11話
(これからどうするか)
周囲に敵はいないが、ソラ一人をこの場に残すのは不安が残る。
俺の知覚外からの異能による撤退。アレを見せられた以上、俺が離れた瞬間にロボット達を送り込んでくる可能性を除外できない。
だが、この場に残っていても、ソラに余計な不安を抱かせる事になる。
いったいどうしたものかと悩んでいると、遠くから足音のようなものが複数聞こえてきた。
視線を向けると、遠くからヒーローのような格好が見えた。おそらくソラを助けるために寄越された増援だろう。
「これなら大丈夫そうか」
ヒーロー達が来るなら問題ない。
「因子解放、烈風怪人タツマキ」
俺は風を操る異能を使いながら、足に力を入れて大きく跳躍する。
後は風を操り、素早くここから離れるだけ。
「待って!!貴方は――」
ソラが俺に向けて何か言っているが、残念ながらこれ以上待っている時間はない。これ以上ヒーロー達に絡まれて時間を消費するのはごめんだ。
「じゃあなヒーロー」
ソラをヒーロー達に任せて、俺は高速でこの場を後にする。
風を操り飛行しながら適当に人気のいない場所に降りた後、さらに人の目を避けて地上を移動。
ソラ達がいた場所からかなりの距離を離れ、周りに人の気配がまるでしない路地裏に移動して、ようやく変身を解除する。
「ふー……」
黒い異形は人の姿に変わり、体内に溜まった熱を外に出すように大きく息を吐く。
「あー……、やっぱ慣れないなコレ」
開いた掌を見ると、体に残った高揚感から僅かに震えている。
終焉怪人エンド、最強の怪人。巨大な異能と人の領域を超えた強靭な肉体は、まるで思い描く全てを実現できるかのような全能感が内側から湧いてくる。
この魂が肉体に引っ張られるような感覚が、気持ち悪くてたまらない。
「次からもっと気を付けないと」
今回でかなり怪人形態にも慣れた。次はもっと影響は少ないだろうが、気を付けるに越したことはない。まあ、変身するような大きな事件が起こらない事が一番いいのだが。
心の底から祈るばかりである。
「んー!!帰るか」
ここでうじうじしていても良いことは何もない。約束の時間もあるし、とにかく家に帰らなくては。
「あっ」
一歩を踏みしめた所で、ハッと思い出した。戦闘前にタコパ用に買ったものを置いてきたのだと。
「……待って、めっちゃ遠いじゃん」
とにかくソラの居る場所から離れたくて適当に移動したのが仇となった。ここから買った物を置いた場所までかなり距離がある。
とっさにスマホを取り出して今の交通情報を確認すると、公共交通機関が復旧するまでまだ時間がかかるらしい。つまり、目的の場所までは歩いていかなくてはならない。
「もう一回、いや、流石に……」
異能を使って移動しようかと一瞬悩んだが、今はどこもかしこもヒーローが動き回って救助活動なりパトロールなりをしている。今派手な行動をすれば確実に見つかってしまう。
「……歩くかぁ」
結局、ここから歩いて移動する以外に選択肢はない。
これからは逃げる場所もある程度は考えなければと、深く胸に刻むのであった。
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歩いて歩いて、無事に買い物袋を回収して帰宅した頃には、空は夕焼けも過ぎ去り暗くなろうとしていた。
昼間はあれだけ暴れ回ったというのに、戦闘よりも移動の方が疲労が多い気がする。
「あ、常世さん!!無事で良かったぁ……!!」
自室のある階に上がると、俺の部屋の隣、ソラの部屋の前に待ち人がいた。
ハーフパンツにジャケットといった格好をしたボーイッシュな雰囲気を纏う女性、ココロだ。
「帰りが遅いから、巻き込まれたんじゃないかってボク心配で」
「ごめんごめん、ちょっと避難場所がここから遠くてさ」
「無事なら良いです。あ、でも連絡先は交換しときましょう。普通に不便なんで」
「そうだな。ほれ」
ポケットからスマホを取り出し、お互いに連絡先を交換する。
「小日向は?」
「それが、まだ帰れないらしくて」
まあ、当たり前か。
今日一日色々ありすぎた。中でもソラは事件の中心にいた。今日一日帰らなくても不思議ではない。
「あ、でもでも、後少ししたら帰ってくるらしいです。ほら」
ココロが見せてきたのは、ソラとのチャット履歴。
帰って来れそうですか?というココロの質問に対して、後少しで帰るから!!絶対!!!!とソラから返事が来ていた。
「もう少し時間がかかるらしいので、先に先輩の部屋で待ってましょうか」
「入るって、本人いないけど」
「大丈夫です。ちゃんと許可も貰ってますし、合鍵も預かってるので」
ポケットから鍵を取り出したココロは、ソラの部屋の鍵を開けると躊躇もなく中に入る。
「常世さんも入って入って」
「お、おう」
