アルケニー洋裁店
約一二〇〇〇字くらいの短編です。
劣化賢者書けよって話ですね。すみません。
一応世界観は劣化賢者と共有してますが、十蔵達は一切出て来ません。
また、微妙に世界設定も違うところがあります。
ファリーアスとは似て非なる世界、位の感じでお読みください。
一部残酷な表現がありますのでご注意を。
6/25追加
タイトルに野菊さんから頂いたイラストを使用させて頂きました。
『アルケニー洋裁店のシオリたん』
URL『http://3278.mitemin.net/i51900/』
か、可愛すぎる……
※連載版として修正、書き足した物を
http://ncode.syosetu.com/n1990bq/
にて掲載していますので、よろしければそちらもご覧下さい。
転生したら半人半蜘蛛の妖女アルケニーだったよ!
うん、何を言っているのか分からないね!
私も分からないよ(泣)
私こと新倉 志織(24)は、市内の生花店で働いていたはずなんだけど……
店内に暴走トラックが突っ込んできたところまでは覚えている。
…
……
…………つまりあれだ。
転生トラックと言うヤツですね!
RPGゲームやネット小説などが好きで、ちょいとオタク入っていた(あくまでちょっとだ! 多分……)私は意識を取り戻してほどなく、今の状況を理解した。
そうか、死んじゃったのか、と。
だって理解せざるを得ない。
私の母や姉妹達は上半身は銀髪の絶世の美女(美少女)。なのに下半身は巨大な蜘蛛、なのだ。
私のRPGの知識と照らし合わせれば、「アラクネ」、「アルケニー」等と呼ばれている半人半蜘蛛の魔物にそっくりだ。
これはどう考えても地球じゃありえないでしょ……
で、前世にたいして未練の無かった私はあっさりとこの状況を受け入れたんだけど……
問題は姉妹達がよだれを垂らして私に襲い掛かってくることだ。
いや、百合とか性的な意味では無くて。
アルケニーは同時に生まれた100匹近くの姉妹で共食いをして、最終的に強い数匹の個体だけが生き残り、次代のアルケニーとなるらしいのだ!
実際、生存競争に勝ち残った姉妹達は敗者の力を取り込んだかのようにより強く大きくなっている。
だけど、日本人の意識を持つ私は姉妹を殺して食べるなんて事は出来なくて……ただひたすら姉妹達から逃げ回っていた。
それでまあ、食事はというと、芋虫やら兎やら山鳥やら掴まえて何とか生き延びてた。
……いくら魔物とはいえ、姉妹を食べるくらいなら芋虫くらい食べますよ。意外と美味しかったし。
だが、当然そんな事をしていれば成長に影響が出る。
前世の意識を取り戻して一月も経った頃には姉妹達は数人にまで減っており、母そっくりの妖艶な美女となっていたのだが、私はまだ幼さの抜けきれぬ……人間で言えば12~13歳位の外見であった。
幼い頃の栄養状態がその後の成長に及ぼす影響というのは莫迦に出来ないものがあると聞いたことがあるが、だとすれば私はこのままロリアルケニーとして生きていかなくてはならないのだろうか。
レベルも(この世界にはRPGみたいなレベルやステータスの概念があるのだ!)姉妹達は軒並み20以上なのに私だけはいまだレベル5……
ただ、姉妹達から必死になって逃げていたせいか、私の逃げ足と回避の上手さだけは姉妹の誰よりも高いレベルにあると思う。
そのお陰で今まで生き延びてきたようなものだが。
だがこのままではレベル差は開く一方……姉達にバリバリと美味しく食べられてしまうのは目に見えている。
なので、私は、一ヶ月を過ごした森の中のアルケニーの巣から……母と姉妹の元から逃げ出すことにしたのだ……
「やっぱり逃げるなら人間の街かなー」
私はひたすらお尻から糸を出し、その糸を下半身――蜘蛛の前腕の間に張っていた。
ある程度の幅になると、今度はその横糸の間を縫うように縦糸を通していく。
しゅるしゅると出るアラクネの糸は私の意志である程度自在に動くので、機織り機など無くてもきっちりと織られ、布になっていく。
……人の街に逃げるなら全裸はまずいだろうと思い、服を作ることにしたのだ。
