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悪の組織に人体改造された俺、目覚めると組織が壊滅していたので、ヒーローを目指してみようと思います。  作者: 銀猫


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side HERO

 オワリ達がタコパを楽しんでいる時間、別の場所。

 ここはソラとココロが所属する異能犯罪特別対策協会。通称SSCの総司令室。


「……」

 

 近未来的な部屋で眼鏡をかけた四十代の男が一人、パソコンを睨みつけながら無言でキーボードを叩いていた。

 男の名前は近道こんどうマサト。SSCの総司令として日夜異能犯罪に対処している。


「頑張ってるようだね、司令殿」

「アリス君か」


 扉が開き、中に入ってきたのはスーツ姿に白衣を着た長身の女性。輝くような金色のウルフカットに、どこかダウナーな雰囲気を纏っている。


「すまないな、戦闘後なのに呼び出してしまって」

「構わないとも。事態が事態だからね」


 アリスと呼ばれた女性は、下の自販機で買ってきた缶コーヒーを近道の机に置くと、部屋を見渡す。


「一人かい?ソラちゃんは」

「ソラ君は今日、友人とココロ君の退院祝いをすると言っていたからね。一足早く帰ってもらったよ」

「良かったの?」

「もちろんだとも」


 近道はアリスの問いに満面の笑みで即答する。


「十代の少女を戦場に追いやってるんだ。後処理は全て大人がやるのが筋ってものだろう?」


 戦場で命を懸けるヒーロー達のサポートをするのが近道達の仕事。

 ソラは十分に頑張った。なのに、たかだか報告書の為に友人との大事な約束を潰すなどあってはならない。

 

「大体、私は未だに納得していない。いくら力があるからといって、子供たちを戦場に出すなど」

「君の志は立派だけどね、時代が彼女たちを必要としているのも事実だよ」

「分かっているとも。だから、こうして戦闘以外の負担を減らしてるんじゃないか」


 混迷の時代。増え続ける異能に伴い、事件も増加。更に異能が関わることでより複雑で被害も増している。

 今は一人でも多くのヒーローが求められる。新たな悪の組織が現れたならなおさらだ。


「すまない、熱くなってしまった」

「いいさ、それで、私を呼び出した理由は?」

「これを見てほしい」


 部屋で一番大きなディスプレイに映し出されたのは、人型の黒い異形。

 魔法少女レインを圧倒した新たな怪人、終焉怪人エンドの姿。


「終焉怪人……!?」

「ソラ君が装備していた通信機から送られた映像だ。この怪人について意見を聞かせて欲しい。ヒーローとしての君ではなく、かつて怪人因子を発明した天才達の一人、ドクターアリスとして」


 アリス・ラビロット。かつて結社ダークマターに所属していた科学者であり、怪人因子を開発した天才科学者達の一人。


「……知っていると思うけど、私は怪人自体にはあまり詳しくない」

「分かっているとも」


 アリスはダークマターに所属し、怪人因子を発明した。だが、因子の使い方に反抗した結果、結社に捕らえられ監禁された過去を持つ。結社に所属していたが悪事に加担しなかった唯一の人物であり、彼女が脱獄したことで人類側に反攻の光が灯った。


「それでも、私達の中で一番詳しいのがアリス君だ。今はどんな情報でも欲しい」

「怪人因子の開発初期から構想自体は存在していた。でも、あくまで机上の空論、存在する筈がない」


 全ての怪人の力を持つ最強の怪人、終焉怪人エンド。

 怪人因子を作っている頃から構想自体はされていたが、怪人因子全てに適性を持つ者が存在する可能性は限りなく0に近く、あくまで机上の空論だとかつての科学者全員は断じていた。

