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死んだら猫った!  作者: 青藍蒼
猫の暮らしも楽じゃない
30/48

26.痛み




必死こいて想良は縁を歩き、木の枝も飛び渡った。部屋のカーテンはほとんど閉まっていたので、もう一度木から縁に落ちそうになりながらも飛び移った。

足を宙ぶらりんにさせながら、縁に上る姿はさぞ滑稽だったことだろう。


カーテンから覗き見た光景に、そのまま落ちて死にたくなった。


(フィオ―レ……さん?)


丁度湯殿から上がったのだろう、タオルで体を彼女は拭かれていた。

華奢な体つき、白い四肢。




不似合いな醜い傷跡。




背中に一文字に走るそれは醜い以外の言葉がなかった。


初日に見たのに似ている白いネグリジェに彼女は腕を通す。

寝るための服だというのに、首元まできっちりとその服もいつものように覆われている。


唐突に、理解した。

浮き上がった薄桃色の肉筋を彼女は隠すために首元までの服を着ているのだと。


(こ、ここにいちゃイカン!)


エクラの腕に傷を付けた時のように走って逃げる。

足が軽くなる風に体が溶けたみたいに早くなる。


来た道をひたすらに走って逃げる。
















布団の中で震える。

耳を押さえて、尻尾を丸めて。


(俺は悪くない、悪くない)


覗きは犯罪だということは百も承知でやった。理由――やりたかったから。






愛そうと決めました。

愛してくれるならと思いました。






覚悟も何も足らなかった。逃げ場が欲しかった。


痛みはすぐに忘れる。

嘘、忘れたふりをしているだけ。見ない、知らない、傷はない。全部、嘘。




(メイドさんは辛そうな顔なんて、しない。嫌そうな顔しかしない)


フィオ―レに何か言いたそうだったのは嘘。


(フィオ―レさんがメイドさんたちに向ける視線が痛かったなんて、嘘)


彼女は笑顔だけが似合う。




全部、嘘。

見たいものだけ、ずっと俺は見てる。




(もう、ここやだ)


人の痛みは知らない、わかんない、知りたくない。

俺の方が痛いよ、助けてよ、ねえ、助けてよ。



(「Don't love me(俺のことなんてどうでもいいんだ)」)



皆、俺のことなんてどうでもいい。

俺もどうでもいい。

それでよかったのにっていうのも、全部ウソ。






現実の痛みから逃げたかっただけ。






見ざる。

言わざる。

聞かざる。


世界は綺麗。



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