第12話
「おーらいおーらい」
「そこ通るよどいてどいてー」
「それはこっち、そっちは向こうね。後ついでに向こうのやつ持ってきて」
新たな悪の結社シャドーの襲撃から一週間。
複数の戦闘によって破壊された街は今、復興作業に入っていた。だが、あまりに広い破壊の痕跡にまるで人手が足りない。
だからか、ソラの所属する組織からも人を派遣する事が決まり、この縁も相まってバイトを探していた俺にソラがここを紹介してくれた。
おかげで、俺は今ここで働けている。
「おう、こっちはひと段落ついたから、お前等休憩入って良いぞ」
「うっす」
指示に従って瓦礫を運び終えると、持ち場の方に休憩を言い渡された。
適当な瓦礫の上に座り、支給されたペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいると、何やら派手な格好をした集団が近づいてきた。
集団を率いていた女性が、集団を離れて俺の近くまで寄ってくる。
「すまない、ここの責任者はどちらにいるだろうか」
「向こうにいる眼鏡の方が多分そうですよ」
太陽の光で輝く金色のウルフカット。スーツの上に白衣を着たダウナーな雰囲気を纏う女性の問いに、俺は素直に答える。
「ありがとう、行ってみるよ」
女性は俺の指さした方向に歩いていく。
少しして、ここの責任者と白衣の女性が話していると、責任者の方がペコペコと頭を下げているのが見えた。
(どっかの偉い人っぽいな)
責任者と白衣の女性が話終わると、白衣の女性が連れてきた集団に合図する。
白衣の女性の合図をきっかけに、集団はバラバラに持ち場につくと、各々が異能を使って瓦礫の除去を始めた。
「やあ、少年」
除去作業をぼけーっと見ていると、またもや白衣の女性に声をかけられた。
「えっと、まだ何かご用でしょうか?」
今の俺はただのアルバイター。これ以上お偉さんと話すような内容はないと思うが。
「少し聞きたい事があってね。おっと、その前に自己紹介をしておこう。私はアリス・ラビロット。アリスと呼んでくれたまえ」
「常世オワリです」
「やっぱりそうか」
俺の名前を聞くと、アリスは何か合点がいったのか、雰囲気が柔らかくなったような気がする。
「もしかして、どこかでお会いしたことがありますか?」
「いや、君と会うのは初めてだよ。ただ、ソラちゃんから少し話を聞いていてね」
ソラ、という名前を聞いて、アリスの正体が分かった。彼女はソラの所属している組織の人間なのだろう。
なら、彼女が連れてきた異能を扱う集団は、どこかのヒーロー達か。
「ソラちゃんに友人が出来たと聞いてね、一目見ておきたかったんだ」
「えっと……?」
「あぁ、別に誤解しないでくれたまえ。本当に顔を見てみたかっただけなんだ」
お前なんてソラの友人と認めない、なんて言われる展開かと思いきや、アリスは本当に顔を見たかっただけのようだ。
「知っているか分からないが、ソラちゃんはかなり忙しくて、あまり学校にも行けてないんだ。おかげで仕事関係の知り合いはできても、同年代の友人はほとんどいない。だから、新しく友人が出来たと聞いて私もつい嬉しくなってね」
魔法少女レインはダークマター時代から活動している。あの時代は特に戦闘が激しかったと聞くし、今以上に忙しくてまともに学校に行けなかったのも分かる。
「どうか、これからも仲良くしてやってほしい」
「もちろん、小日向は大事な友人ですから」
まるで親のようだな、と思いつつ即答する。
マリアの言葉とは関係なく、ソラとこれからも仲良くしたいのは俺の本心だ。
マリアと雑談をしていると、ピピピとスマホが鳴った。どうやら休憩時間は残り10分らしい。
「おっと、もしかして休憩の邪魔をしてしまったかな?」
「どうせただ座ってるだけだったんで、むしろお話を聞けて楽しかったです」
休憩と言ってもここで座っているだけの時間。むしろ人と話せて楽しく時間を潰せたならラッキーだ。
さて、移動するか、と思い腰を上げると、何やら遠くからざわめきが聞こえてきた。
「なんだ?」
「ふむ、なんだか騒がしいな」
俺とマリアがざわめきの方向を見ると、黒スーツにサングラスをしたいかにもガラの悪い集団が近づいて来ているではないか。
一目見ただけで関わりたくないが、この場にいる多くの人が視線を外さないのは、集団を率いて先頭を歩く人物が極めて目立っていたから。
ド派手な赤い着物に身を包んだ和服姿の少女、おそらく俺と同い年ぐらいの子が、黒スーツの強面おじさん達を従えている。
さらに目を引くのが、彼女が腰に携えている物。桜が色鮮やかに描かれた鞘に収まっているのは間違いない、日本刀だ。
「はぁ……。なんでここにアイツらがいるんだ」
「知ってるんですか?」
「まあね、ちょっと行ってくる」
アリスは俺を残し、真っ直ぐ突き進んであの集団の正面に立ち塞がる。
「なんで君たちがこんな所にいるのかな?用がないならさっさと立ち去ってくれたまえ」
「アァ?誰かと思えば協会のヒーロー様じゃねえか。お前こそなんでこんな所にいやがる」
立ち塞がるアリスを前に、和服姿の少女がアリスを睨みつけながら一歩前に出た。
二人は至近距離でお互いに睨みあう。
「もちろん仕事だよ。ここは私達ヒーローが手伝うことになっている。君達の出番はないと思うけど」
「ふざけんな。ここはオレ達、緋祭組の活動圏だ。ヒーロー様にとやかく言われる筋合いはねえ」
