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悪の組織に人体改造された俺、目覚めると組織が壊滅していたので、ヒーローを目指してみようと思います。  作者: 銀猫


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第9話

大穴が空いた雲は徐々に千切れ、溶けるように青空に消えていく。

 あれだけ降り注いでいた雨は止み、空は元の天気を取り戻した。 


「っ……!魔力が……!!」


 大技を放った後に雨が途切れた事で、魔力回復ができなくなりついにソラの魔力が尽きた。変身を維持するだけの魔力も保てなくなり、魔法少女から元の少女の姿に戻る。


(ふぅ、なんとかなったかな)


 元の姿に戻ったソラに目立った傷は見えない。

 反射的に一度攻撃してしまったが、上手く防いでくれたことで汚れこそしたものの大きな傷は無いように見える。

 俺と戦ってこの程度で済むあたり、彼女の強さは本物だ。


 変身が解けた以上、ソラが俺を追う方法はない。

 後は適当にこの場から去ろうと考えていると、遠くからパチパチパチと拍手らしき音が聞こえてきた。


「ブラボォーーーー!!素晴らしイ!!実に素晴らしイィィーーーー!!!!」


 耳を劈くような喝采。まるで人を馬鹿にしているかのような声音に、胸の奥が酷く不快になる。

 声の方向に体を向けると、高く積まれた瓦礫の山の上に一人の男が立って俺たちを見下していた。


「誰が作った怪人か知りませんガ、まさかあの魔法少女レインを打倒するとハ!!上手くいかないことばかりだと思っていましたガ、えェ!!最後まで分からない物ですねエ!!」


 白いスーツのような衣装にシルクハット、胸に一輪の青いバラを差し、右目には大きな青い星のマークが塗られている。

 紳士のような姿で俺たちをあざ笑う姿はまるで道化師。言葉と共に嘲りを隠さないままに吐き出す。


「っ!!誰ですか貴方は!!」


 ソラは道化師を強く睨む。

 一見すると人にも見えるが、明らかに一般人ではない。純白の姿でありながら濃い血の匂いを漂わせている。

 戦場でヒーローを笑う姿は、まるでヴィランのよう。


「おっト、ワタシとしたことが自己紹介を忘れていましタ。丁度良く通信していらっしゃいますシ、名乗らせていただきましょウ」


 道化師は手に持っている杖をくるくると回した後、トンっと足元の瓦礫を叩く。


「ワタシの名はドクター。暗黒結社シャドーの幹部でございまス」


 丁寧なお辞儀と共に名乗りを上げるドクター。

 紳士ぶった仕草と裏腹に、世界の全てを馬鹿にしたような笑いと、侮辱の色を含んだ声音。言葉の一つ一つが俺達の神経を逆撫でする。


「暗黒結社シャドー…!?まさか……!!」

「えェ!!貴女の考えている通リ!!我々こそはかの結社ダークマターに代わって新たに世界を支配する者!!影からの侵略者でありますからしテ」


 確か、下垣が言っていた。怪人ゲノムを作っている新しい結社がいると。


「どうぞ皆様、ワタクシ共に万雷の喝采ヲ!!これより結社シャドーは世界を手に入れて見せましょウ!!恐レ、慄キ、悪夢に濡れながら絶望の淵でお待ちくださイ!!!!」


 ドクターは大げさに両手を広げ、ソラの通信越しに宣言する。

 今日この瞬間、世界の陰から新たなヴィランが表舞台に姿を現したのだと。


「さてさテ。本日は宣戦布告の為に大きな花火を用意したのですガ、どうにも被害が少なすぎて困っていたのですヨ」


 ドクターは笑顔から一転して悲しげな表情を作る。


「ですガ、これは僥倖!!まさかまさかの最後にこんなに良い拾い物をするとハ!!」


 かと思いきや、悲しげな表情は驚きに変わり、再び笑顔に戻る。

 コミックのような千変万化の表情は、素顔でありながら張り付けられた仮面の様で、真実を映し出さない。

 

 手に持つ杖をクルクルと回しながら、軽やかな足取りでドクターが向かう先にいるのはソラ。


「っ……!!」

「最強と謳われた魔法少女が手に入るとハ。しかもしかモ、まったく傷がない美品!!これは何に使うか迷いますねェ」

「魔力で体が……!!動いてよ……!!」

「安心してくださイ。最後の最後まで余さず使ってさしあげまス。共に世界を絶望に染め上げましょウ」


 魔力を失い強制的に変身が解かれた影響で、ソラは体を上手く動かせない。

 身動きができないソラに、ゆっくりと悪の手が伸びていく。ここで最強を失えば、ヒーロー側にとって大きな損失になるだけじゃない。最強のヒーローが新たに表れた悪の組織に奪われると知られた日には、世界にとても大きな絶望がのしかかるだろう。

