第19話
俺とミカは目的地から程よく離れた位置までタクシーで移動した。
これ以上乗り物を使って移動すれば、乗り物ごと狙われて他の人を巻き込みかねないので、少し遠いがここからは歩きを選択する。
「……ねぇ、あれ」
「……確か緋祭組の」
2人で歩いていると、遠巻きから奇異な視線と噂話が飛んでくる。
いつも和服を着ている為、他の服に着替えたミカはただの美少女。対してミカの近くを歩く黒スーツにサングラス姿の俺はあからさまに怪しく完全にミスマッチ。不審者と捉えられてもおかしくない。
今の状態を考えると、通報されてないだけマシかとも思う。
「おい、オワリ」
「……」
「おい!!」
「うぐっ……!!」
周りを気にして少し距離を空けようとすると、突然ミカにネクタイをグイッと引っ張られ、視界が周りの景色からミカの顔に無理矢理切り替えられた。
「良いかオワリ。周りに何て思われようが、オレから離れるんじゃねえ」
「いや、でもさ。流石に見た目が悪いっていうか」
「うるさい。見た目がなんだ。今だけはお前も緋祭組の一員なんだ。だから、堂々とオレの近くを歩け。離れるな」
「……うっす、組長」
「ミカ」
「……ミカ」
「よろしい」
離れようかと思っていた所を、ミカによって引き戻された。
ミカが奇異な目に晒されるのを遠慮した形だったのだが、ミカはとっくに慣れていたらしい。
改めて、彼女の強さを感じつつ、俺達はピッタリと距離を近づけながら目的地に向かって歩く。
この地域で最も大きい和装の大豪邸が、目的地である緋祭組本部。
近づけば近づく程に、一般人の通りが少なくなっているのが目に見えて分かる。
人が少なくなるのとは反対に、遠くから感じる視線が増えていく。
見下すような、侮蔑の込められた不躾な視線が、俺を通り越してミカに突き刺さる。
「……」
最初は離れようかと思ったが、今は近くにいて正解だ。このくだらないモノからミカを遮る為に、ミカの横を歩く。
歩き始めてから一時間程経った。そろそろ目的に辿り着くかなと思った頃、急に周りの人の気配が濃くなった。
少し歩くと、まるで俺達が来るのを待っていたかのように、黒のスーツを着た男達が立っていた。
「これはこれは!!お帰りなさいお嬢。よくぞお戻りに、心配していたんですよ」
集団の一番前に立っているのは、一見穏やかそうな優男。確か工事現場にもいた側近の右龍とかいう男だ。
右龍は後ろにゾロゾロと手下を引き連れながら、笑顔でミカを迎える。
「右龍……」
「外に出るなら出るって言ってください。連絡もつかないもんだから、皆してそこら中探し回ってますよ」
「確かに、連絡もしないのはオレが悪かった」
「良いです良いです。こうして無事に帰ってきてくれただけで、俺達は十分なんですから。ささ、早く帰りましょう」
右龍は待ってましたとミカに近寄る。
ミカも右龍と合流する為に前に歩き出す。
俺は、ミカを遮るように前に立ち、右龍を睨みつける。
「オワリ……?」
「テメェ、何お嬢の前に立ってんだ。さっさとどけ」
「おい、右龍さん。あんたに聞きたい事がある」
「あぁ?」
「何であんたから血の匂いがするんだ」
改造され強化した五感がはっきりと捉えた。目の前に立つ綺麗で清潔な姿の右龍から匂う、新鮮でドス黒い血の匂いを。
「何言ってんだテメェ」
「それと、さっきから俺達の周りを取り囲もうとしてる奴等もあんたの手下か?」
今目の前にいる奴らだけでなく、俺達から姿を隠してこそこそと動き回り、包囲網を作ろうとしている気配を感じる。
とても、組織のボスであるミカを迎え入れる様子ではない。これではまるで、獲物を捕らえる為の包囲網だ。
「……なんだ、一人ぼっちかと思ってたのに、まだ有望そうなのが残ってたか」
「右龍、まさか、お前……」
右龍がパチンと指を鳴らすと、右龍の周りにいた取り巻き達が前に出て、懐から拳銃を取り出して銃口を俺に向ける。
「ミカ!!!!」
引き金が引かれるよりも早く、俺はミカを抱きしめながら勢いよく横にとび込む。
瞬間、男達は容赦なく引き金を引き、無数の銃弾はさっきまで俺達がいた場所を通り抜けた。
「お前……!!」
