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悪の組織に人体改造された俺、目覚めると組織が壊滅していたので、ヒーローを目指してみようと思います。  作者: 銀猫


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3話

『明日都内の高級ホテルを丸々貸し切ったパーティがあるらしいのよ。金持ちやらお偉いさん方が沢山来るどでかいパーティだ』

『なんでおっさんがそんな事知ってんだよ』

『いいから話は最後まで聞けって。んで、あんまりにでかいパーティだからよ、急遽警備を増やそうって事でバイトを募集してるわけ』

『警備のバイトって事か』

『つってもまあ、大事な所はちゃんとしたのが守ってるから、せいぜい使われてない場所の巡回程度の仕事よ』


 ここまではただの短期バイトだが、下垣の言う良い話ってのがある以上、何か裏がある筈。


『ここからが本題、そのパーティにダークマターの残党が襲撃するらしい。なんでもお偉いさん方を人質にとって色々要求するんだと』

『はぁ?』

『残党つっても俺みたいな下っ端の寄せ集めだ。だが、下っ端だろうと結社に作られた改造人間。ヒーロー共も常駐してねえみたいだし、警備程度は簡単に突破するだろうな』

『そいつ等を手伝えって?』

『馬鹿言ってんじゃねえ。いくら人質を取ったからと言って、作戦が成功するわけねえだろ。どうせ後から来たヒーロー共に邪魔されて失敗するに決まってる。態々捕まりにいくのはアホのする事』


 遠回しに元同僚達のことをアホ呼ばわりしているが、一旦置いておこう。


『じゃあ何か?火事場泥棒でもしろってか』

『違う違う。やるのはもっとまっとうな事。良いか、お前は誰でも良い。とにかく金持ってそうな奴を助けろ』


 なんとなく、下垣が言いたい事が分かった。


『金持ち助けてお礼を期待しろと』

『そう言うこと。まあ失敗してもバイト先から危険手当が出るだろうし、まあまあ儲かる筈だ。気楽に行ってこい』

『気楽って、人を危険地帯に送り込む時に言うセリフか』

『な〜にが危険だ。襲ってくるのもせいぜい武装した戦闘員。お前にとっちゃ楽勝な相手だろ。折角だからせいぜい稼いでこい』

 

 以上が昨日のやり取り。

 結局、下垣に押されつつ警備のバイトとしてホテルに来た。

 紺色の警備服と帽子を着用し、担当のフロアを一人で見回る。いつもなら一般の人が宿泊しているであろう客室フロアも、今日に限っては人の気配が感じられない。

 ホテル丸々一つ貸切にするなど、どんなパーティが行われているのだろうか。まあ、下垣の話が本当ならこの後襲撃されるらしいのだが。


「人死だけは出さないように頑張りますかね」


 来てしまったものは仕方ないので、できるだけ沢山人を助けようと思う。襲撃を知っていながら死人を出すのは、流石に気まずい所の話ではないので。

 といっても、襲撃犯達も人質を取る事が目的らしく、無闇矢鱈に傷つける事もないだろう。


 パーティが始まり一時間が経った頃だろうか?何か、嫌な予感を感じた次の瞬間、


 ボンッ!!!!


 鼓膜を響かせる爆音と共に、足場がグラグラと揺れ、続くようにボン、ボンと複数の爆発が立て続けにおこる。

 ジリリリリリリリリ。耳をつんざくような非常ベルの音が、建物全体に火災が発生している事を告げている。


「聞いてた話と違うぞおっさん……!!」


 聞いていた話では、武装した集団が突入して人質を取ると言う事だけ。爆弾を使うなんて話は聞いていない。

 これではまるで破壊を目的としたテロではないか。


 起こった爆発は一度や二度ではない。火災も発生している以上、この建物もいつ崩れるか。とにかくパーティを行っている最上階に向かうため、非常階段に向かう。


「ケホッ、思ってたよりも火の回りが早い……!」


 非常階段の素早く駆け上がるも、上層付近では既に火災が起こっている。


「因子解放、水流怪人バクスイ」


 身体に宿る怪人因子を喚起し、右手に大きな水泡をつきりだす。燃え盛る火に向かい大量の水を放射し、ルート上の炎を消化する事で目的地である階層までの道を確保した。

 火が消えた隙に残りの階段を駆け上がり、目的の階層に辿り着く。


「ケホッケホッ……!」


 扉を開けて中に入ると、階段とは比べ物にならないほどに炎と煙が蔓延している。


「誰か!誰かいませんか!!」

「き、君は」


 声を上げながら移動していると、近くの部屋から黒服にサングラスをかけた男が出てきた。

 確か上のフロアを守っていたSPの人だ。


「警備の子か、でもどうやってここに。階段は炎で通れなかった筈」

「なんとか消火して上がってきました。今なら下に降りれます」

「それは本当か……!!良かった、これで下に避難させられる」


 黒服の後ろを除いて見ると、高級感のあるスーツを来た男性や、煌びやかなドレスを纏った女性が老若男女おおよそ10数人程が口を押さえ込みながら座っている。


「早く移動しましょう。他の人たちも限界みたいですし」

「そうしたいのだが、実は--」

「見つけたぞ!!」

 

