第14話
以前、ココロの退院祝いの為にソラの部屋を掃除したのをキッカケに、俺は週に一度くらいのペースでソラの部屋の掃除を手伝う事になった。
掃除を終えると、共にご飯を食べるのもいつもの流れ。
今日もソラの部屋を掃除し終わり、夕飯を一緒に食べる事になった。
「なあ、緋祭組って知ってる?」
夕飯は交代で作る事になっていて、今日は俺の番。冷蔵庫の余り物をぶち込んだ炒飯を食べていると、ふと聞いてみたいことを思い出した。
俺の何気ない質問に、炒飯を美味しそうに食べていたソラの手が止まる。
「知ってるけど、急にどうしたの?」
もぐもぐとよく噛んでお米を飲み込み、口の中を空にして質問に答える。
結社ダークマターと戦っていたソラは、もちろん緋祭組の事を知っている。なにせ同じ時期に活動していた。
「この前バイト先に来てさ、ちょっと気になって」
「あー、確かアリスさんが何か言ってたっけ」
確か工事現場で怪人が現れたとアリスから報告が上がっていた。同じ場所に緋祭組がいたとも。
「ざっくりとどんな組織かは聞いたけどさ、一応他の人からも聞いておこうと思って」
情報は複数人から聞いておいた方が精度が上がる。まあ、今回は情報収集などではなく、ご飯中の何気ない話題の一つに過ぎないのだが。
「今の緋祭組の事は良く知らないんだよね。昔の緋祭組の事で良いなら話せるけど」
「むしろそっちの方が興味あるな」
「オッケー」
ソラが思い浮かべるのは、かつて共に肩を並べて戦った事もある女傑の姿。
「今は良くない噂ばかり聞くけど、昔の緋祭組はそんな組織じゃなかったの」
「そうなのか?」
「うん。本当に地域を守る自警団だったんだよ」
先代緋祭カグラがガラの悪い男達を束ねて統率し、ダークマターから街を守る為に活動したのが始まり。
「緋祭組の緋提灯って知ってる?」
「いや、知らないな。何だそれ」
「昔、ダークマターが全盛の時代、この辺りは結社の活動が特に盛んでね、怪人も多く現れて行方不明者も沢山でた」
かつて、夜は人の領域ではなかった。
だが、天才の発明により電気を手にした人々は、世界を明かりで照らして闇を根こそぎ取り払った。
しかし、結社ダークマターの出現により、世界は再び闇に包まれた。
悪が躍動した時代において、夜は恐怖の象徴。光は全て取り払われ、夜に出歩き帰ってこなくなった人は数知れない。
「みんな外が暗くなると急いで家に帰り、明るくなるまで震えて待ってた。そんな生活をしていた中、ある日から外に光が灯り始めたの」
暗闇に怯えて家の中で疼くまる住人達。だが、ある時を境にポツリポツリと夜を照らす灯りが現れた。
一体なんなのだろうと恐る恐る外を見ると、緋祭組が真っ赤に光る提灯を持って夜の街をパトロールしていたのだ。
赤い光は住人達の不安を和らげるが、同時に自分達の居場所を晒す行為でもある。当然ながら、何度も構成員は襲われた。けれど、緋祭組は一夜たりともパトロールを欠かさなかった。
赤い光は住人達の不安を和らげると共に、悪を誘う誘蛾灯。自分達を餌にしてダークマターと戦ったのは、この辺りでは有名な話。
「へぇ、そんな事が」
「昔はみんな彼等に感謝してたんだよ。カグラさんが亡くなるまでは、本当にまともな組織だったんだから」
皆から感謝された緋祭組は、もう過去の話。
今ではどこにでもあるアングラ組織に片足を突っ込んでいる。
彼等構成員の多くはカグラだからついていった。カグラの為にと集まったメンバーであって、緋祭組に入る為に集まったわけではない。
ガラの悪いメンバーが纏まっていたのは、カグラという絶対的カリスマの存在。
「なるほどねぇ……」
話を聞きながら食事をしていると、いつの間にか皿が空になった。
食事の完食と同時に、スマホからピピピピピとアラームがなるる。
