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悪の組織に人体改造された俺、目覚めると組織が壊滅していたので、ヒーローを目指してみようと思います。  作者: 銀猫


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第20話

 走る、走る、走る。

 強化した脚力で地面を蹴り上げ、追い風を背に受け加速する。 

 視線を僅かに下に向けると、両手で抱えるミカが荒い息を吐きながら小さく震えていた。

 目を瞑りながら抱きしめるように刀を抱える姿は、とても小さく見える。


「aaaaaーー!!!!」


 背後から聞こえる雄叫びのような叫び声と、幾度となく響く破壊音。


「流石に逃げ切るのは無理か……!!」


 間違いなく先程いた怪人の一体が追ってきている。

 隙をつき、視界を潰して稼いだ距離のアドバンテージはもうほとんど無い。


「aaaaaーー!!!!」


 咄嗟に道を曲がり、人気の少ない路地に入る。

 当然怪人も追ってくるが、幸いな事にここまでで距離は相当稼ぐ事が出来た。緋祭組の連中はこの怪人と違いすぐには追ってこれない筈だ。


 これ以上の逃走は不可能と判断し、ここでの迎撃を選択する。


「aaaaaーー!!」

「因子、解放……!!」


 ミカを抱えたままの戦闘はあまりに不安だが、今の彼女を下ろす方がもっと不安だ。万が一にも周りにまだ刺客がいて彼女が狙われた場合、ここまで弱ったミカを確実に守り切れる自信はない。