絹だって元は蚕の糸だし、蜘蛛の糸でも布が作れないかなーと思ったら、意外と簡単に出来て吃驚した。
それどころか、私の糸は粘着性の有無も調整でき、下手なワイヤーよりも強靱で絹よりも滑らかなので、考えてみれば外出着にぴったりである。
等と考えているウチに布が織り上がる。
1メートル×0.6メートル位の大きさだ。
「これで、えーと……4枚目か。足りるかな」
私は事前に作っておいた同様の布を手に取ると、それをナイフのような爪で必要な大きさに切り、粘着性と速乾性を持たせた糸を接着剤代わりに他の布と貼り合わせていく……と生成りのワンピースの完成である。
流石に染色までは出来ないが、それは贅沢というものだろう。
「うん、上出来上出来……」
マタニティタイプのワンピースみたいに、腰から下がダボダボなのは、アルケニー本来の姿でも人化した時でも破かずに着れるように作ったからだ。
それでも結構布が余ったから、バッグでも作ろうか。
旅用の丈夫で大きめの……背負えるタイプが良いかな。
後は食料。森を出れば狩りで食べるという訳には行かないので、血抜きした兎を3羽ほど私の糸で繭状にして持って行く。
防腐剤代わりにもなるアルケニー糸マジ便利。
……母などは自分を倒しに来た冒険者を糸でパッケージングして保存食にしているほどだ。
ん、準備はこんなものかな……
それでは今生のお母さん、生んでくれてありがとう。
お姉様方……食べられてあげられずにごめんなさい。
私は1人でも強く生きていきます……
私は母や姉妹達が居る巣の方に向かって一礼すると、手作りのバックパックに食料と服を入れて森の外へと向かって歩き始めた……。
※
――母&姉妹SIDE――
そんな志織を巣の中からその超視力で見つめる影が数匹。
「娘達よ……シオリは行ったかい?」
「ええ、母様……やっと出て行ったようですわ」
「ううう、シオリたんが……シオリたんが……」
「泣かないでお姉様……このままここに置いていたら……襲っちゃうもの」
「うん、私も自分の本能にあらがう自信ない……食欲面でも性欲面でも」
「あのぷにぷにの肌! きらきらのお目々! ぷるんとした唇! まさに青い果実! 同い年なのに……ああ、やっぱり1回味わってからにするんだった!! 主に性的に!」
種族的に男性の生まれないアルケニーは、子孫を残す時には人族の男をさらってきて種を搾り取る。
それ以外の性欲の解消は必然的に同族同士、同性同士となる。
つまりアルケニーは一族総レズビアンなのだ。
おまけに母の遺伝子をほぼ100%受け継ぐのでクローンのように皆同じ姿となる。
その点、シオリの外見は姉妹達とは明らかに違っており……あどけない美少女といったその容姿は姉妹らの眠っていたロリコン趣味を誘発し、過激な愛情表現につながったのであった。
だが、同時に弱者は食料、という本能もあり、このまま巣に置いておけばいずれ我慢が出来なくなった誰かがシオリの命を奪うだろう。ならば……と、シオリが出て行くのを黙って見送ったアルケニー一家なのであった。
※
――志織SIDE――
私は森の中をアルケニー形態で進んでいた。
華奢な上半身と違って、蜘蛛の下半身はたくましく大地をえぐり、その8本の足で森を駆け抜けていく。
疲れもほとんど無いし、上半身にも不快な揺れはほとんど伝わってこない。
決して足場の良いとは言えない森の中をこれほど快適に進めるのは、やはりアルケニーの8本の足のお陰なのだろう。
私にしてみればちょっと早足、くらいの感覚で足を動かしているのだが、景色はどんどん流れていく。
自転車くらいのスピードは出ているかな。
姉妹の中でも出来損ないの私がこれなんだから……アルケニーの身体能力半端ない。
……そういえば、人間形態でも身体能力って高いままなのかしらん。
うーんと、とりあえず能力やスキルの確認でもしましょうかねぇ……
人間の街で暮らすなら、そこらへん明確に把握しておかないと、なんか失敗しそうだし。
アルケニーとして生まれて一ヶ月、正直今まで姉さん達から逃げるのに必死で、能力なんてよく確認してなかったし。
ちょっと右手の指先に力を入れて『触覚糸』を起動させる。
