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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トトアンジ

作者: himmel

こちらは画像投稿サイト「みてみん」でいつもお世話になっています谷町クダリさんのキャラクターをお借りした短編小説です。


※口調などに加え色々と説明不足の感はあると思います。




 ――くだらねぇ

 

 自分で言うのもなんだが、悪知恵と逃げ足の速さだけは自信があった。それがつまらねぇ事でトチってこの様だ。

 油と脂と便所臭ぇボロボロの工場で、芋虫みたいにロープで拘束されて眉間に銃口を突き付けられている、なんともくだらねぇ状態。周りから悪党だゴロツキだのと言われていた奴の最期なんて案外こんなもんなのかもな。


「テメェ、何笑ってんだっよ!!」



 思わず自嘲してしまったのが目の前で拳銃を額に突きつけてくれやがってるクソデブの怒りに触れたのか、右頬をグリップの部分で殴られる。

 痛ぇ……。

 殺すつもりならさっさと殺せよ。わざわざ甚振ってんじゃねぇよ、だからお前はいつまで経っても三流なんだよ。そんな言葉の代わりに血の混じった唾を吐く。


 一発殴って気が済んだのか、それとも俺の今の姿があまりにも惨めて満足するに値したのか「それじゃあな」とクソみてぇな嗤いを浮かべながら、再度額に銃口を突きつけられた。

 撃鉄が起こされ、トリガーに人差指がかかるのを目の前で見せつけられる。

 あと数秒もすりゃ破裂音が響いて、火薬の臭いと俺の血の臭いが辺りに充満するだろう。そんで脳味噌ぶちまけた俺は其処らに転がる生ゴミよろしく、犬の餌にされて糞にでもなるのが運命ってところか。


 ――あぁ、本当にクソくだらねぇ


 そして銃声が響いた。

 火薬の臭いと血の臭いが辺りに充満し始める。しかしそれは――


「はぁ?」


 俺の血ではなく、今までクソみてぇな嗤いを浮かべてた奴の物だった。

 リーダー格だったデブが脳天から血を散蒔きながら倒れる様に、周りでニタニタと傍観していた取巻きたちが急に騒がしくなる。

 暴発か? しかしそんな思いも次々と響く銃声と同時に断末魔すら上げずに倒れていく男たちの姿で消え去る。

 明らかにこいつらを殺している奴がいる。


 徐々に人数を減らしていく男たち。

 例えどれだけ動いたところで、確実に撃ち抜かれる脳天。

 必死に奴らも相手の姿を探すが、どこから撃ってきているのかも分からない状態。

 続く一方的な殺戮。

 響く響く響く響く銃声。


 そうして数秒が経ち訪れたのは、静寂だった。

 そこには俺の息遣いしかない。この場にいるのは何処に向けているかもわからない虚ろな瞳をした"物"と俺だけ――


 ――カツ


 否、もう一人いたか。

 さっき殴られた頬が痛むのに構わず口元を歪ませる。


「よう」

「……」


 軽々しい態度で話しかけるが、奴さんは少しも表情を変えず俺を見下ろす。まぁ、最初から何かしらのリアクションを期待していたわけじゃねぇが。


「助けてくれたついでに、このロープも切ってくれやしねぇか?」

「……別に助けたわけじゃ」

「あんたがどういう意図があってこうなったのかは知らねぇが、俺にとっちゃ結果として助けてもらったことになるんだよ。それとも何かい? 俺も殺害対象だったか?」

「いや。でも護衛対象でもない」


 なるほど、こいつにとっちゃ俺なんか死んでも死ななくてもどっちでもいいってことか。

 瞳には光がない。

 死んだ物には興味がなく、生者にも関心がない。

 きっとこいつは自分の生にすら興味がないのかもしれない。

 ならこいつは何をもって心臓を動かしているのか?

 息をしているのか?

 四肢を動かしているのか?

 そして、――銃を握るのか? 


