05.麗し令嬢と巨乳メイド3(side:エクラ)
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エクラ・マインドは敬愛すべき主人であるフィオ―レ・ブルームの胸の中でゴロゴロと喉を鳴らす猫を見て、第一印象が正しかったと再認識した。
「にゃあん、にゃあーん!(猫万歳、俺万歳ー!)」
認識し、地面でそわそわしていたシャルロットを抱えその後頭部に顔を寄せさせる。
ばくっ。自分の意を酌む生き物の夕飯を少しばかり良いものにしようと心に誓った。
初見、エクラはフィオーレの愛鳥であるシャルロットがでろっと口から出したそれを見るなり眉を顰めた。
シャルロットが何かを拾ってくることは珍しくなかったが、生き物は初めてのことだったし、何より涎にまみれでぐたっとしている白い塊は絵でしか見たことはないあの生き物――「猫」だったからだ。
「不吉だ」
猫と言えば、この世界を支える四神の仮の姿。もしくは、神の使いとして扱われている神聖な生き物である。
本来ならばエクラが口にした不吉とは無縁の存在なのだが、殊に彼女は四神の迷信家だった。
四神とは、この世界を作った神々のことだ。
火の神、プロクス。
水の神、アーグア。
土の神、ラント。
風の神、リュズギャル。
彼らは神でありながら、人とともに有る神である。
本来神と言うのは目に見ることもできず、触れることも叶わぬ想像であるべきだが、この世界の神々は目に見え、存在を現に置いている。
現の姿こそが、猫であった。
今でこそ猫は滅多に出会うことのできない神聖な生き物になってしまったが、遥か昔は数多く存在し、人の生活にも親しんだ生き物であったと言う。それ故に、その姿を選んだのだと。
もちろん、神々が現で人の姿を取らぬわけではない。格式ばった式典や像などでは神々の人の姿を見ることができる。
神々が猫と呼ばれる生き物の姿を平素のものにしているのは人の形をし、偉業をなすということにより人との格差を生むのを避けたかっただけにすぎない。
だが、これが間違いだった。――人は驕ってしまった。
水の神であるアーグアは四神の中でも温厚で人との交わりを大切にする神であった。
彼の人は、水の中に住まう魚や水辺に生きるものたち、花を愛でる慈愛の神であった。
時に、他の神が人の業により荒ぶるのならば双方を静めてくれる良い神であった。
一人の人間が、彼の人の居ぬ間に大切にしてた花を手折ったのが神々と人との交わりに大きな亀裂を生んだ。
花を手折られたアーグアは怒り狂い、世界を水に沈めようとしたのだ。
守ることのできなかった獣たちを罰しその姿を混ぜ、醜いものへと変貌させた。
他の神々の言葉など彼の人は聞かず、その領土を水で侵していった。
数多の命を奪っていった、猫も、人も。
アーグアが世界を壊すのをやめたのは、七割近くを水に沈めた後だった。
――彼の人の怒りを止めたのは、枯れかけた一本の花だった。
人に奪われた花を見つけ、彼の人は壊すのをやめたのだ。
その花が如何に大切だったのか、他の神々にも人にも察することのできた瞬間だった。
花を見つけた神は、人も獣も、神さえも寄りつかぬ深淵の底へと眠りについた。
残された神と人は己の領分を弁えることとなった。
人は神を近しいとは思わせない。
神は人を近しいとは思わない。
それが、世の理となった。
猫は神の仮の姿。もしくは、使い。
今や、見つければ神殿に申請してからでないと所有権が与えられないそれが、その猫が目の前に居る。
神々でない一般的な猫には模様があるとされているが、目の前の猫にはそれらしいものは見当たらない。
けれど、神々は瞳と同じ色の毛並みを有すると言う。
(白い毛並み、眼が白色ならば……もしかしたら、あのアーグアかもしれない)
全てを無に帰そうとした水の神アグーア。それがこの猫かもしれないとエクラは思っていた。
ただし、その仮説が正しかった場合、不吉などと簡単に言葉に表すことはできないが。
ごくりと、息を飲んで、猫の瞼を持ち上げる。
先にあったのは、深い青だった。
「ただの猫か。……しかし、汚いな、これ」
洗うのが先か、主人に報告するのが先かエクラは悩んだが、家の中に入れるならば報告するのが先だろうとなるべく触れないようにしてフィオ―レの元に向かった。