「おいおい、気をつけろよ。お嬢はできるだけ傷つけるなって言ったろ?」
声音は変わらず、口調も優しいまま。されど、こちらを見る眼は雄弁に語る。屑であると。
「右龍、なんで……」
「あれ?もしかしてまだ俺達のこと信じてたんですか?本当におめでたいお人だ。だから、こんなに簡単に乗っ取られるんですよ」
誰に何と言われようと、ミカは最後まで彼等を信じていた。
母親が作った組織だから、母親が愛した場所だからと、どうにか自分が繋ぎ止めねばとボロボロの体で駆けずり回った結果がこれだ。
「今の時代、上手くやればいくらだって金を稼げるってのに、いつまでも仁義だなんだって古臭いんですよ。俺達はね、そんな金にもならないおままごとなんて、これっぽっちも興味がない」
「ち、違う!!母様が作ったのは、緋祭組は守る為の……!!」
「それは二代目までの緋祭組」
「え……?」
「これから生まれ変わるんですよ。有象無象を喰い漁って、腐るほどの金と力を手に入れる。それが、俺が率いる三代目緋祭組だ」
右龍と取り巻き達は、地面に座り込み必死に訴えるミカを嘲笑う。
「オレは、オレは……!!」
いきなりミカの体がガクンと崩れる。
敵を前にしながら地面に座り込み、荒い息を無数に繰り返す。
病院で休み多少回復したとは言え、ミカの体は未だにボロボロのまま。ここに裏切り行為で精神に大ダメージを受けて、ついに限界を超えてしまったのだ。
緋祭組に裏切られたダメージは、今のミカにはあまりにも大きすぎる。
「ミカ!!」
「動け、動けよ……!!」
ミカを守るように、俺は右龍と対峙する。
こいつ、話を聞いて怪しいとは思ったが、まさかここまで露骨に実力行使に出るとは思わなかった。
一部の裏切りだけかと思っていたが、緋祭組そのものが敵に回るとは。俺達の考えていた以上に、相手の動きが早すぎる。
「ちょうど良い、お前達に力の一端を見せてやろう」
再び右龍が指を鳴らすと、空から落ちて来たのは3体の怪人。
全身を鋼鉄の鎧で覆う巨漢の怪人、鋼鉄怪人アイアーン。砲台と化した右手に高温の炎を纏う火炎怪人ヘルフレイム。肥大化した筋肉を持つ3メートルの巨漢、怪力怪人マッスラー。
「怪人!?この圧力、まさか……!!」
この圧力、普段相手にする怪人ゲノムを使った偽物じゃない。恐らく結社シャドーの手によって生み出された限りなく本物に近い力をを持つ怪人達だ。
「そこまでズブズブの関係だったのか」
ただの怪人ゲノムの売り先程度だと考えていたが、結社から直々に怪人を貸し出される程の親密な関係だとは思わなかった。
「ッ!!鬼神楽!!」
ミカは最後の気力を振り絞ってどうにか刀を握りしめるも、鬼面の傀儡は現れない。
「なんで、なんで動いてくれないの……!!」
今のミカに異能を鬼神楽を扱うだけの余力はない。ボロボロの肉体を不屈の精神だけで無理矢理動かしていたのだ。精神が折れた今、限界なのは誰の目で見ても明らか。
「チッ!!」
三体の怪人は昨日倒したのとは姿形が同じでも、持っている力はまるで別物。あいつらを瞬殺するには昨日以上に全力を出すしかない。
だが、この場で全力を出せば、弱って動けないミカを間違いなく巻き込んでしまう。かと言って巻き込まないように力をセーブして戦えば、怪人には勝てるだろうが四方八方から狙われ続けるミカを守り切れる自信はない。
場所も最悪だ。この辺りは人気がないとは言え市街地。建物内に一般人がいる可能性もある。下手に火力を上げて戦えば巻き添えにするかもしれない。
伏兵がいる可能性も考えると、この場で戦うのは明らかに不利。
「ミカ!!ここは引くぞ!!」
俺が今優先するべきは敵を倒す事じゃない。ミカを守る事。
「因子解放、火炎怪人ヘルフレイ×氷結怪人ツンドラ」
炎と氷、二つの異能を胸の前でぶつけ合う。
「スチームバースト!!」
相反する二つの異能がぶつかり合い、この辺り一帯を白い蒸気で覆い尽くす。
「因子解放……!!」
僅かに出来た隙をつき、俺は異能で筋力を強化
しつつミカを抱き抱えて走り出す。
「ゴホゴホ、追え!!男は殺せ!!女は生かして持って来い!!」
逃げた俺達を一体の怪人、怪力怪人マッスラーが追ってくる。




