表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだら猫った!  作者: 青藍蒼
猫の暮らしも楽じゃない
23/48

19.疑問詞すら浮かばない(side:フィオ―レ)




なんで?

どうして?

昔ならすぐに浮かんだ疑問詞すら浮かばないことに、気付く。


外の騒がしさにダイニングを出てフィオ―レが見たのは十二違いの異母兄、フリンデッルだった。


(……五年って長い、のね)


心の代わりように、少しだけ、ほんの少し泣きたくなった。






早すぎる来訪と裏切りの発覚に、無邪気な顔で笑う(をゆがめる)


「お兄様、お早いおつきね。もっと遅くてもよかったのに」


フリンデッルの見下すような瞳にも怯まない。

綺麗に笑うだけの心ない、愚かな人形が彼らの望みだと知っているから決して怯まない。


怯むことは屈することを意味していた。


「エクラ、ごめんなさいね」


正直言えば、エクラの存在をフィオ―レは気に入っていた。

彼女のおかげで自分と言う存在がどれほど虚しいか気づけたのだ。


エクラは、手放すことを好しとしないあの人に一つだけ願った存在。


(信頼と好意が同意でないのが、悲しいわ)



青は悲しみ。アーグアの色。



メイド服に身を包んだ女騎士は何も言わない。言わせない。中途半端に助けた彼女がいけないのだ、あのまま死ぬことこそが最善だった。


「お前はいつまで経っても子供だね、陛下は背中の傷を気にしないと言ってくださっているのだ。それなのに、首をなぜ縦に振らないのか理解できないよ」


「傷物などあの方には不要でしょうに。第一、私ごときの代わりならいくらでも居りますわ」


見た目の良い娘など腐るほど居るのだ。


「フィオお姉様! 我儘を言ってはいけないのよ!」


「我儘ではなく、事実を言っているの」



死ぬことも赦されず。

出奔することも赦されず。

何も赦されないのはあの人の執着のせい。



「何も知らない子供はお黙りなさいな」


いずれ、クークラも大人になれば知る。女など政治の道具でしかない。


「お、お姉様、ひどいっ!」


すぐに泣くのは子供の証拠。大人は泣くことを赦されない。

この身は何も赦されない。


泣き落としでもさせるつもりでクークラを連れて来たのだろうけれど、フィオ―レの心は痛まない。

些細なことで痛めていては人は生きていけないのだ。


「もう書類は出してしまいましたもの誰にも手出しはできませんわ、例えあの人でも」


スキアーがこの会話を聞いていて、あの人に伝えたとしても。


「時既に遅しって、いい言葉ね、ふふふ」


きつくフリンデッルが睨む。


「恥知らずな……」


「恥知らずで結構。お父様にでも何にでも縋るといいわ、お兄様。私は好き好んでこんなところに居るわけではないのですから、出してくれたらそれこそ幸いというものです」


死んでもいい。

出奔してもいい。

生きることを望まれないのならそれでいい。


「フィオ―レ……」


「お帰りになるといいですわ」


綺麗なだけを望まれたフィオ―レ・ブルームは五年前に死んだのに、誰も気付かない。


笑いながら場を離れる。


必要とされたフィオ―レ・ブルームは居ない。

ここにいるのは壊れたフィオ―レ・ブルームだけ。


(壊れたものに執着するなんて、皆馬鹿ね)
















自分の部屋に向かう途中で、鳴き声が聞こえた。


「ソラさん?」


高い棚の上で猫は鳴いている。


「どうかしたの? 高くて降りられないの?」


手を伸ばす。

猫はにゃーにゃーと、鳴くばかりでフィオ―レに近づかない。


「誰かにいじめられたの?」


泣かないで。

泣かないで。

泣かないで。


想良の声がフィオ―レの耳には泣いているように聞こえた。


「大丈夫、私が居るわ」


私も悲しいの。

私も悲しいの。

私も悲しいの。


「おいで」


白の塊はゆったりとフィオ―レの腕の中に降りる。


「私も悲しいわ」


鼻先にちょんとキスをする。






疑問視など浮かばない。

いつだって目の前の現実が答えなのだと知ったから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