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悪の組織に人体改造された俺、目覚めると組織が壊滅していたので、ヒーローを目指してみようと思います。  作者: 銀猫


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第15話

「とりあえず名前教えろよ、名前」

「え、なんで」

「オレだけ知られてるのも癪じゃねえか」


 少しだけ名前を教えるのを躊躇うが、まあ大丈夫だろう。


「まあ良いか、俺の名前は常世オワリ」

「オーケー、オワリ。オレの事はミカって呼べ」

「緋祭じゃダメか?」

「苗字で呼ばれるの嫌いなんだよ」


 緋祭、と呼ぶと、あからさまに嫌な顔を見せたミカ。俺としても態々人の嫌がる事をする趣味はないので、言われた通りミカと呼ぶ事にする。


「でだ、オワリ、さっきの男に何かされたか」

「特段何かされてはないかな。何か怪しいものを買わないかって迫られはしたけど」


 俺の一言に、ミカは血相を変えて詰め寄り俺の服を掴む。


「何かってなんだ!!ブツは見たのか!?売人の顔は!?」

「ちょっ、落ち着けって」


 殴りかかる勢いで浴びせかけられる質問の数々。怒涛の勢いに押されながら、とりあえずミカを落ち着かせる。


「……すまん、取り乱した」

「別にいいよ。それで、あー、確か何か見たかって話だったな」

「ああ、何でも良い。何か見たなら話してくれ」

「とは言ってもなぁ……」


 この辺りは街灯も少なく闇が濃い。暗闇に目が慣れていても、フードで深く隠した相手の顔まではわからなかった。

 押し売りしてきた何かも、最後まで商品を見せてこなかったので、売りつけようとしてきた商品の正体は分からない。


「ごめんだけど、暗くて詳しい事は何も見えてない。何かを売りつけようとして来たけど、最後まで商品は見せてこなかった」

「そう、か……」


 俺の返答を聞いて、ミカは明らかに落ち込んだ表情を見せたが、すぐに気を取り直して表情を戻す。


「すまん、力になれなかったみたいで」

「いや、いいんだ。被害がないならそれでいい」


 求めていた答えは返ってこなかっただろうに、ミカは極力こちらに気を使ってくれる。

 

「悪かったな、呼び止めて」

「じゃあ、俺はこれで」


 ここから世間話をする間柄でもない。話す事は話したので、ミカと分かれ帰ろうと歩き出す。


「おい」


 少し歩いた所で、もう一度呼び止められた。

 まだ何かあるのかと振り返ると、何か小さい物が放物線を描いてこちらに向かってくる。


「ん?おっと!」


 飛んできた物をキャッチすると、両手が冷たい。何だこれはと確認すると、市販のいちごミルクだ。まだ小さなペットボトルに入ったジュースで、とても冷たい。


「話をしてくれた礼だ。受け取れ」


 ミカが立っている後ろには、古めかしい自販機があった。多分、あの自販機で買ってこちらに放り投げたのだろう。


「ありがとだけど」


 何故数あるジュースの中からいちごミルクを選んだのだろう。こう言っては何だが、炭酸はあれとしてもオレンジジュースやらブドウジュースやらと他に無難なチョイスがあったように思う。


「もしかして、好きなのかいちごミルク」

「っーー!!知るか!!良いから気をつけてさっさと帰りやがれ!!!」


 どうやら図星だったらしい。

 ミカは顔を赤くするとそっぽを向き、顔を隠してさっさと歩いて去っていった。


 俺はミカの背中を見送って、貰ったイチゴミルクを開けて口に含む。

 疲れた体に甘味が広がり、少しだけ疲れが取れた気がした。


「帰りますか」


 この後は特に語ることはない。何事もなく家に帰り、歯を磨いてベッドの中に潜り込んだ。

 だが、一つだけ付け加えるのだとしたら、この時の俺は悪縁と言うやつを見くびっていたのかもしれない。


 当然ながら、工事のバイトはまだ終わっていない。夜中のバイトは2週間ほどの期間があり、寝て起きれば夜にはまたバイトに行く。

 仕事が終わり、昨日とまったく同じ帰り道を使って帰っていると、


「あっ」

「げっ」


 昨日とまったく同じ場所で、明らかに嫌そうな顔をしているミカと再会を果たした。


「お前、なんでこんな所にいんだよ。昨日怖い目にあっただろ」

「なんでって言われても、バイト帰りなんだからしょうがないだろ」

「バイトって、こんな夜中にか?」


 確かに、俺の年齢的に考えるなら、こんな時間のバイトは推奨されたものではないが、年齢を言うのであればミカも同じこと。


「ミカだってこんな時間に出歩いてるじゃないか。お互い様だろ」


 詳しい年齢は聞いていないが、恐らく俺と同年代ぐらいだろう。ミカもまた、この時間帯に出歩くのはよくない筈だ。


「オレは、あれだ、色々あんだよ!!」

「あ、逃げた」

「うるせー!!」


 特に反論が思い浮かばなかったのだろう。

 子供みたいな言い分を残し、ミカは走ってどこかに行ってしまった。

 

 こうして、俺とミカの奇妙な関係が始まった。

 バイト終わりの帰り道。まっくらな深夜の時間帯に、俺とミカはまったく同じ道でばたりと出会う。

 出会ったからと言って、特に会話らしい会話もしない。


「またお前かよ……」

「こっちのセリフだ。俺はこの道が一番早いの」


 ただ、顔を合わせて軽口を2、3回言うだけの不可思議な関係。お互いに迷惑そうな皮をかぶってはいるものの、プライドだったり安心感だったりで道を変える事だけはしていない。

