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悪の組織に人体改造された俺、目覚めると組織が壊滅していたので、ヒーローを目指してみようと思います。  作者: 銀猫


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第16話

「今、この辺りでブツをばら撒いてるやつがいる」

「あの時のアイツか」

「そう、まさにオレは今、その売人を追っているところ」


 ミカと遭遇した初日に話しかけて来た怪しい人物。薄々気がついていたが、やはり売人か。


「その売ってるブツって何なんだ。ミカが追ってるって事は、ただの薬ってわけじゃないんだろ」

「……怪人ゲノム」

「なっ……!!」


 返って来た返答は、予想していたものよりも数段危険な物だった。

 怪人ゲノム。おそらく悪の結社シャドーが製造しているであろうブツ。一度蔓延ってしまえば、この辺りで異能犯罪が爆発的に増える事になる。


「なるほど。放っておくわけにはいかない。追っている理由も分かった。けど、なんでお前1人で追ってるんだ」


 緋祭組の結成目的を考えれば、怪人ゲノムをばら撒こうとしている売人を追うのは理解できる。だけど、今追っているのは目の前のミカだけ。

 しかも、毎日たった1人で無茶をしながらだ。この状況は組織として明らかに異常。


「それは……」

「……もしかして」


 ここに来て言い淀んだミカは、袖をギュッと掴んで顔を俯かせる。

 ミカの反応を見て、俺の中にある仮説が生まれた。ミカにとって、とても嫌であろう仮説だ。


「売っているのは、緋祭組の構成員か」


 緋祭組の現組長であるミカが組の助けを求められない理由は、あまり多くは考えられない。

 現状で最も有力なのは、関わっているのが組内部の人間だという可能性。

 だとすれば、組員を使った捜索を行わず、深夜に1人で組を抜け出して街を駆けずり回っているのも分かる。


「……証拠はない。まだ噂だけど、でも」


 緋祭組の黒い噂が、まさかこれだったとは。

 黒いにしても限度がある。仮に、噂通り怪人ゲノムを売り捌いているのが緋祭組だった場合、緋祭組は結社シャドーと関わり合いがある事を示している。

 現状怪人ゲノムを作れるのは結社シャドー以外には存在しない。


「それに、あくまで噂なんだ。確証だってない。売人を捕まえて、ウチと関係なければ、緋祭組の噂は消える、はず」


 現状、緋祭組は疑われる立場であっても、下手人と確定したわけじゃない。

 確定していたなら、とっくにヒーロー達が動き出しているはずだ。今動いていないのは、確たる証拠が見つかっていないから。

 だが、本格的に調査は始めているだろう。怪人ゲノムを売り捌くのを見逃すほど、彼等はバカではない。


「でも、それは……」


 確かにミカの言う通り、犯人を捕まえて緋祭組じゃなければ、噂は消えるだろう。しかし、今一番怪しく、犯人の可能性が高いのは緋祭組なのだ。


「分かってる。でも、信じなきゃ。オレが、信じなきゃ……!!」

「なあ、なんでそこまでするんだ」


 組織を預かる重圧、組員の誰も認めてくれないストレス、日々慣れない業務による疲労に、夜も捜索に当てているため睡眠不足。

 いつ倒れてもおかしくないボロボロの身体を引きずっても、なお組を信じたいと強く願うミカ。


 部外者の俺には、彼女がここまでするような組織には思えない。


「だって、緋祭組は、お母様が大事にしていた組だから……」


 ポツリ、とミカの服に雫が落ちる。


「お母様が信じた組だから、オレも信じなきゃ。信じたいんだよ。だって、あそこには、お母様との思い出が沢山あるんだ……!!」


 緋祭ミカの父親は、彼女が生まれる前に事故で亡くなった。

 今まで育ててくれた大好きな母親も、数年前にダークマターとの戦闘で死亡した。

 ミカに残されたモノは、驚くほどに少ない。残された中で母親との思い出が最も多く詰まった組織も、いつバラバラになってもおかしくない状況。


「オレにはもう、ここしかないんだよ……!!」


 俺には記憶がない。ミカのように、大事な肉親なんてものは存在しないし、家族との思い出なんて一欠片もないけれど、


『遅かったなオワリ!!飯行くぞ飯!!』


 大事な人を亡くした思いだけは理解できる。

 