 ――あぁ、知りてぇな。

 さっきのくだらねぇ状況から一転して俺の心は踊る。


「まぁ、そんな冷たいこと言うなって。どういった経緯であれ、助けたつもりがなくても一度は命を救ってんだ、ロープ切って自由にすることくらいソレに比べちゃ屁でもねぇだろ? もしかすりゃ、開放した瞬間に襲いかかるかも、って思ってんならそりゃ思い込みすぎだ。こうやって捕まってる時点で武器なんざ持ってねぇし、それに俺はこと喧嘩に関してはからっきしでな。最悪知り合いのガキにも喧嘩で負けるくらいだ」

「……」


 キレた口の痛みも気にせずケラケラと笑う俺の言葉に何か考えるように、顎に手を当てて視線を虚空へと移す。そして数秒そうしていたかと思うと、徐ろに拳銃を取り出した。

 って、おいおいおい殺すのかよ?! このタイミングで!?

 なんて取り乱すことはない。

 次の瞬間撃ち抜かれていたのは、今まで俺を縛めていたロープだった。


「ふぃー、殺されるかと思った」


 冗談。もしこいつが俺を殺しているのなら間違いなく、辺りに転がってる"物"と一緒に問答無用で殺されている。それをしなかった時点で俺が殺されることはなかった。まぁ、減らず口を叩いたことで殺される可能性もあったが、こいつの瞳を見る限りそれも万が一の可能性だろう。

 ようやく窮屈な状態から開放されると、立ち上がって軽く跳ねてみた。身体中ボロボロで痛ぇことには痛ぇが、どこも折れてもいねぇし動かなくもない。さっきの状況や殺されることに比べれば何十倍もマシだった。


「おっと、礼も言わず悪ぃな。助かったサンキュ」

「別に」


 相変わらず興味もなさそうに単調な声で答える。

 立ち上がって気がついたのだが、俺より身長が低かった。加えて顔つきなんかはまだまだ幼いもので明らかに俺よりは年下だろう。ま、それがどうしたって感じだが。


「さて、命の恩人への礼が言葉だけっていうのはアレだしな。さ、何がいい?」

「……そんなつもりでロープを撃った訳じゃない」

「そう言うなよ、何かさせてくれねぇと俺の気が済まねぇ。ま、見てくれはゴロツキ――加えて、今はボロボロだがよ、そこそこの金なら持ってるつもりだぜ? 命を助けてもらったんだ、それ相応に返さねぇとな」


 きっと本能的に俺のしつこさを感じ取ったのか、それだけで何も言うことはなくなった。そして、さきみたく顎に手を当てて考え始める。おそらくこれがこいつにとっての思考するポーズなんだろう。

 さて何を要求する? 金か? 女か? そんなくだらねぇ物を要求するんじゃねぇぞ。

 暫くして欲しい物が思いついたのか、手を下ろし、視線をこちらに向け直す。


「……それじゃ、ランチを」

「やっす!? 俺の命安っ?!」

「そもそもあなたにそれほどの価値があるとでも? 世界にはゴミクズ同然で殺され行く人なんて無数に存在する。その人たちや、"一つ"を除くそこらに転がってる"物"に比べれば価値は十分に高いと判断するけど」


 てっきり口下手かと思っていたが急に饒舌になったことに驚くと同時に、自然と口元が歪み出す。

 ――"一つ"に"物"ね。あぁなるほど、要するにやっぱりこいつは俺と同類だ。


「くっくく、違わねェ、あぁ違わねぇな。ならせいぜい高ぇステーキ肉でも頼んでくれよ。俺の価値をそこに転がってる"物"以上にしてくれるためにもな」


 バシバシと肩を叩くボロボロの俺に、少し面倒臭そうに眉を顰める名も知らぬヒットマンもしくは殺し屋と、昼飯を食うために通い慣れた小汚ぇ店に向かうのだった。

 これがアンジェロと俺ことサルヴァトーレの出会いだった。





お読みいただきありがとうございました。


初投稿作品ということもあり、文章の作り方、改行の仕方など不備が色々とあると思うので、もし何かございましたら指摘してやってください。


最後になりましたが、

小説を書く事を快く承諾してくださった谷町クダリさん、本当にありがとうございました。

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