「やべ、そろそろ時間だ」
「バイト?こんな時間から?」
ソラが部屋の時計を見ると、午後9時を指している。外は太陽が沈んでおり、今から働くには遅い時間だ。
「そ、この前の工事バイトをした縁で別の場所紹介してもらってさ。夜勤だけど大体2週間くらい働いてくる」
「外も暗いし、気をつけてね」
「おう」
自分が食べた分の食器を洗い、部屋を出る。
春とは言え、この時間帯は少しだけ肌寒い。少し駆け足気味で向かうことで身体を温める。
程なくしてバイト先に到着。またもや怪人の出現!!なんてハプニングはなく、いたって普通に仕事をするだけ。
バイト先の人達も優しい方々で、特に問題も起こることもなく普通に時間が過ぎていった。
「お疲れ様でしたー」
「おう!気をつけて帰れよ」
午前4時。まだ太陽も出ていない真っ暗な時間に仕事が終わり、帰路に就く。
「ふぁ~、帰って寝るか……」
肉体労働で体に疲れが溜まり、時間も相まって眠気がピークだ。気が付けば欠伸が口から抜け出していく。
早く帰ってベッドに横になろうと、少しだけ歩幅を大きくする。
暗い暗い闇の中を進んでいると、ふと、夕食時に話した内容が頭に浮かんできた。
かつて、ダークマター全盛の時代。闇に蠢く悪意にとって、こんな夜更けに出歩く人は格好の獲物だっただろう。もしかしたら、今この瞬間も何かが蠢いているのかも、なんて考えていると、
「ねえ、そこのお兄さん」
暗く道の途中で、フードを深く被った男に話しかけられた。明らかに怪しすぎる。
「今、とっても良い物があってさ、安くしとくよ」
「結構です。警察呼びますよ。ヒーローが良いですか?」
厄介な輩に絡まれた。今は一刻も早く帰って寝むりたいというのに。
「良いから良いから、一回試してみなよね?」
通報すると言ったのに、尚も強引に迫ってくる。
「チッ、しつこいって」
「やってみれば分かるからさ」
断っても断っても迫って来るあまりのしつこさに、俺のイライラゲージが溜まっていく。暴力だけは振るわないようにと思っていたが、ここまで迫られればしょうがない。腹に一発お見舞いしたのちに通報しよう。
「いい加減に――」
「おい!!そこで何してる!!!!」
腕に力を籠めると、遠くから女性の声が聞こえた。足音の聞こえ方から、こっちに向かってきている。
「チッ!!」
俺が後から聞こえてくる声に気を取られた瞬間、男が地面に何かを叩きつけた。
地面からあふれる閃光に視界が潰される。人の姿では流石に下手人の姿を捕えられない。
視界が回復したころには、俺の前にいた男はきれいさっぱりいなくなっていた。なんとも逃げ足の速い男だ。とても人の逃げ足ではない。
「はぁはぁはぁ!!おい大丈夫か!!何があった!!」
「いや、まだ何もされてなかったけど」
新たに近寄ってきた声に振り返る。最初に見えたのは、真っ赤に光る緋い提灯。
「緋祭組の緋提灯……?」
「ア?なんでコイツの事を、ってお前……」
次に見えたのは、今では珍しい赤い着物姿に日本刀。燃えるような赤い髪に、綺麗に整った可愛らしい顔立ち。間違いない、この少女の名前を俺は知っている。
「確か、この前協会のヒーローと話してたやつだよな」
「そういうアンタは、確か緋祭ミカか」
俺の前に立つのは、緋祭組現組長緋祭ミカ。
だが、少しだけ様子がおかしい。あの時は沢山連れていた部下は誰一人として連れておらず、たった一人で提灯を片手に俺の前に立っている。
「オレの名前を知ってんのにその態度って事は、腕に自信があるかただの大馬鹿か、まあいい、ちょっと話聞かせろや」
拝啓アリス様。どうやらあなたの言いつけを守れそうにありません。
どうやら、俺は緋祭組の何かに巻き込まれてしまったのかもしれない。