 だが、アリスの見る画面には確かに、かつて空論として形作られた怪人が実在している。


「だが、現実として存在してしまっている」

「ええ、それが一番の問題。本来、この怪人は存在してはいけない」

「存在してはいけない?するはずがない、ではなく?」

「戦闘員達とは違い、怪人には万が一結社を裏切ることが無いようセーフティが仕掛けられている」


 人体改造を施し、怪人因子を投与されて作られる怪人の多くは攫われた一般人だ。故に、結社は怪人達が結社に忠誠を誓うように脳にも改造を施す。


「怪人達はもれなく結社に忠誠を誓うわけだけど、もちろん副作用もある」


 思考を捻じ曲げられた怪人達は結社の言いなりになる反面、自分達で考える力が欠如する。発想力や想像力などは少なく、ただ結社の作戦を遂行する忠実な下僕。

 単一の能力を運用する場合はさほど問題ない。単純な運用だろうと、元々が巨大な力の塊である怪人は、スペックのごり押しだけで勝ててしまう。

 複雑な能力やより巨大な力を持つ上級怪人などは別途特別な脳改造を施すが、終焉怪人エンドの場合はそうはいかない。


「全ての怪人の異能を持ち、その場その場で切り替え、かけ合わせて戦うには柔軟な思考と発想力が求められる。終焉怪人エンドを作るならば、脳改造は行えない。できて記憶の抹消くらいだろうね。やったところで安全装置と呼ぶには程遠いけれど」


 攫われた記憶が無ければ、結社を恨むこともない。言葉による洗脳も可能だろう。

 だが、自由意思を持つ存在は、やがて真実に気が付くかもしれない。もしエンドが真実に気が付いてしまえば、彼の力は間違いなく結社に向けられる。

 洗脳すらできなかった場合なども考えれば、エンドを稼働させるとは思えなかった。


「分かるだろう?この力は、個人に持たせていいものじゃない」


 世界を滅ぼしかねない力を、安全装置もついていない個人に持たせるなど危険極まる。


「なら、何故結社は怪人を作ったんだ?」

「それは、作れてしまったから、だろうね」


 一人の科学者として、アリスも少なからず理解できてしまう。

 自分の思い描く最高傑作を作り出せる。目の前の可能性を追求せずにはいられないのが科学者という生き物。


「結局、何故、どうしてを追求しても意味はないか。現実に、怪人は存在している」

「そう。最大の問題は、この怪人がどういった人物なのか」


 善人であるなら良い。だが、仮に悪人だったなら、結社に忠誠を誓っているなら、話は最悪だ。


「ソラ君やグレン君の話を聞く限り、我々に悪い感情は持っていないと思われるが」

「敵の敵だった、という線もありえる。結社の影響をまったく受けてないと考えるのは、流石に楽観的じゃないかな」


 今回味方をしてくれたからこれからも味方だ、と取るには情報が足りない。

 どこまで行っても相手は怪人。体の隅々まで結社の手が入っている。もしかすれば、スペックを落として脳も改造している可能性だって十分に考えられる。


「下手に刺激せず、警戒を強めるしかないか」

「仮に敵だったことも考えて、戦力の増強も必要だろうね」

「関係各所にも根回しをしなければならないな」

「慎重にね。怪人に対する恐怖と怒りは未だに褪せていない。ダークマター産だと知られれば、全ての怒りの矛先が向きかねないよ」


 ダークマターが残した傷跡は酷く深い。復讐の為にヒーローになった者達も多くいる。

 ダークマター産の怪人であると知られれば、復讐の為にヒーローになった者達は躊躇いなく襲いかかるだろう。

 共にダークマターと戦ったアリスですら、今も一部から信用されていないのだから。


 終焉怪人エンドが敵対をしていない可能性も考慮し、慎重に物事を進めなければならない。


「まったく、次から次に問題が押し寄せて来る」


 増える異能犯罪、ダークマターが残した怪人に加えて、新たな悪の組織の誕生に、近道は頭を押さえる。


「新たな結社、アリス君はどう思う」

「恐らく、何人かダークマターの残党は合流してるだろうけど、大本は別の組織だと思うよ。行動目的が違いすぎる」


 明らかに、結社シャドーと結社ダークマターでは掲げる理念が違いすぎる。

 ダークマターには独裁的ながらも、目指すべき理想があり秩序があった。故に行動には誇りが伴い、一貫性があったのだが、シャドーにはそんなもの存在しない。

 理想の為に世界征服を企んだダークマターに対し、シャドーは世界征服自体が目的であり、征服した後の世界がどれだけ壊れていようと関係ないのだろう。

 彼らが欲しいのは、ダークマターでもできなかった世界征服を成し遂げたというトロフィー。


「裏で大量に流れている怪人ゲノムも彼等だろうか」

「十中八九ね。実に悔しいけど、彼らの一手は確実に私達の戦力を削いでいる」 


 怪人ゲノムは異能を持たない一般人にも大きな力を与える。これが悪人の手に渡れば、犯罪が激化するのもやむなし。さらに異能が加わることで犯罪の規模も被害も以前とは比べ物にならない程大きくなっている。