「しょーがねーなー」

「え……?」

「しょうがないから、手伝ってやるよ」


 同情なんかじゃない。ただ、俺がやりたいと思った。相手が緋祭組の組長?だからどうした。

 例え相手が誰であろうと、涙を流した人を放っておけるものか。


 なにより、悪人が怪人を拾ったのだ。怪人が組長を拾ったって良いだろう。


「でも……」

「どうせここで止めても、やめるつもりはないんだろ?」

「……うん」

「なら、近くで見ていた方が100倍マシだ」


 ここまで知ってしまった。ここで無視して知らない場所で倒れたりなんてされたら、きっと俺は後悔する。


「やっぱり駄目だ。危ないよ、オワリを危険に晒してしまう」

「大丈夫。こう見えて俺は逃げ足がめちゃくちゃ速い。誰にも負けないくらいにな」


 ミカの心配を笑って吹き飛ばす。

 

「だから、1人で無理するんじゃねえぞ」

「……おう」


 緋祭組と関係なく、ヒーローでもないただの余所者だからこそ、信用できる時もある。

 結果がどうなるかは分からない。ミカが望む形にはならないかもしれないけれど、せめて彼女が無事に結末を迎える手伝いくらいは出来るはずだ。


「……」

「ミカ?」


 コツンと、俺の方に重さが加わった。

 顔を動かしてみると、ミカの頭が俺の肩の上に乗っている。


「…………」


 眠気やストレス、疲労などなどが重なった状態で安心した結果、無理矢理繋ぎ止めていた意識が切れてしまったのだろう。

 俺の肩から、穏やかな寝息が聞こえてくる。


「しょうがないか……」


 今ここで起こすほど俺は鬼ではない。ミカは明け方には帰らないといけないだろうし、せめて今日くらいは明け方ギリギリまで寝かせてやろうと、俺は空を向いて小声で呟く。


 夜空は腹が立つ程に綺麗だった。


 **********


 ミカを手伝うと宣言した次の日から、俺には新たな日課が加わった。夜勤のバイトが終わると、いつもと同じ場所でミカと合流し、共に町を練り歩く。

 彼女と捜査が終わると、公園に足を運んで休ませる。


 内容自体はあまり変わっていないが、隣で一緒に行動することで無茶を抑制しつつ、調査を始める時間を遅らせたり、途中で休憩を挟んだりと負担を軽減する。

 劇的に内容を変えるのではなく、今はミカに寄り添い彼女のやりたい事をやらせることにした。


 横に誰かがいる。一緒に行動してくれるだけで、人は気が楽になったりするものだ。


 バイト最終日。長いようで短かった2週間が終わり、今日も約束の場所に向かう。


「明日からどうするか」


 バイトが終わり、夜が丸々開く事になった。これでミカを手伝う時間も確保できるわけだが、バイトを理由にしてミカの睡眠時間を確保していた側面もある。

 これ以上彼女の負担を増やさない何かいい方法はないものかと考えていると、目的地に辿り着いた。


「……早く着きすぎたか?」


 目的地に辿り着いたものの、ミカの姿は見えない。最終日だからか、想定よりも早めにバイトが終わったため、早く着きすぎてしまったのかもしれない。

 一度コンビニに寄ろうかとも考えたけれど、すれ違いになるのが嫌だったので、ここで待つ事にした。


 十分ほど待っていると、遠くから音が聞こえた。


「なんだ……?」


 足音や話声なんかじゃない。もっと剣呑で、荒々しい音。


「っ……!!」


 嫌な予感がした。

 考えるよりも早く、俺の体は大人なる方向に走り出す。

 早く、速く、疾く。全力で音の鳴る方向に。


 どんどんと音が近くなり、音自体に激しさが増していく。

 遂に音の発生源を目視できた。


 月の光に照らされ輝く剥き身の刃。月夜を舞う鬼に、三体もの怪人。道の端には機械兵の残骸が散らかっている。


「ミカっ!!!!」


 辺りに充満する、咽せるほどの血の匂い。

 ミカの服は、遠目から見ても分かる赤黒い染みがいくつも出来ていた。


「あぁ……、来ちまったか……」


 俺に振り向くミカ。無理矢理作った笑みは、頭から流れる血で汚れている。


「大丈夫、すぐ、倒すから」


 無茶だ。相手の方が数が多く、ミカのコンディションは最悪に近い。このまま戦えば絶対に死ぬ。

 ミカだって結末は分かっているはずだ。だけど、分かっていながらも彼女は戦うことを選択した。


「だから、先に、逃げてろ」