 突然会話に割って入ってきた第三者。視線を向けると、黒いフルフェイスヘルメットのような装備に、全身真っ黒の服にプロテクターを取り付けた男が二人、銃を抱えてこちらに走ってくる。

 間違いない、あの姿は一度下垣に見せてもらった事がある。ダークマターの下っ端戦闘員が使うバトルスーツだ。


「まずい…!見つかった……!!」


 なるほど、ここに隠れていたのは追ってから逃げるためか。

 黒服が携帯していた拳銃を構えるが、大型の銃を装備し全身に装甲を纏っている戦闘員には脅威になり得ない。


「因子解放、怪力怪人マッスラー……!」


 小さな声で怪人因子を起動。強化された筋肉を駆使して大きく一歩を踏み出す。

 戦闘員達が狙いを定めるよりも早く、一歩、更に一歩と距離を詰める。


「なっ--」

「ふん!!」


 筋力が強化された右腕は、戦闘員の纏うプロテクターを砕き、意識を刈り取りながら大きく後ろに吹き飛ばす。


「貴様!!」

「おせぇ!!」


 もう一人の戦闘員と俺の距離は目と鼻の先。ここまで来れば戦闘員の構える銃よりも、握りしめた拳の方が早い。


「かはっ……!?」


 素早く逆側の左手を握りしめ、戦闘員が狙って引き金を引くよりも早く拳を放つ。

 放たれた拳は先程と同じように、容易く戦闘員の意識を刈り取った。


「さて、早く移動しましょうか」

「あ、あぁ、いや、凄いな君は」

「あー、はは、実は元々ヒーロー目指してまして」

「なるほど、そう言う事か」


 どうやら適当でも誤魔化しが通用したようだ。

 ちょっとした危機をやり過ごし、残っていた人たちを非常階段まで誘導する。


「これで全員ですか?」

「それが、実は……」


 ようやくこの危機的状況から脱するというのに、黒服の表情は酷く暗い。


「まさか、まだ上に?」

「ああ、何人かが捕まったんだ。他にも俺たちを逃すために囮を引き受けた子もいる」

「わかりました。ひとまず俺が上に上がるので、他の人達の避難をお願いします。それと応援の要請を」

「分かった。君も気をつけてくれ。いくら強くても、相手はテロリストだ。何をしてくるか分からん」


 残っていた人達を黒服に任せ、1人で上の階に登る。

 たった一つ上に登っただかだが、ここは下よりも更に酷い。いくつか大きな破壊跡が見えるので、ここが爆発した場所の一つなのだろう。

 襲撃犯の主格もこの階にいるため、気配を消しながら探索を開始する。


「煙が酷いな……!」


 人体改造されているからこの火と煙が充満する空間を歩けているが、普通の人ならば長居をすれば命に関わる。

 なんとしても早く見つけなければ。


「時間がないな。因子解放、音楽怪人マイク・ジャックホーン」


 音を操る怪人因子を解放し、周囲の小さな音をくまなく聞き取る。ここから少し離れた場所から、くぐもった嗚咽が僅かに聞こえてきた。


 生きている。だが状況は間違いなく良くない。

 急いで聞こえてきた場所まで行くも、扉には鍵がかかっており開く気配は見えない。

 だが、これでも俺は怪人。この程度の障害など蹴りひとつで砕ける。


「大丈夫ですか!?」

「ん、んー!!」


 中には一人の戦闘員と五人の男女が手足を固く縛り上げられ、床に転がされている。


「誰--」


 戦闘員が咄嗟に銃を構えようとするが、素早く近寄り銃の先端を掴んで上に向ける。

 残った片手を腹部に当て、解放していた異能を発動。戦闘員の内部に爆音を流し込んで意識を刈り取る。

 

「今助けますから」

「えほっえほっ、はぁー……、助かった……」


 口を覆う布を取り払い、戦闘員から奪い取ったナイフを使って手足を縛る縄を切り取る。

 数分もかからず、全員を解放する事ができた。


「早くここから出ましょう。今ならまだ階段が使える筈」

「あ、あの!!」


 他の戦闘員達が来ないうちに移動を開始しようとしたが、五人の中から少女が俺の前に飛び出してきた。

 若い、とても若い少女だ。おそらく年は俺より一つ下の16ぐらいだろうか?この場に似合わない年齢だ。


「あの、先輩は、先輩を知りませんか!?」

「先輩?」

「私の先輩なんです、私達を守る為に自分が人質になるって、連れていかれちゃって……!!」

「チッ、そう言うことか」


 態々捕まえたのに一人も監視を付けずにこの部屋で放置していたのは、彼女のいう先輩とやらが捕まえた五人よりも価値があると言うこと。

 当初の話では人質をとって色々要求すると聞いていたが、あまりにも聞いていた内容と違いすぎる。どうもただ人質を取るだけで済む気がしない。


「……、いや、だが」


 この五人を残すわけにもいかない。今いる階層は他よりも煙が充満していて一刻も早く脱出する必要があるし、階段もいつ火の手が再び上がるとも限らない。

 何より、未だ敵の人数は不明。いつどこで接触するかも分からない。


 少女の言う先輩は助けたい。

 けれど、目の前の命を危険に晒す事もできない。

 二つの選択肢。悩む時間はない。火の手も敵の手も、すぐそこまで迫ってきている。

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