まさに一触即発。よく分からないが、どうやらアリスもあの少女はバチバチの関係らしい。二人につられて空気がどんよりと重くなってきたところに、慌てた様子で責任者がすっとんで来た。
責任者のおじさんは、二人の間に立って精一杯の笑顔を浮かべながら何度も何度も話を続ける。
数分後、粘り強い話し合いの結果、責任者のおじさんのおかげでどうにか事態は収まり、重い空気が軽くマシなものになった。
「チッ、ここはおっさんの顔を立てて受け入れるが、オレ達の邪魔はすんじゃねえぞヒーロー」
「それはこちらのセリフだ。少しでも怪しい動きを見せれば、即座に取り押さえる。せいぜい真面目に働くことだね」
「はっ!!言ってろ!!」
二人はお互いに背を向けて歩き出す。
少女は後ろで待っていた男達の元に戻ると号令を出す。
「始めるぞお前等!!」
「「「うっす!!!!!!」」」
少女の一声で男達は散り散りに移動すると、瓦礫の撤去作業を手伝い始めた。
中にはヒーロー達のように異能を使う者もいる。作業場はヒーロー達と男達で丁度二分された形になった。
「誰なんだあれ」
「彼らは緋祭組だよ」
作業している強面の男達を眺めていると、アリスが俺の横に戻ってきていた。
「緋祭組?」
「そ、この辺りで活動している自警団みたいなものでね。ダークマターの活動が全盛期の時、先代組長である緋祭カグラが脛に傷のある者や行くあてのない者達がダークマターに流れつかないようにと受け入れ、作り上げた任侠集団さ」
かつてダークマターが暴れまわっていた時代、ダークマターは世間から零れ落ちた人達を甘い誘惑で囲い込み、自分達の手下に変えていた。
先代緋祭カグラは彼らを助けるべく、どんな人物でも片っ端から受け入れ、逆にダークマターと戦ってこの辺りを守る自警団を作り上げた。
「ただ、ダークマターとの最終決戦に参加した緋祭カグラは上級怪人を撃破し幹部と相打ちになって亡くなった。元々カグラのカリスマだけで纏め上げていた組織だったからね、カグラ亡き後は組織が纏まらずに解散するしかない状態までいっていたんだけど、カグラの一人娘である緋祭ミカが二代目を襲名することでどうにか纏め上げ、今も存続している」
今、男達に交じって作業をしている和服の少女が、アリスの語った緋祭ミカなのだろう。
「だけど、さっきも言った通り緋祭組はカグラのカリスマだけで成り立っていた組織だ。一人娘であっても、緋祭ミカでは組織を纏めきれていない。その証拠に、先代ではあり得なかった黒い噂が絶えない。どうも裏で好き勝手やろうとしてる組員がいるみたいだ」
かつて、荒くれ者や日陰者達を纏め上げ、前線に立ち彼等に道を示した緋祭カグラと、彼女の恩義に報いるためにカグラと共に戦った緋祭組は任侠に溢れる素晴らしい集団であった。
だが、カグラ亡き後の緋祭組は、かつての組織とまるで違う。今ではどこにでもあるアウトロー組織に半分足を突っ込んでいるような状況だ。
「昔はともかく、今の緋祭組にはオワリ君も気をつけること。あまり関わり合いにならないようにね。何かあったら私やソラちゃんに相談すると良い」
「分かりました」
聞いている限り、態々こっちから関わりに行くような組織ではない。
だが、一つだけ気になることもある。遠くで作業する二代目組長緋祭ミカに向けるアリスの視線には、少し悲しみが混じっているように感じた。
「まったく、組織なんて継がなければただの学生でいられただろうに……」
話に聞く限り、先代の緋祭カグラとアリスが所属する組織は何かしらの関係があったように思える。今のアリスの様子を見るに、悪くない信頼関係を築けていたのだろう。
だが、アリス達はヒーローだ。いくら知った相手だとしても、彼らが市民を傷つけるような存在であるなら、ヒーローとして処断しなければならない。
「ああそれと、オワリ君の持ち場は彼等と離しておいたから、後で確認しておいて」
「分かりました」
休憩時間もちょうど終わり、いざ仕事を再開するぞ、なんて思っていると、遠くから爆発音が聞こえた。
「アリスさん!!」
一人のヒーローはアリスの元に、駆け寄ってくる。
「何があったの?」
「怪人です!!怪人が二人、急に現れました!!しかも機械兵をつれて暴れ始めました!!」
「今いるヒーローを二つに分かけて、片方は機械兵を、もう片方は避難をお願い。市民を最優先に行動すること」
「分かりました。アリスさんは」
「私は怪人を相手する」
アリスは素早く指示を飛ばしヒーローを見送ると、一度俺の方に振り返る。
「オワリ君もすぐに安全な場所まで避難して」
俺に非難するように言い残して、アリスはすぐに走り出した。
彼女が向かう先はただ一つ、怪人の正面。
だが、怪人の前に立つのはアリスだけではなかった。
「何のつもりかな、緋祭ミカ」
「そっちこそ、なんのつもりだヒーロー。邪魔だから避難誘導でもしてろ」
アリスの隣に立つのは、緋祭ミカ。
お互いに軽口を叩きながらも、怪人から目をはなさい。
普段であれば白黒ハッキリつけるために言い争う所だが、今は緊急事態。もう片方を言いくるめるよりも、人命を守る事が第一目標。ここで無駄に時間を浪費くるわけにはいかない。
「いつでも逃げて良いいよ。両方とも私が倒しておくから」
「せいぜい時間稼ぎでもしてな。オレが全て片付けてるやるからよ」
アリスは白衣のポケットから金色の懐中時計を取り出し、正面に構える。
隣に立つ緋祭ミカは鞘に手を置き、もう片方の手で日本刀を勢いよく引き抜く。
「change」
「行くぜ、鬼神楽!!!!」