すると、するすると目に見えないほど細い糸が一本、私の人差し指から伸びていき、その先端が私自身にぴたっとくっつく。
途端に私の脳裏にまるでゲームステータスのように浮かぶ、私自身の情報。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
氏名 志織・アルケニー 24歳 女性
総合レベル 5
種族 アルケニー
クラス 仕立屋
HP 90(MAX90)
MP 65(MAX65)
ステータス基本値(LV補正)(捕食補正)
STR 25 (35) ()
VIT 25 (35) (+1)
DEX 18 (25) (+1)
SPD 18 (25) (+10)
INT 13 (18) ()
MID 13 (18) ()
称号
機織り姫
固有スキル
魅了、糸、柔糸、回避率上昇(大)、逃走率上昇(大)、
触覚糸、ウェブシールド、裁縫、機織り
捕食、人化、気配察知、
再生、4連撃(人形態不可)
装備
アルケニーシルクのワンピース
アルケニーシルクの鞄
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これは私が本能で使えた数少ないスキルで、もちろん他人や無機物にも使える。
食べ物の毒の有無等も分かるので、この一ヶ月のサバイバル生活中、一番お世話になったスキルかもしれない。
どうも、こういう風にゲームステータスっぽく見えるのは私の認識に合わせての事らしく、姉さん達は同じ触覚糸を使っても、もっとおおざっぱにしか分からないらしい。
……まあそれはともかく。
クラス 仕立屋って……ああ、ワンピース作ったからか……
おまけにスキルに『裁縫』『機織り』があるし……これならなんとか街でも働けそうね。
そう言えばアルケニーって、地球の神話だと「神様より機織りが上手い」って自慢して、半人半蜘蛛にされたんだっけ。
なんか関係あるのかもね。
「『回避率上昇(大)』、『逃走率上昇(大)』は、姉さん達から逃げまくってたせいかな。『捕食』ってのは……?」
いまいち効果が分からないので『捕食』に意識を集中すると詳細が表示された。おお、便利。
えーと、何々……
『魔力を持つ生物を食べた場合、ある程度ステータスが向上する(恒久)。また、新たなスキルを覚える場合がある。より強い魔力を持つものを食べると上昇率も高い』
おー……凄いチートっぽい能力。
それでかー……おねーさま方と私の差は……
あっちは同族の……魔力バリバリ持っているアルケニー同士で共食いしているんだもんな、そりゃ強くなるよ……
あ、でも私もステータスに捕食補正がちょっと入っているな。
……と言うことは、私がただの山鳥や兎だと思って食べてたのって、魔物の類だったのかしらん。
まあ、でも人間の街で生活するなら魔物を食べる機会なんてそうそう無いだろうし、気にしないでいいか。
後は……『再生』は文字通り時間経過で傷が治る能力。時間を掛ければ腕の一本くらい生えてくるらしい。
流石半蜘蛛。これは医者いらずで助かりますね。
問題は人化した時にどれだけこれらの能力が残っているかということだけど。
「まあ、実際試してみるのが手っ取り早いですねぇ……んしょっと」
人になーれ、人間になーれ……と念じると、すすすす……と下半身が縮んでいき、すべすべの2本の足になる。
更には額に赤い宝石のように輝いていた6個の眼(蜘蛛だから全部で8個の目があるのだ!)も、とぷん、と体内に沈んで消える。
「うわー……視覚せまっ!人間ってこんなに視覚せまかったっけ……足も……なんか安定感無くて頼りない……」
どうも私は自分で思うよりこの一ヶ月でアルケニーの体に慣れてしまっていたようだ。
「で、ステータスはと。『触覚糸』……うーん……気配察知と4連撃が人の体だと使えないのか。額の目や蜘蛛の足に依存するスキルなんだろうからしょうが無いか。他には……STRとVITが25から18になってる……結構落ちてるなー……でも人間の女性ならこんなもんか」
ブツブツと独り言を言いながら森の中をステータスを見ながら歩く。