 帰る時間は微妙に違っている筈なのに、二人は必ず同じ道で遭遇する。


 初めての遭遇から、七日目。

 今日も今日とて俺は帰り道を歩くのだが、最近は少し心配な事が増えた。


「なんだ、今日もいんのかよ。いい加減見飽きてきたぜ」

「ミカ……」

 

 いつも通り軽口を叩くミカだが、彼女の顔を見ると俺は言葉を詰まらせてしまう。


「はっ、なんだ。言い返せなくなったか?」


 言葉の軽さとは裏腹に、彼女の顔は酷く辛そうだ。

 日に日に濃くなっていく目元の隈に、足取りも妙に安定していない。体だって時折ふらついている。


「おい、大丈夫か」

「あ?何言ってやがる。大丈夫に決まっているだろう」


 多分俺と出会った日からまともに睡眠をとっていないのだ。昼間は緋祭組として活動し、夜はこうして何かを探している。いくら若くて頑丈な体だとは言え、人には限度っていうものがある。今のミカは明らかに限界だ。


「大丈夫に見えないから聞いてるんだろ」

「はっ、余計なお世話だ……!!」


 俺の心配を蹴り飛ばし、歩いていくミカ。

 一瞬送って行こうかとも考えたが、ミカ自身が望んでいない以上は余計なお世話だろう。無理についていっても拒絶されるだけ。

 俺は胸に残るモヤモヤを抱えながら、家に帰った。

 

 翌日、俺はいつも通りバイトを終わらせて帰路に就いたのだが、今日はいつもと違っていた。

 いつもの場所に来てもミカが見当たらない。もうミカと遭遇しておかしくないのだが。この場所に人の気配は感じられなかった。

 流石に限界が来て休んだのか、昨日心配しすぎて道を変えたのか。なんにせよ、ミカの姿はここにはない。


「つー!!くそっ!!」


 別段俺とミカは仲良しってわけじゃない。ここ最近道ですれ違うだけの関係だ。友人よりも他人の方が正確な関係で、けれど見捨ててしまうには心に棘が残る気がした。

 少しだけ、一時間だけここで待ってみる事にした。これはミカの為じゃない。これは俺の納得の為だ。


 数少ない街頭に背を預け、スマホを開いて時間を図る。

 こういう時は、やけに時間が流れるのが遅い。たったの1分が10分に感じ、10分が1時間にも感じる。

 

 大体1時間20分ほど待っていると、遠くから足音が聞こえてきた。

 反射的に顔を上げると、真っ赤な赤い光が見える。光は揺れるようにゆっくり、ゆっくりと近づき、ようやく持ち主の顔を照らしてくれる。


「なんだ、今日は、随分と遅かったじゃ、ねえか……」


 俺の顔を見て笑って見せるミカ。だが、彼女の顔は酷く疲れ切っている。今見せた笑顔だって、ひきつったようにしか見えない。


「おい、ミカ!!」

「もう行くから、お前は気を付け……」


 言葉の途中で、ミカの体がぐらりと崩れる。少女は重力に引き寄せられ、コンクリートの上に倒れ込む。


「危ない!!」


 俺はとっさに腕を差し込むことで、どうにかミカが倒れるのを防ぐことが出来た。


「オワ、リ……?」

「たく、場所変えんぞ」


 どうやら今自分に何が起こったかも、ミカは分かっていないらしい。

 彼女の無鉄砲さに呆れつつ、俺はミカの腕を肩に回し、彼女を支えるようにして場所を変えるために歩き出す。

 目的地はここから一番近い公園。到着すると、ミカをベンチに座らせる。

 座らせて休ませたことで、少しだけ呼吸がマシになった。


「何か飲みたいものあるか?」

「……コーヒー、ブラック」

「ブラック?まあいいか」


 予想外のチョイスに驚きつつ、本人が欲しいと言ったので買うことにした。

 公園に備え付けられた自販機から、要望のブラックコーヒーと水。後、一応イチゴミルクを買ってミカの元に戻る。


「ほい、コーヒーと水」

「すまん……」

「この前のお礼だ。気にすんな」


 ミカはまず渡された水を一息に飲み干した後、コーヒーの蓋を開けると舐めるように口に含む。


「にが……」


 コーヒーを口に含むと、きゅっと眉間に皺を寄せる。明らかにコーヒーを嗜む人間の反応ではない。


「別のも買ってるから、変えるか?」

「良い。オレは、これか良い」

「そっか」


 何か拘りがあるみたいだ。本人が良いと言っているなら、無理に取り換える事もない。

 ちびちびとコーヒーを舐めるように飲むミカの横に座る。


「で、何があった」

「……何も」

「何もないやつが、、いきなり道のど真ん中で倒れるはずがないだろ」


 今のミカは誰が見ても、何もないで済ませられる状態ではない。


「お前には、関係ないだろ」

「あのなぁ……」


 確かに、俺とミカは特別仲がいいわけじゃない。友達と呼べるかも怪しく、良くて顔見知り程度だ。

 けれど、顔見知りだって目の前で倒れそうなら支えるし、目の前で苦しんでいる少女を見捨てる事など出来るはずがない。


「顔見知りでも、知ってる奴が困ってるんなら心配もする。それにな、確かに俺は関係ないかもしれない。けど、関係ないからこそ話せることもあるだろ」


 今の俺はヒーローでも緋祭組でもヴィランでもないただの一般人。逆に何とも関係ないからこそ、知人には言えない事も吐き出せる。


「良いから、とりあえず話だけでも聞かせてみろ」

「……分かったよ」


 いつもより素直なのは弱っているからか、本当は誰かに吐き出したかったのか。どちらにせよ、今はミカの話を聞こう。

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