れられ定住を決めた者以外は。
説明が多くて退屈でしょうか?