前の世界なら確実に不審者だ。
そんな私の耳に、それが聞こえてきたのは、更に10分ほど経った頃だった。
「……これって……剣戟の音?」
遠く響いてくる鋼同士の打ち合う音。
こんな森の中で鍛冶屋でも無いだろうから、人型種族同士の戦闘と考えて良い。
「うーん、どうしよ。介入するべきかな」
この姿じゃ爪とかの武器も無いから、介入するにしても糸で縛って動けなくするくらいしか出来ないけど……事情も分からないし。
とりあえずもう少し近付いて様子を見ようか……
「音の聞こえた方はこっちだったな……うーん、人間の足だと裸足じゃ歩きにくいなぁ……後で糸で靴も作らなきゃ……けぷっ!?」
などと考え事をしながら歩いていると、いきなり私は薮の中から伸ばされた太い腕に首を絡め取られていた。
そのまま、その腕の持ち主に抱きすくめられる。
「お頭ぁ!こんな所にも隠れていやしたぜ!」
私を捕らえた男はそう大声を上げて街道の方に手を振った。
そう、いつの間にか私は森の中を通る街道の近くまで来ていたのだ。
しかし、こいつ……野太い声に据えた匂い。ぼろぼろの革鎧に目の前に突きつけられた短剣。
はい、どう考えても山賊か人さらいの類ですね。
とするとこの男が合図したお頭とやらは山賊の頭か何かか。
「おう! でかした! ちぃっとガキだが、その手の趣味人には高く売れそうな上玉じゃねぇか!」
「やっ! やめなさい! その人は関係ありません!」
そう私を庇う声をあげたのは、20代前半に見える上等な服を着たブラウンの髪の美女。
その美女も大柄な盗賊に右手を捕えられている。
ざっと見て……盗賊は5名位。
美女の周りには護衛だったのだろう、武装した男が3人倒れ伏している。
「……ええと……状況を確認したいんだけど、あなたたちは盗賊か人さらいの類で、そちらのお嬢様を拉致している途中ということで間違いない?」
一応確認しておかないと。顔だけで善悪を判断するのもなんだしね。
「ぶっ……ぶははははは! 良い度胸だな娘っこ! それとも怖すぎておかしくなったか?」
「……答えて。間違いない?」
「いひゃひゃひゃ……そうだよ!俺たちはなぁ、泣く子も黙るドーエ盗賊団よ! 分かったら諦めておとなしくしてろよなぁ……大人しくしてりゃ優しく俺が味見してやるぜぇ……ぎゃはははは!」
「け、ナージン、てめぇの趣味は相変わらずだな」
「お、おりゃあこっちの女の方が良い」
お頭、と呼ばれた男の代わりに、私を捕まえていた男がぺらぺらとしゃべってくれたので助かった。
これで心置きなく反撃できる。
なので早速指先から糸を伸ばして私を掴まえていた男の首を縛る。
「くきゃ!?」
男は何が起きたのか分からない様子で、急に息苦しくなったのどをかきむしる。
もっとも私の糸は目を凝らさなければ見えないほど細いし、それでいて強度は並のワイヤー以上にある。
素手で切ろうとしても無理だ。
私は青い顔をして泡を吹き出した男を尻目に残りの4人の方へと踏み出す。
「お、え?お前何をしやがっ……くきゅ!?」
「はひゅーはひゅー」
「いひ、いひができなひ……」
「くっ!てめぇぇぇぇっ!喰らえ!」
流石に私が何かをして部下達を倒したことに気が付いたのか、4人を倒したところで1人残った盗賊の頭は問答無用で背後から私に長剣を叩き付けた。
流石にその衝撃に私は吹き飛ぶ……が、思ったほど痛みは無い。
ひょい、と立ち上がって盗賊のお頭の方へ向き直ると、勝ち誇った表情だったお頭が、ぽかんとした表情になる。
「……な、なんで切れねぇ!? 鉄の鎧も切り裂く鍛造仕立ての剣だぞ!」
戸惑ったような盗賊の頭の声。
元々この世界のアルケニーの魔物としてのランクはかなり高い。
母さんなど高レベルの冒険者を返り討ちにして食料にしているくらいだ。
そのアルケニーの糸で作った服は結構な防御力を持っていたようである。
かといって服である以上完全に衝撃を殺す訳にもいかず、多少痛いことは痛い。
なので、盗賊のお頭さんにも糸で頸動脈と気道を締めてお仕置きを敢行。
「へくっ」
あ、落ちた……くそう、もっと苦しめてから落としてやろうと思ったのに。
