第5章〜丁重に扱え!〜
俺と、佐祐と、まおら。
学生時代の仲良しグループ。
もう1人女子がいたような気もするが、とにかく仲がよかった。
お昼を食べるのも、放課後遊ぶときも、いつも一緒だった。
俺はまおらが好きだった。
俺とまおらは好敵手でもあった。
首席を争う、そんな関係でもあった。
テスト前には2人で図書館に行った。
だから俺はテストが好きだった。
そのうち4人でいるときもまおらといるようになった。
知識量が同じぐらいだから、話も合った。
楽しい、と。感じることが増えた。
いつだったかそういう関係になって
恋人という間柄になって
数年後にまおらは突然姿を消した。
そのまおらが今目の前にいる。
「久しぶりだね」
そう言ってまおらは笑った。
黒い、闇だけを集めて絹に染めたような髪と。夏の爽やかな空を思わせる瞳と。輝石の輝きをもつ肌と。
全てがまったく変わっていなかった。
俺はただ、呆然としていた。
「え、何!?なになになに?」
鈴音が俺の服のすそを引っ張って言った。
俺とまおらの微妙な空気を読み取ったのか。
それとも俺の表情が硬かったからなのか。
水色も、夏澄も、わけがわからないという表情で俺とまおらを見比べている。
ただ、佐祐だけがあちゃー、というような顔で俺を見ていた。
それから、一歩前に出て口を開いた。
「良太の元カノ」
言わなくてもいい一言を・・・
そう思ったが他にどう説明すればいいのかわからなかった。
「え、良太彼女いたの!?」
と、夏澄が驚きの声をあげるし、
「へーかわいー」
と、水色がまじまじとまおらを見るし、
「名前なんてゆーの?何歳?」
と、鈴音が俺の服のすそを離してまおらに飛びつくし。
まおらはわりとパニック気味だった。
「え、えっと・・・」
救いを求めるように、まおらは俺のほうをちらっと見た。
空色の目でこう言っている。
どうしよう、と。
俺はため息をついた。
「東山吹まおら。俺と同い年」
「そんで俺らと違って繊細で壊れやすいから丁重に扱えよ」
佐祐が後付をする。
鈴音を中心に、軽い自己紹介ごっこが始まった。