 対処するヒーロー達の消耗は計り知れない。


「どうにか、流通元を見つけなければ」


 日に日に増えるタスクの量に、近道は頭を抱える。

 元々SSCはダークマターに立ち向かうヒーローを支援する為に立ち上げた民間組織だ。

 最初は小さな組織だったが、戦いを続ける毎に支援者が増え、組織は拡大していった。今では一部政府と連携して異能犯罪に対処するべく活動している。


 SSC以外にもヒーローを支援する企業、団体、果ては個人で活動するヒーローなども出てきたが、まるで人手が足りない。


「まったく、問題ばかり増えるというのに、件の怪人のコピーまで生まれてしまうとは……」


 新たな結社シャドーが生み出したコピー怪人。怪人がコピーしたのは、最強の怪人の能力。こちらは確実に自分達の敵と言うこともあり、近道の頭を悩ませている。


「私としては、コピーされたのが終焉怪人でラッキーだと思うけどね」

「ラッキー?本当に言ってるのか」

「いいかい近道司令。確かに無数の異能を持つ終焉怪人は脅威だ。だけど、単一の異能としてはソラちゃんを超える力は現状存在しない」


 ソラの持つ天候を操る異能。

 事実上無限の魔力に、理論上無限の火力を併せ持つ日本最強の魔法。


「断言する。最強の異能はソラちゃんだ」


 全ての怪人、超能力、魔法を比べても、ソラを超える異能は現在存在しない。

 

「コピーは脅威ではないと?」

「脅威は脅威だね。だけど、ソラちゃんをコピーしていたなら、脅威どころではすまなかったと私は考えているよ」


 街一つを簡単に飲み込める異能が悪の組織に渡ったらなど考えたくもない。使いこなせるこなせないの次元ではなく、使われた際の被害が多すぎる。


「それに、終焉怪人エンドは本人の因子適正があって初めて成り立つ。適性を持たない者がコピーしたところで扱い切れるモノではないよ」

「改造で克服する可能性は?」

「無い。絶対に無い。仮に改造で適正をどうにかできるのなら、態々適性のある人間を攫うなんて事はしないし、我々はとっくにダークマターに敗北している」


 怪人は脅威だが、一体一体が特注故に数が少ないのが欠点だ。

 仮に人体改造で適正をどうにかできるなら、怪人は量産され、今頃ダークマターが世界を制服しているだろう。


 適性を無視して怪人化する怪人ゲノムもあるが、あれは元の怪人より性能をかなり劣化させた上に時間制限もある。更に一つ使うだけで体がボロボロになってしまい複数使用などもってのほか。

 誰でも使える点が厄介なものの、一体一体であれば対処は容易い。


「なるほど、不幸中の幸いと言った所か」

「だけど、依然として脅威である事には変わりないかな。二体目もいる可能性はあるし、より警戒を強める必要がある」


 ソラの話によれば、コピー能力に加えて身体能力はエンドと渡り合える程だという。

 

「はぁ……、ダークマターを倒したら平和になると思っていたんだがね……」


 悪の親玉を倒して世界は平和になりました。なんて筋書きは物語の中だけらしい。

 現実では、未だ問題は増え続けていく。


「この前のホテル事件もあって、ヒーローに対するマイナス意見も増えてる。これからが踏ん張り時だよ司令殿」

「分かってるさ。戦場に出れない分、私達には私達の戦いを全うする」


 結社ダークマターが現れて以降、世界は激変した。

 怪人の登場、滅亡の危機に瀕した人類に、ある日突然異能が目覚めた。危機に対する進化なのか、眠っていた力が覚醒したのか、はたまた世界に新たな法則が生まれたのか。

 未だに異能の全ては解明されていない。だが、これから先も異能は生まれ続けるだろう。

 今は魔法と超能力だけだが、もしかすれば新たな形をした異能も生まれるかもしれない。


 今は混迷の時代。

 これから先もヒーローは望まれ続ける。

 ヒーローを支援し、彼らの帰りを守ることが、近道達大人の戦いだ。

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