「あっ、あのっ……ありがとう御座いました! 魔術師様!」
あ。奴らに捕まってた女性がいたんだっけ。忘れてた。
「いえいえ、お気になさらず……あと、私は魔術師じゃなくて一介の仕立屋です!」
「仕立屋……さん? え?」
私の自己紹介に、混乱する女性。まあ普通は仕立屋が盗賊退治なんてしないよねぇ。
盗賊に続いてその女性もが呆けた表情になったのだった。
※
ブラウンの髪の女性はアイゼ・フォーレンと名乗った。
森の近くのリハクの街の豪商の娘で、隣村との取引の帰りに盗賊に襲われたらしい。
私が「森の奥で母と住んでいたが、母が病で亡くなったので街に出て来た」と適当な出任せを述べると、いたく同情してくれた。
戦闘能力の高さも元冒険者の母から仕込まれた、と言うとあっさり納得してしまった。
……ということは、冒険者とかこっちの世界には居るのか……まあ、母さんによく挑んで返り討ちになってた人達が居たからそうかなーとは思ったけど。
それで、私が街で働きたい、と話すと、新しく街に住むには保証人がいるので、良ければ自分が保証人になるという。
うんうん、人助けはするものだ。
で、それだけではとてもお礼にはならないから、と……街に入った途端そのままフォーレン家に連れ込まれて、ただいま私はフォーレン家の食卓でご馳走責めにされている。
「いや、アイゼが危ないところを助けて頂いたそうで、なんとお礼を言っていいか……あ、そちらのホーンドウルフの肝焼きは絶品ですぞ! レッサードラゴンのテールステーキもいかがかな?」
「本当に……我が家は、子供はこのアイゼだけなので……危うくフォーレン家が断絶してしまうところでした。ああ、鬼熊の手のスープ、薬膳にもなるそうですよ。召し上がって?」
「本当に……シオリ様にはいくらお礼を申し上げても足りませんわ! ああ、ワイバーンと海竜のミックスハンバーグも絶品ですわよ?」
うん……なんというか。
フォーレン一家はそろいも揃って下手物食いの趣味があるようで。
金に飽かせて集めたレア食材を惜しげもなく私に振る舞ってくれるのですが……
いや、私も腐ってもアルケニーですから?
蛇だろうが狼だろうが食べるのに抵抗はないのですがね。
ただ、さっきから私のスキル『捕食』が反応しっぱなしなのですよ。
このスキルって自分で狩った獲物じゃ無くても効果あるんだ……
一通りディナーを終えた頃には私のステータスはレベル7(盗賊を倒した分上がってた)にもかかわらず恐ろしいことになっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
HP 126(MAX126(捕食補正+960))
MP 78(MAX 78(捕食補正+490))
ステータス基本値(LV補正)(捕食補正)
STR 18 (33) (+399)
VIT 18 (33) (+460)
DEX 18 (33) (+405)
SPD 18 (33) (+335)
INT 13 (21) (+124)
MID 13 (21) (+226)
獲得スキル
竜鱗化、威圧、水中呼吸、剛力、疾風、鋼糸、
ファイアーブレス、ウォーターブレス、
炎属性耐性、水属性耐性、風属性耐性、地属性耐性……etc
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いや、別に私、勇者とか目指さないからね!?
ごく平々凡々な一般市民でいいの! 街の仕立屋さんで!
うん、こんなステータスは人には見せられないね……見せたら絶対「魔物討伐に」とか「王家に士官」とか最悪「研究材料に」なんてことに巻き込まれる。
こんなステータス見なかった。うん。
食事を終えて、私があまりのステータスに眼を回していると、アイゼさんが私ににじり寄りながら話を振ってきた。
「……それで、シオリ様は街で何をされるのですか? もしご予定が無いならこのまま……」
……なんか背筋にゾゾゾっと悪寒が走る。姉様達に追いかけ回されていた頃によく似た感じだ。
アイゼさん、なんでそんな頬が紅潮しているんですか。というか私の腿にそっと置かれたこの手は?