ココロに促されるままに部屋に入る。
この間掃除を手伝ったこともあって、まだ部屋は綺麗なままだ。
「嘘、先輩の部屋が片付いてる……!!」
「どれだけ信用ないんだ小日向……」
部屋が片付いているだけで感動するココロ。
後輩から向けられるあまりの信用の無さに、俺が悲しくなってくる。
「はっ……!!いけないいけない。こんなことしてる場合じゃなかった」
あまりの感動に放心していたココロ。少しすると首を振ってどうにか正気を取り戻す。
「常世さんは座って待っててください」
「桜乃は?」
「ボクは先輩が帰ってくるまでに下準備終わらせちゃいます」
「俺も手伝うよ」
冷蔵庫に買ってきたチョコレートや冷凍ベリーを入れ、代わりにネギやタコの足を取り出す。
下準備と言っても簡単なもので、タコ足を茹で一口大に切ったり、たこ焼きの生地を作ったりする程度だ。
俺とココロは世間話をしながら準備を進める。
「そういえば、桜乃の方は大丈夫だったのか?結構大事だったろ」
「病院の防衛に参加してたんですけど、ボクの方に敵は来なかったので、何事もなく終わりました」
幸いな事に病院があった方には敵は現れず、怪我をしたココロが戦う事態にはならなかった。
「本当はボクも町の方に行くつもりだったんですけど、止められちゃって」
「退院したとは言ってもまだ治りきってないんだろ?当たり前だ」
「先輩にも同じようなこと言われました」
ココロは笑っているが、ソラも気が気でないだろう。彼女の信念は素晴らしいが、少々無理をしすぎてしまうようだ。
「何にせよ、被害が少なそうで良かった」
「先日の事件の影響で、この辺りに沢山応援を呼んでいたのが功を奏したみたいです。今のところ建物以外に大きな被害もないそうですよ」
異能事件の増加に加え、先日起こったホテルでの事件。
明らかにヒーローを狙った事件の発生に警戒を強めたヒーロー側は、ひとまずの対策としてこの辺りに一時的なヒーローの増員、パトロールの強化による町の治安維持に力を入れていた。
また、敵が性能よりも数を優先しており、複雑な命令もできず動きも単純だったため簡単に誘導出来たりと、複数の要因が噛み合った事で敵の侵攻を早期に対処することに成功。奇跡的に被害を最小限に食い止める事が出来た。
「おし、こんなもんだろ」
下準備が終わり、テーブルの上にタコ焼き機をセッティングする。
後は焼くだけと言ったところで、ガチャリと扉が開き、ようやく家主が帰ってきた。
「ただいま!!遅れてごめん!!!!」
ドタドタと勢いよく部屋に入ってきたソラ。
昼間と着ている服が違う。一度どこかで着替えてきたのだろう。
「おかえり小日向」
見る限り大きな怪我はない。
確認はしていたとはいえ、こうして帰ってきたのを見て改めて安堵する。
(無事で良かった)
ソラの無事な姿を見た事で、ようやく俺の中で今日の事件に区切りがついた。
「おかえりなさい先輩。もう準備終わってますよ」
「二人とも本当にごめんね、二人の為のタコパなのに準備やらせちゃって……」
「別に構いませんよ。先輩こそ今日はかなり大変だったと聞きました。疲れてるでしょう?これくらいやらせてください」
「ありがとねココロちゃん、こんなに出来た後輩を持って私は今とっても感動してる……!!」
「はいはい、分かりましたから。早く手を洗ってきてください」
ココロは抱きつく勢いで寄ってきたソラを静止し、洗面台の方角を指さした。
ソラは抱き着くことを諦め、しょぼしょぼと洗面台に向かう。
「よし、そろそろ焼けるぞ小日向」
「オワリ君もごめんね。掃除だけじゃなく準備まで」
「良いって、そんな事言ってないで早く座れ。始めるぞ」
手を洗って帰ってきたソラを促し、俺達三人でタコ焼き機を囲うように座る。
全員が座り準備完了。生地を焼けた鉄板に流し込み、最初はオーソドックスにタコを投入。
「そういえば、お二人はたこ焼きを作った事ありますか?」
「私はないよ」
「俺もないな」
「ボクも経験ないです」
「「……」」
「……一人ずつ挑戦しましょうか」
「うんうん、そうしよう。せっかくのパーティーだし」
別にお店のような美味しいさを求めて来たわけではない。
仲のいい友人達でワイワイ楽しむことこそが今日の目的。どれだけ不格好だろうと、この楽しさをスパイスにすれば全て美味しくいただける。
タコの次はウインナーやチーズ、ソラとココロの二人が買ってきた変わり種を投入したり、どれに何が入っているか分からないランダムを作ったりと、楽しい時間を過ごしていく。
二人のヒーローと、怪人の俺。秘密を知られてしまえば崩れるかもしれないこの関係が、いつまでも続けばいいのにと俺は心の底から願う。
明日も明後日もこれからも、どうかこの二人と友人でありますように。