 ミカ1人なら逃げる事は出来たはずだ。なのに、戦うことを選択したのは、俺の為なんだろう。

 俺を巻き込まない為に、俺が待つであろう場所から遠ざける為に、彼女は怪人達と戦う事を選んだ。


「っ!!危ない!!!!」


 怪人の1人、炎を操るヘルフレアの攻撃がミカに放たれる。大きな火球。当たれば骨も残らず消し炭になる。

 だけど、ミカは動けない。身体はもう限界で、立っているのもやっとで、動いてしまえば後ろに攻撃がいってしまうから。

 他の怪人達を押さえている為、鬼神楽の防御も間に合わない。


「あっ……」


 炎が爆発する。人を簡単に焼き尽くす紅蓮の炎がミカを包んだ。

 俺を守る為に盾になる。なんて結末を、俺は容認しない。


「この、馬鹿が。もっと自分を大切にしろ」


 炎が消える。生命を焼き尽くす灼熱地獄の中から現れたのは、意識を失ったミカと、風と水を纏う真っ黒な異形。


「だけどまあ、礼だけは言っておく」


 最後まで、ミカは俺のことを守ろうとしてくれた。だから、ここからは俺が彼女を守る番だ。

 ミカぎ意識を失った事で、虚空に鬼神楽は消え去った。


「まったく、大人数で1人の女の子を追い詰めるのが怪人のやる事か?」


 優しくゆっくりとミカを地面に寝かせて、俺は怪人達と向き合う。

 三人の怪人に、群がる機械兵。対するは、終焉怪人エンド。


「因子、解放……!!」


 加減はいらない。躊躇も必要ない。彼女を守りつつ、目の前の敵達を最短で叩き潰す為に、体に眠る因子を全力で稼働させる。


「岩石怪人ガンロック!!」


 大地から生える岩の棘。有象無象を間引く処刑の剣が、怪人達に群がる機械兵を串刺しにする。


「因子解放!!」


 下手に時間をかけて応援を呼ばれるわけにはいかない。倒れたミカを守り切る為にも、ここで求められるのは最短での勝利。


「筋肉怪人マッスラー×鋼鉄怪人アイアーン×爆弾怪人ダイナマイン!!!!」


 因子の三重解放。ミカを巻き込まない為に、広範囲かつ威力の高すぎるものはNG。

 威力の調整が効きつつ、ミカを巻き込まない接近戦を挑む。


「一体目!!」


 抉るようなボディブローが相手の怪人の内の一体、2メートルの巨体を誇る筋力怪人マッスラーに突き刺さると同時に爆発。

 打撃と爆発の二重ダメージを超至近距離でお見舞いし、勢いよく吹き飛ばす。

 まずは1人。


「因子解放!!」


 続いて2人目。


「×烈風怪人タツマキ!!」


 追加の因子を掛け合わせ、異能の四重解放。

 風の異能でさらに加速して拳が残った2人の怪人の1人、鋼鉄怪人アイアーンの顔面に振り下ろすように叩き込む。


 アイアーンの誇る鋼鉄の身体は、俺の加速した拳と爆発に敗北。殴られた衝撃で、そのまま大地に倒れ伏す。


「因子解放!!!!!!」


 更に追加で因子を解放。

 

「電気怪人デンキング×音楽怪人マイク・ジャックホーン!!!!」

 

 更に電気と振動の異能を拳に宿す。

 異能の五重解放。


「ぶっとべ!!」


 鋼の肉体でさえ耐え切れない一撃を更に強化。当然、ヘルフレイの体では耐えることなどできはしない。

 強化され尽くした拳は、容易くヘルフレイの意識を刈り取った。


 怪人達の姿が溶け、人の姿に戻る。機械兵達はまとめて串刺しにされ、残されたのは黒い異形ただ1人。


「ミカ!!」


 俺は変身を解き、ミカの元に駆け寄る。

 良かった、怪我はあるものの、なんとか無事ではあるみたいだ。

 

 ミカの無事を確認した後、一応怪人に変身していた三人を確認するが、何かがおかしい。

 怪我自体はミカより浅いはずなのに、俺の呼びかけにまるで反応を示さない。まるで酷い昏睡状態に陥ってしまっているようだ。

 おそらく怪人ゲノムの副作用なのだろうが、あまりに副作用が強すぎる気もする。


「あー、考えてもしょうがないか」


 ここでちんたら考えていてもしょうがない。

 ホテルでの事件と違い、ここには救急車も医者もいない。早く手当をしなければ。


 通報だけしてこの場所を伝えて、後始末はヒーローに任せる。

 一応三人の顔写真だけは撮影した後、俺はミカをお姫様抱っこの形で抱え込み、近くの病院に向けて走り出す。

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