「い、いえ、盗賊退治の報奨金も頂いたことですし、これを元手に仕立屋をしたいと……」
「……まあ、そうですの……残念ですわ。でもそれなら私達の方でもお店の宣伝にご協力しますわね!」
「は、ははい。ありがとうございます……」
こうして、私はリハクの街で仕立屋を開業することになったのだった。
※
あれから3ヶ月。仕立屋の経営は順調と言えた。
アイゼさんから安い賃貸物件を紹介して貰い、それに木の看板を掲げただけの小さい店舗だったが、アイゼさんが盗賊の一刀に堪えた私のワンピースのことを冒険者ギルドで吹聴したおかげで(盗賊に倒された護衛は冒険者ギルドから雇った人達だったらしい)開店初日から冒険者の方々が大挙して押し寄せたからだ。
とは言っても、私の作れるのはアルケニーシルク製の布製品だけなので、お客様は後衛職の方が主な客層みたいだけれど。
最近は、客足もやっと落ち着いてきたけど、それでも十分に営業利益がでている。
縫製は私1人だけだし、冒険者の方が求めるのはほとんどオーダーメイドなので数も作れないけど、材料費はただみたいなものだしね。
「へえ、ここが最近話題の服屋か」
「そうよ。下手な硬革の鎧よりも 防御力はあるし、支援魔法のノリもいいし、何より安いし! 私みたいな中堅後衛職には最適のお店ね!」
お店の扉を開けて入って来たのは冒険者らしき男女。
女性の方は最近ローブを仕立てて納品したお客様だ。
リピーターって事ね。いやいやありがたい。
「ふーん、でも所詮、布防具だろ? 多頭蛇の革鎧や竜鱗の鎧は置いてないよな?」
「無茶言わないでよ、ここは布製品専門のお店よ?」
「ち、やっぱり自分で狩ってこなくちゃダメか……使えねぇな」
……あ、いまカチンときた。
それは挑戦ですか。挑戦ですね!?
私はまだ少年の面影を残す、おそらく戦士であろう冒険者ににっこりと笑みを浮かべて話しかけた。
「お客様、品揃えが悪く、申し訳ありません……しばらく……一月ほどお時間を頂ければ新製品も入荷の予定ですので、またのお越しをお待ちしております」
「う……え!? あんた……ここの店、主……?」
「はい、このアルケニー洋裁店、店主のシオリ・アルケニーと申します。お見知りおきを」
顔を真っ赤にしてぼー……っと私を見つめる冒険者。こやつロリ趣味か。
まあ、私は外見年齢13歳、実年齢生後4ヶ月、精神年齢24歳という訳の分からない存在だから、その辺はスルーしてあげよう。
「ああん! もう! そんな唐変木の言う事なんて気にしないで、シオリちゃん! 相変わらず可愛いんだからっ」
後ろからおそらく魔術師であろう女冒険者に抱きすくめられてほおずりされる。
こういう時は同性だけに遠慮が無くて逆に始末に負えない……
「おきゃ……お客様ふっ……おちちゅふぃて……もふっ」
女冒険者にもふり倒されながら私は、「早く店を大きくして従業員を雇おう」と決心していた……
※
リハクの街の東に広がる『魔獣の森』
ここに私は三日前から潜っていた。
ここにはレッサードラゴンやヒドラだけでなく魔鋼亀や銀牙狼等の防具の素材としては超一級の魔物達が生息していると聞いた為だ。
レベル7とはいえ、私のステータスは『捕食』のおかげで実質Sクラス冒険者並みなので、本来の――アルケニーの姿に戻れば、ここらの森の浅いところでは敵は居ない。
更には、倒した獲物の肉は素材には使わないので、私の胃袋へと直行する事になる。
結果、ますます私は『捕食』によって強化されていく。
今はもう母上様より強い……と思う。
私が生まれた森にはあまり強い魔物って居なかったから、姉妹同士で共食いした以後は成長率は割と緩やかになるからね。
「ふーむ、森の浅いところでは流石に銀牙狼や火炎狐程度しか居ないか……そろそろ深部へと潜ってみるかな……十分レベルアップもしたし」
触覚糸を起動してステータスを確認する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
氏名 志織・アルケニー 24歳 女性
総合レベル 38
種族 アルケニー
クラス 仕立屋
HP 684(MAX684(捕食補正+1130))
MP 254(MAX254(捕食補正+595))
ステータス基本値(LV補正)(捕食補正)
STR 25 (118)(+440)
VIT 25 (118)(+510)
DEX 18 (85) (+610)
SPD 18 (85) (+490)
INT 13 (61) (+320)
MID 13 (61) (+390)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータスが上昇した他に『狐火』『噛み付き』のスキルも覚えていた。
この二つは人形態でも使えるみたいでありがたい。
……うん、これなら深部のレッサードラゴンやヒドラも単体で狩れるな。
もう2日ほど狩ったら店に帰って制作に入ろう。
ふっふっふ、見ておれ~
これで後衛職だけでなく前衛職までも顧客に取り込んでくれる……
目指せ街一番の仕立屋!
