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神々の泉  作者: tamap
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過去3

 前世の私がここに来たのは今の体の年齢と同じくらいの時。

小さな村を襲った災害で両親をいっぺんに失って孤児となり、村も何もできない幼い子供を持て余して何とか生き残ったものの重い傷を負った者たちを(神々の泉)に治療に運ぶ時一緒に連れて来られてその頃の巫女長に引き渡されたのだ。


 両親もたとえ体が半分に引裂けていたとしても生きてこの地にたどり着ければあっという間に癒してもらえたものを、村の半分を押し流す山津波に飲み込まれ遺体すら見つからなかった。

私はあまりにも幼くて両親の記憶はほとんど無く、悲しいと言うよりこの穏やかで美しい場所で甘い果物をもらえたのが嬉しくてはしゃいでいた事をうっすらと憶えている。


 ここで育ち、教育される子供は私一人では無かったが、死ぬまでここに居たのは私一人だろう。

多くの子供たちは少し大きくなると巫女や巫子の見習いとして様々な仕事を与えられ巫女達の仕事を手伝い、大人になった頃ここを出て行く。

ある者は恋をし、ある者は外の世界に憧れ、そしてある者は大人になってから変わらぬ体と生活に倦んで去るのだ。


 昨日と変わらぬ今日。今日と変わらぬ明日。

それに耐えきれず巫女達はこの地を去って行くのだ。

穏やかで優しい生活よりも刺激と興奮に満ちた生活を選んで。


 私はなぜかこの生活がとても好きだった。

刺激に満ちた外界よりも穏やかで静かな毎日が過ぎて行くのが好きでずっとそうやって暮らして行きたかった。


 毎日のように病人や怪我人が運び込まれるとは言え忙しすぎるような事は無く、休みの日だってちゃんとあるのだ。

そんな日は皆でお菓子を作ったりキルトを縫ったり、森の絹蜘蛛から分けてもらった糸を紡いで機織りをしたり、レースを編んだり、はたまた陽だまりでゴロゴロとお昼寝したり・・・。


 基本的にこの地では体を育てねばならない子供以外食べる必要さえ無いのだ。

大人の巫女達は子供達が食事をしている時は軽く果物を摘んだりお茶を飲んだりだけの事が多かった。

もっとも大人の体をしていてもこの地に来たばかりの新米巫女は食事をするのだが、それも時がたつにつれてやらなくなる。


 ああ、そう言えばあの娘はいつまでも食事を所望し食べていたな、と思い出す。

それも飛び切りの御馳走でなくては不機嫌になって、何度注意したことか。

現世を引きずりその生活が抜けきらずずっとこの地で籠の鳥になる覚悟ができていたとは思えないと、今にして思う。

あれで巫女長の生活を強いられたらたちまち破綻してしまうだろう。


 確かに巫女長は外から見る限りは派手だ。

白い衣の長い裾を引き、一番上等な絹蜘蛛の糸で繊細に織られた透けるような薄絹を何枚も重ねた上着を着て、時折訪ねて来る外界の高貴な人々の前でも頭を下げるどころかあちら側から頭を下げられるのだ。

私は500年以上も生きて来た頃からは別に何とも思わなくなっていたのだが。


 その立場に付随した責任があることをあの娘は知っていたのだろうか。

自らの自由と引き換えでもあったその立場だと言う事を判っていたのだろうか?


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