 今まさに怪人形態に変身する為に、内なら力を静かに解放しようとした瞬間、遠くから大きなエンジン音が聞こえた。


「そこの二人、伏せなさい」


 音はどんどんと近づいて来たかと思うと、エンジン音に混じって女性の声が響く。

 声に釣られて咄嗟に屈むと、一台の大型バイクが俺の頭上を飛び越え、怪人にバイクの前輪を叩きつけながら数メートル程吹き飛ばした。


「あんた、一体……」


 とんでもなくアグレッシブな登場をした謎の女性は、見事にバイクを操って着地すると、無駄のない動作でバイクから降りて俺達の前に立つ。

 どこか近未来的な機械を細々と取り付けたパンツスーツ姿の女性。黒く長いポニーテールを優雅に揺らしながら、冷たさを感じさせる表情を一切変える事がない。


「少し下がっていなさい」


 スーツ姿の女性が見る先には、バイクに轢かれた筈なのに、大したダメージもなく立ち上がる怪人が。


「aaaaaーー!!」

「危ない!!!!」


 ダメージを受けた事に激怒した怪人は、俺達ではなくスーツ姿の女性をターゲットに走り出す。

 思わず危ない、と警告を発するも、女性は涼しい顔で怪人を見る。


「貴方達には用がありますが、まずはアレを片付けてからにしましょう」


 女性は素早く腰にぶら下げたホルスターから拳銃を抜き取ると、怪人に向かって発砲。

 銃弾が怪人に命中し、火花を散らすも怪人にとって大したダメージではないようで、変わらず女性に狙いを定めて突進する。


「aaaaーー!!」


 怪力怪人マッスラー。異能によって強化、肥大化した筋肉から放たれる一撃は人を肉塊に変えるなど朝飯前。

 怪人の中でもトップクラスの肉体から放たれる拳を前に、女性は拳の上に片手を当て軽やかに跳躍し、怪人の頭上を飛び越えた。


 女性は無防備な怪人に向かって再び発砲。

 今度は少しだけダメージがあったのか、怪人は一瞬だけ不快な声を上げながら振り返りざまに拳を放つ。


「aaaaaーー!!」


 しかし、女性は怪人の行動など予測済み。とっくに後ろに下がっており、怪人の拳は何もない地面を叩きつけてコンクリートを砕き、瓦礫を撒き散らす。


「お返しします」


 砕かれ飛び立ったコンクリの破片が、女性の近くでピタリと止まる。

 女性が指を鳴らすと、止まっていたコンクリの破片達が、今度は怪人に向かって飛んでいった。


「あれは、サイコキネシスってやつか」


 破片の不可解な挙動は間違いなく女性の異能。おそらく周囲の物体を直接触らずとも動かせるサイコキネシスや念力と呼ばれる類の異能だろう。

 扱いやすい類の異能だが、怪人に直接作用していないあたり、生物や重すぎる物には使えないのかもしれない。

 即ち、圧倒的な火力不足。


「aaaaaaーー!!」

「なるほど、これが怪人ですか」


 怪人が放つ拳を避けながら手に持つ拳銃を発砲するも、大したダメージにはなっていない。

 このままいけば、間違いなくスタミナ切れで女性は死ぬ。


 やはり俺が戦わなければ。

 と、思ったその時、女性に動きがあった。


「ちょうど良い、ここで実践テストと行きましょう。No.01から05まで解放」


 女性が大きな声量で言葉を紡ぐと、置いてあるバイクに動きがあった。

 普通よりも大型なバイクに取り付けられたコンテナが開いたかと思うと、5つの物体が女性に向かって射出される。


 5つの内1つを掴み、残り4つが女性の周囲でピタリと止まる。


「ハウンドα、これより対怪人武装プロム・バスティオンの実践テストに移行する」


 女性が持つのは銃だ。大型で銃口の大きな銃。だが、まるで見た事のない形をしている。

 通常の銃のような無骨な形でなく、機械パーツやケーブルがいくつも取り付けられており、人が持つにはやや大きな兵器だ。

 彼女が持つ物以外にも4丁が、彼女の周囲に浮かび銃口を怪人に向けている。


「aaaaaーー!!」


 新たな武装の追加など、怪人にとって知った事ではない。変わらず、全身の筋肉を駆動させて女性に襲いかかる。


「Fire」


 迫る怪人に向かって、女性は静かにトリガーを引く。

 1発の銃弾が怪人に放たれた。


 怪人に避ける意思はない。既に彼女の攻撃は効かないと学習しているから。

 怪人に改造されながらも自由意志を持たない哀れな傀儡にとって、先ほどの攻撃と今の攻撃に違いはない。


 放たれた弾丸はまっすぐ突き進み、怪人に着弾。怪人の強靭な肉体に、強烈な爆破と衝撃を叩き込む。


「aaaaaaa!?!?!?!?」


 異能によって強化された怪人の肉体は堅牢。まさしく肉の鎧。並大抵の攻撃は効果がなく、通常の銃火器ではまるで効果がない。

 だが、今回放たれた銃弾はまさに特別性。怪人に大きなダメージを叩き込んだのが見て取れる。


「なるほど、硬いですね」


 女性は続けて引き金を引き、2発目の銃弾も怪人に直撃する。


「aaaaaーー!?!?!?」


 2度目のダメージを受け、怪人は叫びながら女性に向かって突き進む。

 ここにきて、怪人は彼女を脅威と認識した。体の全てを使った暴力で押し潰さんと彼女に迫る。


「Fire」


 迫る怪人に対して、スーツの女性は逃げるのではなく引き金を引く。

 今度は手に持つ銃だけではない。周囲に浮く4丁も含めて合計5つの銃口が火を吹く。


「aaaaaaaーー!?!?!?」


 5丁の銃によるフルバーストが怪人に叩き込まれる。

 何発もの銃弾を肉体で受け、何度も怯みながら怪人は突き進む。

 女性と怪人との距離はあまり長くはない。怪人が距離を詰め切るまであまり時間はかからず、けれど、空いた距離は後一歩の所で詰め切る事は叶わなかった。


「a、aa……」


 数えきれない銃弾を正面から受け切った怪人は、蓄積したダメージにより大地に倒れる。

 ついに、女性の放った銃弾が怪人を撃ち倒した。


「……ふぅ」


 倒れた怪人を見て、女性は重い重い息を吐き出した。

 当然だ。今まさに目の前まで怪人が迫っていたのだ。一手でも遅ければ、倒れていたのは怪人ではなく彼女だった。

 いくら慣れていようと、彼女の緊迫感は相当な物だった筈。


「a……」


 怪人は倒れた。だが、まだ息がある。

 女性は倒れた怪人の頭部に手に持つ銃を向け、容赦なく引き金を引く。


 カチッ。


 響いたのは、引き金を引く音だけ。肝心の発砲音は鳴らず、怪人に変化はない。


「全弾撃ち切って仕留めきれないとは……」


 女性はため息を吐きながら構えていた銃を下ろすと、ポケットからスマホを取り出すと通話を始めた。


「……私です。怪人との戦闘が発生、無力化に成功。怪人確保の為至急応援をお願いします。ええ、目標はここに」


 ごちゃごちゃと一通り話を終えた女性は、改めて俺達の前に立つ。


「あんた、何者だ」


 怪人との戦闘に使用した装備は、一般では流通していない代物。ヒーローにしては格好が見慣れないもので、おそらく別の組織に所属している。

 怪人を倒したのも親切心からではなく、別の目的からだろう。目的とは、即ち俺の腕の中。


「なるほど、確かにお話の前に自己紹介をした方が良さそうですね」


 警戒する俺に向けて、女性は胸のポケットから小さな黒い物を取り出して突きつける。


「警視庁公安部異能犯罪特別対策室所属、宇手アヤです」

「公安……!?」

「今日はお話を伺いにきました。緋祭ミカさん」


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