……なんか仕立屋というよりは防具屋に近くなって行ってるけど……
※
魔獣の森から帰って、更に3週間を作品の制作に当てたが、なんとかあの冒険者に言ったとおり一ヶ月以内に新製品のお披露目と相成った。
そして私の目の前には多くのお客様に混じってあの冒険者が呆然とした顔で店の陳列台を覗き込んでいた。
「多頭蛇の革鎧に竜鱗の鎧……おまけに幻の魔鋼亀のブレストプレートだとう……?……おまけにこの値段……相場より3割以上も安い……」
「ふふ、お客様、お目に叶う品はありましたでしょうか?」
「あ、ああ……店長さん……これ、『鑑定』していいかな?」
「はい多頭蛇の革鎧と魔鋼亀の胸当てですね。どうぞ手に持ってお確かめください」
ちなみに『鑑定』は非生命体のステータスや詳細を見抜くスキルで、冒険者には必須と言われているものだ。
私の許可を取ってから多頭蛇の革鎧と魔鋼亀の胸当てをそれぞれ鑑定する冒険者。
「……偽物じゃない、な……おまけに耐久性が普通の物よりかなり高い……これでこの値段!? どうやっているんだ」
ふっふっふっ、既製品とはひと味違う当店の高品質鎧を見て驚くが良い!
こういう高品質素材を使った鎧が真っ先に壊れるのはプレート部分じゃなくて、革の留め具や留め糸の部分だ。
私はそこに目を付け、耐火耐水性に優れ強度もある私の糸で留め具や留め糸部分を作ったのだ。
結果、防御力だけじゃなく耐久性にも優れ、メンテナンスフリーな高品質防具となったのだった。
おまけに素材は自分で調達しているから、安く出来るし。
「……ka……う」
「……はい?」
「買うぞ! これとこれとこれ! ええい、買えるだけ買っちゃるーーーーっ!!」
「はい! まいどーーーーっ!!」
ふふふ、勝った! せいぜい私の店で散財するが良い!
これで街一番の仕立屋の名声ももうすぐよ!
※
……と思っていた時期が私にもありました。
「ふむう……最近評判の店と聞いてきたがこの程度か」
……あれ、なんか既視感?
「確かに上級防具は良い品質の物が揃っているようだが、真の一級品ならば、せめて真竜の鱗を使った物が欲しいな……それにローブなら神鳥レミーアの羽毛を使った物が最上よ……これでは、とてもとても魔竜を退治するのに着ていくには不安が残る」
こちらをちらちら見ながら、私にに聞こえるようにつぶやく一人の騎士。
くっ……ぬっ……やってやるわ。やってやるわよ!
街一番どころか大陸一の店にしてやるわ!
「お客様、品揃えが悪く、申し訳ありません……しばらく……一月ほどお時間を頂ければ新製品も入荷の予定ですので、またのお越しをお待ちしております」
「ほほう、真竜やレミーアはグリーンロード地方の竜牙山にしか棲まないと聞くがな。素材を入手できる当てがあると見える……楽しみに待つとしよう」
「はい、きっとご期待に添えるでしょう」
本当は当てなんてないけどね! 売り言葉に買い言葉というヤツですよ!
