01.猫?
車から体を出したらいけません。たいへん危険です。モチロン、ヤッタコトナイヨ!
柔らな弾力と頬を撫でる風にうつらうつらとしながら想良は昔、年上の幼馴染ヒロの車から手を出し「これがDカップの感触!!」とやけにはしゃいだことを思い出していた。
ヒロは「がんがん上げて、爆乳を体験させてやんよ」と笑っていた。
一緒に乗っていたちっぱい派な中学からの友人である小坂は「スピード落とせー、巨乳なんぞに興味はねー」と手を出しつつも言っていた。
『めちゃ、懐い』
なんでこんな昔のことを思い出すのだろうかと思いつつ、瞼をこすりながら目を開ける。青々とした空、大きな雲が目の前に続いていた。
(自分で単車に乗るようになってからは、あんなことしたこととか忘れてたな、ほんと懐かしいわ。しっかし、俺いつの間に寝たんだろ。あー、ビビった)
懐かしい記憶を思い出す前に見た、嫌な夢を思い出して体をブルりと振るわせる。あれは酷く嫌な夢だった。
雨の中弟の凛と買い物に行き、車が突っ込んでくるという夢。自分が死ぬ夢。
『夢?』
なぜ、空がこんなにも近い。
なぜ、大きな雲以外視界に入らない。
『俺、空飛んでっし!』
そのことに気付いた途端、バランスを崩した。
乗っていたのはビーチボールサイズの水の塊だった。胸の柔らかさとか思ったのはあれだったようだ。意識がはっきりしてくるとウォーターベッドの方が近かったなと、思い直すが……。
『以前として落ちてるって言う、ねっ!!』
事故って、落ちて。
きっと俺はまだ夢の中に違いない。
☆★☆★☆★
だうん、だうん、だうん。
意外と長い浮遊感の間に考える。
想良は思った。不思議の国のアリスもきっとこんな気分だったに違いない、と。
それはさておき。どうしたものだろう、夢ならそろそろ覚めて欲しい。マジで、今すぐ。
このまま落ちたら確実に死ぬだろう。本家と違って空から落ちてるのだから。
神さま、俺が何をしたというのでしょうか、確かに人を病院送りにしたこともありますが、基本的には良い子の良い子でしたよ、酷いです。あんまりです。会う機会があったら、殴ります。
涙を手で擦る。
『さっきから気になっていたが、俺ってこんなに毛深かったっけ?』
白い毛に覆われた手、あんど、ピンクの肉球。
(め、目の錯覚だ。違いない)
全身を見渡す。真っ白な手足、空に向かって蠢く尻尾。
『あ、ありえねええええええええええええええええええええええええええっ!』
叫ぶ。声の限り叫ぶ。
ばっく。
いきなり暗くなった視界に想良は更に叫んだ。