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王国物語  作者: 三沢緋夏
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第4章〜誰だっ!〜

あぁそうだ。

あいつが俺の名を呼ぶたびに

胸が締め付けられるような

そんな気がしたんだ。




「ま・・・魔法使い・・・」

生き残っていたオールバックの男がへなへなと座り込みながらつぶやいた。

動けるのは数人だろう。だが向かってくるものはいない。

改めて魔法の力の大きさに驚く。

「ぼーっと見てるかと思えばいきなり爆破系使いやがって・・・少しは加減しろよな」

水色が舌打ちをする。

「でもだいぶ数が減ったし、結果オーライでしょ」

夏澄が剣を鞘に収めながら言う。

チン、という金属音が響いた。

佐祐も剣を鞘に収めながらそれに、と続ける。

「残った奴も歯向かう気ゼロだしな」

見回して水色はうなずいた。


「ちょっとどーするよこれ」

突然甲高い声がその場に響いた。

「どーするもこーするもありませんわ。あんなにいた兵がいっきに死んでしまってるんですもの。お父様に怒られますわ」

先の声よりやや低い、優しいかんじの声が後をつなげる。

「誰・・・」

声の主を探して暗闇の中を必死で目を凝らした。

やれやれ、とため息をつきながら藪の中から出てきたのは金毛を綺麗に2つにまとめた目つきの悪い女。

そしてその後に続いて闇の中に綺麗に溶け込むような黒い髪を左右でまるめているお嬢様系の女も出てくる。

どちらも背は同じぐらいで、瞳は闇によく映える藤の色。黒い服に身を包み、足取りは軽い。

「で、どーすんの?始末する?」

目つきの悪い、不良系のほうが俺たちを脅すかのように言う。

「始末したいのはやまやまですけど・・・装備が悪いですわ。ここはいったん引きましょう」

「つーか誰だよてめぇら」

お嬢様系の言葉のすぐ後を追うように水色が低い声で言った。

「誰でもいーだろしゃべんな水色」

不良系が悪態をついた。

「何で俺の名前・・・」

水色が困惑したように目を泳がせる。

水色は1回も名乗っていない。なのに不良系は迷うこともなく水色の名を呼んだ。

超能力があるのか。

顔を見ただけで名前がわかるのか。

知っていたのか?

ならば何故・・・

困惑する俺たちに不良系はサラリと言った。

「あ、それ名前だったんだ。あたしは髪の色のこと言ったんだけど」

水色はずっこけた。










「で、結局お前らは何者なんだよ」

俺は水色を立たせながら2人の少女を睨んだ。

2人はどちらも口を開く様子は見られない。

「・・・答えろ」

それでもやはり口は開かない。

紫色の瞳で哂う。

「答えろっつってんだろ」

思わず怒鳴った俺に2人は顔を見合わせて、それからなにやらつぶやき始めた。

それは唄のようで、呪文のようで、詩のようで、ただのことばのようだった。

闇夜の音のない広場で風にのせるように響く2つの旋律は耳に心地よく残る。

髪が、服が、わずかに青く光りながら浮かび上がる。

俺も、水色たちも時がとまったかのように動かない。

いや、動けないんだ。

目でその光景を見、耳でその言葉を聞くことしかできない。

そのうち2人の身体が青白い光に包まれはじめた。

闇のどこにもないのに辺りから光を集めるように、2人は光を取り込んでいく。



そして


パキンという音と一緒に


光は大きく破裂するように大きく光った。




―――――あたし小狼しゃおらん



―――――私は小鳴しゃおめいですわ




風が運んだように耳元で聞こえた声。


それが名前をつげた言葉だと脳が理解したのは光も消え、2人の姿も消えてからのことだった。






俺たちは立ちすくんでいた。

あれが魔法による空間移動だということはすぐにわかった。

なのにどうも納得いかない。

魔法を攻撃手段としている者にはわかる、魔力のオーラというものがあの2人からは発せられていなかった。

魔力がほとんどないのか?

だが空間魔法は中級魔法だ。魔力がほとんどないのなら使えるはずがない。

ならば考えられるのは委託だが・・・

委託はするほうが相当な魔力をもっていなければできないことだ。

俺も魔法委託をすれば3日は寝込むだろう。

首筋を冷や汗が流れた。

「おーい良ちゃんたちーっ」

鈴音の声にハっと頭を上げた。

水色たちも声のほうを向く。

鈴音は大きな木下で両手を振っていた。

「女の子救出したよー」

「そうだ女の子っ!」

夏澄がはっとして鈴音のほうに向かって走り出す。俺たちもその後を続いた。


女の子は闇の色をかき集めてそのまま絹糸に塗りつけたような髪の色をしていた。

瞳は雨上がりの空色。肌は夜の中でもはっきりわかるほどの白色。だが病弱というかんじではない。

「擦り傷とかはあったけど特に目立った外傷は0だよ」

鈴音が女の子のひざにバンソウコウを貼りながら俺たちのほうを見た。



そんなことはどうでもよかった。



「あの、助けていただいてありがとうございます」

女の子は夏澄たちに向かって頭を下げる。

「いやいや、大丈夫だった?」

夏澄がそう言うと、女の子は照れたように頬を薄く染まらせ、うなずいた。

そして俺のほうを向くと、にっこり笑った。



「ありがとう、良太」



夜風がザワっと木々を鳴らした。





嘘八百です。魔法関連については信用しないでください。

感想評価等いただければとても嬉しいです。次話へのエネルギーになります。

あなたさえよければまた。三沢でした。

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