28.日常の変化(side:エクラ)
エクラがダイニングに食事の準備をしに入ると、猫が行儀良く座っていた。
どこかおかしいと首をかしげる。いつもの朝ならぐーすかと眠りこけている時間だったし、なにより近くにシャルロットが見受けられない。自主的にソラが起きるとは思えなかった。
「にゃー」
何の感情もない目だった。青い硝子玉を見ている気がした。
昨日見た感情が何一つ見つけられず、食い入るようにソラをしばらく見ていたが「にゃー」と鳴かれて目を逸らす。
(なんで目を逸らしたのだろう?)
もう一度見ると、ぺろぺろと白い体を猫は舐めているところだった。
文句を言うことなく、猫はシートスを美味しくなさそうに食べた。それが終わると、ゆったりとした動作で部屋を出ていく。尻尾はぶらりと揺れていたがいつものような忙しなさは微塵もなかった。
(なんとなく、なんとなくだ)
自分に言い聞かせるように猫の後を追う。
猫はトコトコと階段を上っていく。三階へ続く階段に足を掛けようとしたので慌てて止める。
「コラ、上に行くな」
首根っこを掴んで持ち上げても不愉快そうに眉をしかめず、猫はこちらを訳がわからないというように見る。
「にゃー」
体をよじるようにして地面に降りると振り向くことなく猫は自分の部屋に向かう。
「ソラ」
名前を呼ぶ。
「にゃー」
止まって、猫は振り返る。
やはり青い目は無感情に輝いていた。
何も言わなかったので、猫はすたすたと歩き出す。
(なんなんだ一体……)
フィオ―レといいソラといい、皆は何を考えているのだろう。
少し頭痛がした。
エクラは頭を押さえながら、仕事に戻った。
やはりおかしいと思ったのは昼餉の時だった。
猫はまた時間よりも早くにダイニング居た。上に、フィオ―レが入ってきても嬉しそうに尻尾を振らずに近寄って一鳴きしてからすり寄った。
大はしゃぎして鳴くこともなければ、フィオ―レに抱きしめられても胸にすり寄ることもない。
「今日のソラさんは大人しいのね」
「にゃー」
(なんだ、この生き物)
よくわからないがまた、頭が痛んだ。