その、竜牙山とやら、一ヶ月……作成の期間もいるから3週間か……で、行ってこれるかなぁ。
※
一ヶ月後。
私は満身創痍になりながらも、なんとか再々開店にこぎ着けた。
蜘蛛足の1本を失いながらも何とか真竜とレミーアを打倒し、素材を手にしたのだ。
まあ、足程度なら時間を掛ければ再生するからかまわないんだけども。
更に、このことで私のレベルは58まで上がり、それに加え真竜の肉とレミーアの肉を食べたことでステータスは見るのもばからしい数値になっている。
その高ステータスを駆使して、三日で新製品30数着を作り上げた。
流石に三徹は辛かったが、その甲斐あって、例の騎士もいたく満足されたようで、一ヶ月前の礼を失した物言いを謝り、言い値で『真竜の鎧』と『神鳥のローブ』をお買い上げになった。
そのお陰で当商店の資金もかなり潤沢である。
そろそろより広い物件に移ったり、従業員も雇って良いかもしれない。
専門のデザイナーなんか雇って、デザイン段階からこだわりを取り入れたりして……
――と、私がそんな将来設計を脳内で描いていた時だった。
ぎぃ、と、店の扉が開いて最近噂の勇者のご一行が店内に入って来た。
そして店内の品を一瞥すると、ぼそり、と宣った。
「……やっぱり店売りの装備はこんなもんか。これ以上の装備はドロップアイテムを狙うしかないかなぁ……魔王と戦うには厳しいな」
ふ。
ふふふ。
ふはははははははははは!
良いでしょう!
揃えてやろうじゃないですか!
魔王に立ち向かえる装備を!!
「勇者様、必ずお買い上げ頂けるというのであれば、一ヶ月でお望みの物をご用意いたしましょう」
「……なんと! 分かった、約束しよう、期待している」
そして一ヶ月後
私は勇者に『魔王のマント(改)』『魔王のブーツ(改)』『魔王の服(改)』『魔王のズボン(改)』のスーパー防具4点セットを適正価格で売りつけた。
まあ、これらの素材は名前からして推して知るべしである。
もはや使い道のなくなったそれを勇者は呆然と受け取っていた……
――――終――――
1回ちゃんと完結した話を書きたかったんです。
どうでしたでしょうか。
詰め込みすぎて消化不良な気がしないでもありませんが。
感想を頂ければ幸いです。
あと、最終ステータスがみたいとのコメントが多かったので蛇足ながら……
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氏名 志織・アルケニー 24歳 女性
総合レベル 69
種族 アルケニー
クラス 仕立屋
HP 1725(MAX1725(捕食補正+3230))アルケニー形態
HP 1242(MAX1242(捕食補正+3230))人形態
MP 449(MAX449(捕食補正+1308))
ステータス基本値(LV補正)(捕食補正)
STR 25 (195)(+999)
STR 18 (140)(+999)※人形態
VIT 25 (195)(+999)
VIT 18 (140)(+999)※人形態
DEX 18 (140)(+999)
SPD 18 (140)(+690)
INT 13 (101)(+605)
MID 13 (101)(+710)
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称号
機織り姫、支配せぬ支配者、職人王
スキル
魅了、糸、柔糸、鋼糸、裁縫(極)、機織り(極)
防具作成(上)、回避率上昇(大)、逃走率上昇(大)
触覚糸、ウェブシールド、捕食
人化、気配察知(人形態不可)再生、4連撃(人形態不可)
竜鱗化、威圧、水中呼吸、剛力、疾風
ファイアーブレス、ウォーターブレス、シャイニングブレス
狐火、噛み付き、飛翔術、精気吸収、精気付与
魔光、魔気放出、魔獣支配
炎属性耐性、水属性耐性、風属性耐性、地属性耐性、闇属性耐性
装備
アルケニーシルクのワンピース(改)
アルケニーシルクの鞄(改)
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ちなみに魔王のレベルは150~200
勇者のレベルは100~120
アルケニー母のレベルは30~40
シオリが勝てたのはひとえに捕食補正のお陰ですね。