14.見えない影がうろちょろり
『いいか、シャルロット。今日こそ、料理人を見つけんぞ!!』
「ぐげ、ぐげっ!」
バサバサと揺れる羽根を見て、想良は満足げに頷く。
あの悲劇の黒い液体事件から、三日が経とうとしていた。
白い猫の後ろから不気味な生物が楽しそうに付いて来る。
不気味だった顔も見慣れれば愛嬌があるように見えてくるのだから、不思議だ。
(今日こそ、この家の見えない住人を見つけてやっし!!)
鼻息を荒くして想良は探す。
別に、三日間寝込んでいたわけじゃない。
確かに、あの黒い謎の液体のせいで意識はぶっ飛んだが、すぐに意識を取り戻した。
そして、目覚めるなり料理人に対し殺意を覚えた。
復讐を決意した殺人犯の心境。はたまた、犯人を見つけ出そうとするサスペンスドラマの探偵の心境とでもいうのか。
見つけ出して、ぼっこぼこにしてやると、猫の体だということも忘れて真剣に思った。
(やや、メイドさん発見!)
気付かれないように、とシャルロットを黙らせ、こっそり柱の陰から見る。
今やこのエクラも料理人に比べれミジンコ並に気にもならない(今も彼女の胸だけは、別である)。
この三日間探しているが、毎日毎食、食卓にはあの黒い謎の液体が出て来るのに対し、この家の人間はフィオ―レとエクラ以外匂いも気配も感じない。
猫の体になって異常に耳や嗅覚が良くなったので人の気配があればわかるはずなのに、だ。
あまりにも見つからないので当初はやはりエクラが犯人なのではないかと疑ったものの、彼女を丸一日ストーカー並のしつこさでマークした結果彼女はシロだった。
彼女は厨房と思しき場所にはお茶や水なんかの飲み物系を取りに行く以外まったく近寄らない。
仕事と言えば、フィオ―レの傍で甲斐甲斐しく世話を焼くぐらいだ。
(メイドさんより絶対見えない人物Xのほうが働いてると思う、俺だったり?)
ちょっと部屋が汚れていても気がつけば掃除されているのなんて当たり前で、これも料理人に違いない。と、想良は踏んでいた(エクラに箒やなんかの道具が似合わないという偏見もあるが、ストーキング中に汚した場所がいつの間にか片付けられていたためである)。
(てか、今日もロングじゃん! ちっ!)
舌打ちをする。
制服なのだろうが、同じロングのメイド服ばかりで想良は見飽きていた。一向に胸が露出されるような服をエクラもフィオ―レも着る気配がないのだ。
フィオ―レも色や形こそ様々だが、基本は首元まで覆われたドレスばかりだ。
(二人とも男心がわかってない! 胸には夢と浪漫が詰まってるのに!! ちなみに、俺の男心としてはメイドさんのロングスカートの中身がガーターベルトなのか、パニエなのかも気になるぅうううっ!!)
ハンカチがあったら「くやしいざます」と、噛みしめたい。
ストーキング中に確かめたくて階段の下から覗こうとしたが、不穏な気配を察知されたのかジッと見られてずこずこと引き下がるしかなかった。
『メイドさんの服がどっかに引っかかって破けるか、もう少し薄い生地になって胸が強調されるといいのにぃー』
言葉がわからないことを良いことに言いたい放題言ってみる。
シャルロットが「ぐげええっ」と何か言いたそうに鳴いたがわからないので、知らん顔で通す。
いつまでも見ていてもしょうがないので迂回する。
『行くぞー』
「ぐげっ」
ぶらぶら揺れる尻尾が心なしかしょんぼりしてる気がした。
予約の時間が間違ってた……あぶね。し、新キャラいつ出んだろ?