04.麗し令嬢と巨乳メイド2
(「へいへい、彼女ー、お茶でもどうよぉ?」が、「にゃあ」って。ねえ、神さま、あんた一体、俺にどうやって彼女を口説けと? くぅ、涙が出てきそうだ)
自分の耳に聞こえる言葉と、他人が聞こえる言葉が違うだなんて誰が思いつくだろう。想良は体は猫であることはなんとなく自覚していたが、言葉の違和感はまったく感じていなかったのだ。
(いやいやいや)
フルフルと頭を振って気を持ち直す。
(ここは良い方に考えよう! シャルロ……あんなファンシーな動物もいるのだから、人間になれる猫も居るかもしれないではないじゃないか!)
こんなファンタジーチックな世界なのに、自ら夢を捨ててどうする。むしろ、いきりたてろと、自分を叱咤する。
「そう、いい子ね。怖くないのよ」
想良の葛藤など知らない少女は、純真な笑顔のまま抱きしめる力を少し強めてきた。その所為で、また花の香りが鼻孔をくすぐる。
(いや、猫が下心を持つのがいけないんだ。飼い主が美人だったからって、所詮は猫と人間。下心は捨てれないとしても、恋心は捨てよう、俺は猫。俺は猫……てか、猫なら顔をうずめても仕方ないさっ!!)
無駄な葛藤をやめて、わざとらしく「にゃーん」と鳴きながら少女の胸元に顔をすり寄せる。
「これは、も、もしや……はふはふDカップ!?」
首元まである白いドレスのせいか、あるいは少女が着やせするタイプの人間なのかは判断しかねるところだが、顔の近くの柔らかさは風やあの水の玉より遥かに心地よい。
(もういい、猫でいい。むしろ、今最高)
調子に乗って、ぐりぐりと顔をくっつける。
「ふふふ、くすぐったいわ」
『猫万歳、俺万歳ー!』
ばくっ。
『ふぎゃああああああっ、また、これかよっ!!』
再びの感覚と、失われた視覚にもがく。ようやくシャルロットの口から逃れた俺の前には、メイド服姿をした赤毛の美人さんが居た。オプションにはシャルロットを抱えて。
「ぐぅげげ」
大きな口をバクバクっとシャルロットは動かしている。
(このメイドが俺のことシャルロットに食わせた?)
切れ長の青い目のせいか一見綺麗だがどこかつんけんして見えるが、鼻の頭にある薄らしたそばかすが顔立ちを和らげている――ものの、想良を見る目は果てしなく冷たい。まるで嫌悪し、蔑むようだ。
「エクラ、猫さんに何をするのっ!」
「いえ、フィオーレ様に対し不埒なふるまいをしているように感じましたので」
(す、するどい)
蔑んだ目で想良をエクラと呼ばれた女は見ている。
(下心はほどほどにしとこう、うん。少女の名前もわかったし、うん、落ち着こう、俺)
「にゃーん」
うるうると目をさせながら、エクラを逆に見返す。
(大体、女性は動物好きなものだ! 大丈夫!)
愛想をふりまけばエクラも可愛いと感じるだろうと想良は自分自身が持つ愛想を身から絞り出すようにしていたが、すればするほどその目は濁っていく。
「……やはり、神殿に引き渡した方がいいのでは? 神聖というよりもしれからは邪心にようなものを感じます」
「そんなことないわよ、すっごく可愛いわ。それに、私にもとても懐いてて」
「そう、ですか?」
ギロリ、もし、視線だけ人が殺せるなら想良は彼女に確実に殺されていただろう。
ため息交じりに、想良はフィオ―レの腕の中からひょいっと飛び出す。目標はペットだ。ここで、追い出されるわけにはいかない。
「もうっ! エクラが睨むから猫さんが怯えてしまったわ」
「怯えてますか、それ?」
ジッと睨んでくる目から逃れるように、しれっとフィオ―レのドレスの裾に隠れる。小刻みに震えて、「おびえてますよー」っというのをアピールするのも忘れない。
「仲良くしてあげて、ね、エクラ」
「……善処します」
嫌そうな声に肩をすくめる。
この人と仲良くなるのが、どうやら今のところの一番の課題のようだ。
(仲良くできるかなぁ、めんどくさー)
次回は、エクラ視点で、世界観等を書きたいと思います。