23.人間と猫、小さな世界2
甘い香りの漂う部屋。
クリーム色を基調とした家具はもちろん、猫足。
(フィオ―レさんの部屋にドキドキの初潜入です)
ぬいぐるみや人形と言った可愛らしいものはあちらの世界の同年代と違ってない。大きな本棚に、レコードプレイヤー。様々なアンティークが敷き詰められている。
(だが、それがむしろいい!! あっちのお部屋が寝室かなー、ワクワク)
「ソラさん私の勝手でご飯が食べられなくてごめんなさいね」
腕の中からそっと地面に想良を下す。
「シートスはないけど、お菓子なら置いてあるのよ? 口に合うといいのだけれど」
(なるほど、あの黒い謎の液体はシートスっていうのか。名前負けしてんなぁ)
部屋の中央のテーブルにそそくさと歩いていくと、上に置かれた宝石箱のような綺麗な小箱を想良に向ける。中身は、チョコレートに似ているものと、飴のようだ。
『あー、お気づかいなく』
「寝室のほうにも砂糖菓子があるからとってくるわね」
先ほど見たドアとは真逆の方にあるドアへとフィオ―レは消える。
覗きこむと、ベッドが見えた。間違いなくあっちが寝室である。
(つーことは、あちらは浴槽でよろしいかっ!!)
尻尾が興奮に伴い揺れる。
エクラという邪魔者は居ない。今ここにはフィオ―レと想良だけだ。
(俺は猫ー、猫は一緒にお風呂だってなんだってオッケー。人間の心を持ってるけど、許される!)
妄想一。一緒にお風呂。
「きゃー、ソラさんったら、暴れちゃだめよ?」
(げふん、げふ。いい、何これ。フラグ? フラグ!?)
妄想二。一緒に就寝。
「おやすみ、ちゅっ」
(ちゅって、ちゅって!! ああああああああああああああああああああっ! )
大量に尻尾を振っております。
ちぎれそうなぐらい揺れてます。妄想によって。
「ふふふ、お菓子がそんなに嬉しいの?」
『今後の展開が!!』
追加された砂糖菓子は金平糖に似ているのから、アメリカでみたことのあるような丸い形のものまで様々な見た目のものだった。
『ジェリービーンズ』
豆の形をしたそれをジッと見つめる。
柔らかいのか堅いのか、遠目ではわからなかった。
(無駄に、向こうと似かよんなっての)
日本のお菓子よりも丸みを帯びたそれは、アメリカのものに良く似ていた。
(「Be nice to people,I'm sure people loves you(人に優しくしなさい、きっとお前を愛してくれる)」)
頭を撫でる手は大きく、堅い。皺くちゃの手は温かかった。
(「Can't be true(ありえないよ)」)
菓子を頬張る子供はあざ笑うように返す。
食べてもないのに、あの時に食べたバブルガムの味がしてきた。
(最悪……)
「ソラさんはこれが気に入ったの? んー、これ猫でも食べれるのかしら?」
ジェリービーンズを一粒掴んだフィオ―レは食べさせることができるのか悩んでいる。
(俺、猫だしね)
いらないとばかりに、チョコレートの箱に鼻を近づける。
(気分がそがれちった)
尻尾も床でしょんぼりとしている。
(「Even if you love,Nobody loves me」)
老人は目を細めた。
あまりにも悲しそうだったから、自分の世界を作ることにした。
愛したら、愛してくれる小さな世界を。
Even if you love,Nobody loves meは、「愛しても、誰からも愛されない」みたいな意味です。なんか、本当によくわからんくなってきたw子供は些細なことで歪みながら大人になるんだぜ!