10.神殿、神官、美人が居ない!3
フィオ―レさん視点の続きは都合上、次回。
やたらとニコニコしたフィオ―レと反対にものすごく不機嫌なエクラがやって来たのは、想良がぐぅたれてから一時間以上経ってのことだった。
完全に夢心地だった想良はいつものように首根っこを掴まれて起こされた。
「起きなさい、馬鹿猫」
『おー、メイドさんだ。おはっす。いやーびじん、むねでか、がんぷくー』
肉球をすり合わせて拝む、なむなむ。
(目の保養ってすばらしぃー)
寝ぼけている想良をエクラは問答無用で手元のかごの中に突っ込む。
「フィオ―レ様、待たせている馬車を呼んで参りますので暫しお待ちください」
「はい」
待ち望んでいた柔らかな声が聞こえたが、想良は耳をピクピクとさせただけだった。
ごっとん、ごっとん。
暗すぎる視界に目を覚ました想良はとりあえず立ちあがろうとして、頭を打った。
『いてっ』
手で上の方を押す。
(あれ、いつの間にか俺かごの中?)
数回押し上げるが、かごの蓋は鍵が掛けられているのか開かない。
『おーい、出してー。メイドさーん、フィオ―レさーん』
少しがさごそしていると、フィオ―レが顔を覗かせた。
「起きたのね、ソラさん」
白い手が体を優しく包む。甘い香りは相変わらずで鼻孔が無意識にひくついた。
『えー、何何? 近くね? フィオ―レさんってば、俺にそんなに会いたかったの?』
胸に抱かれるような体型を良いことに顔をフィオ―レの頬にすり寄せる。
「フィオ―レ様、それ近くありませんか?」
「そんなことないわよ、エクラもしてみたら? 毛がふわふわしてて気持ちいいわよ?」
ちらっと、エクラを見る。
理解できないと言わんばかりの顔だ。許可さえあれば想良を馬車から投げ捨てそうだ。
『あれほど美人に会いたかったのに、実際に会ってみるとちっとも嬉しくなくて俺ってばめちゃ不思議ー』
ベーっと舌を出してフィオ―レに引っ付く。
『でも、フィオ―レさんに会えたのは幸せー』
膝の上で丸くなる。
白いドレスは触り心地がいいものの下手に動くと傷つけてしまいそうだ。相当良い品なのだろう。
(欲を言うなら、もう少し胸ぐりの開いたドレスが好み)
きっちりと首元まで覆われたドレスは顔と手先以外見えない。
エクラの方は首が見えているものの彼女も胸は開いていないので、この世界では胸元の大きくえぐれた服は好まれないのかもしれない。
それか、そういった服は貴族階級では着ないのか。
(なんか、もったいねーの。せめて、脳内補充を……)
脳内で、フィオ―レとエクラに似合いそうな服を考えようとしたところでお腹がぐぅっと鳴った。
『腹減った……そういや、何にも口にしてない』
市場で見た魚が頭の中に飛び込んできて、ゲッと舌を出す。
(あれは食べたくない)
「ふふふ、ソラさん。家に帰ったらすぐご飯にしてあげますからね」
『希望は味付けの濃い美味しい料理でー』
もちろん、フィオ―レが作ったなら残飯でも愛の力で食べるつもりだけれど。
(でも、メイドさんが作ったものは旨くない限り小姑のようにケチつけてやろうっと)
にんまりと笑んでから、エクラに対し鳴く。
『夕飯楽しみにしてるんで、よろしくぅ』
不穏な気持ちが伝わったのかまた、想良は殴られた。