 もしかすれば、市民達は抵抗の意志をもがれるかもしれない。


「お願い!!動いてよ私の体!!帰らなきゃいけないの!!絶対に……!!」


 必死に逃げようとするソラ。耳に付けた通信機からはどうにかして助けようと必死な声が聞こえるが、この場に間に合うわけがない。

 ソラの必死な抵抗は、なんの意味もなさない。あと数歩、ドクターが近寄ればソラは悪の手中に収まってしまう。


 ヒーローは間に合わない。けれど、ここには俺がいる。


「おい、汚い手で彼女に触れるな……!!」

「ガッ!?!?!?」


 ドクターの手がソラに触れようとした瞬間。俺は拳を握り、横からドクターの体に叩き込む。

 勢いよく吹き飛んだドクターは、瓦礫の山に叩き込まれた。


「どう、して……」


 ドクターを殴り飛ばし、ソラを守るように立つのは、先ほどまで戦っていた黒い怪人。

 黒いマフラーを風に揺らし、ヴィランから守るように立つ黒い背中を見たソラは思った。まるでヒーローのようだと。

 

 バコン!!と瓦礫を勢いよく弾け飛ぶ。

 砂埃が舞う中、真っ白だった全身を傷と泥で汚したドクターが忌々しい表情で俺を睨む。


「貴様。なんのつもりダ……!!」

「なんだ、良い表情もできるじゃないか」


 俺に向けられるのは、心の底から湧き上がる憎悪。ここにきてようやく、ドクターの張り付いた仮面ではなく、本当の感情を目にした。


「答えロ!!貴様、ただの怪人のクセしてワタシの邪魔をするのカ!!」

「別に、俺はアンタの部下じゃないしな」

「そういう話じゃなイ!!怪人でありながらヒーローの味方をするつもりかと聞いていル!!」


 なるほど、やはり世間一般の常識として、怪人はヒーローの敵であるらしい。

 こうして怪人がヒーローを守るのは異端なのだろう。

 けれど、この異端こそ俺がやりたい事。俺の目指す道。


「そうだと言ったら?」

「なるほド、貴様はどうやら狂っているようダ。どこの誰が作ったか知らないガ、失敗作にもほどがあル」

「何とでも言えばいいさ」


 誰になんて言われようと、思われようと関係ない。報酬も感謝もいらない。

 あの背中をかっこいいと思った。あの生き方に憧れたんだ。 


「ドクターだかなんだか知らないが、よくもまあ彼女に手を出そうとしてくれたもんだ」


 怪人になってしまった俺に、報われる日は来ないのかもしれない。怪人が残した傷跡はあまりに深く、どうあっても偏見が俺に降りかかるだろう。

 けれど、この生き方を貫いて見せよう。物を壊し、誰かを傷つけながらヒーローと戦うのではなく、傷ついたヒーローを背にして悪と対峙するこの生き方を。


「もう一発殴らせろよ!!」


 拳を握り、ドクターに向かって駆けだす。

 よりにもよって、今日という日を滅茶苦茶にしてくれた元凶に、もう一発ぐらい顔面に拳を叩き込むために。


「来なさイ!!シュバルシャドー!!!!」


 俺とドクターの間、大きく広がった黒い影から何かが姿を現す。

 光を通さない真っ黒な塊は、スライムの様な不定形から丸みを帯びた人型へと姿を変える。


「邪魔だ!!」

「■■■■」


 突如現れた邪魔者に、俺は握った拳を放つ。黒い人型も、到底言語と呼べない何かを叫びながら拳を構えて放った。

 ぶつかりあう二つの拳。一瞬の均衡を保つも、天秤はすぐに傾く。


「はぁ!!!!」


 勝者は俺。負けた黒いナニかは大きく後ろに吹き飛んだのだが、何か様子がおかしい。


「クフ、クハハハハハハハハハ!!!!」

「何がおかしい」

「いやはヤ!!まさかこうも簡単に触れてくれるとは思いもよらなかったのでネ!!」


 戦場に鳴り響くけたたましい笑い声。

 大きく腹を抱えて笑うドクターが指さす先には、形を変化していく黒い塊。


「あれこそは結社シャドーが作りし秘密兵器にして最終兵器!!触れた者の細胞を取り込み能力をコピーする影法師怪人シュバルシャドー!!!!」


 出来上がったのは、俺に似ているようでどこか形の違う人型の異形。俺以上に全身を真っ黒に染め上げた、まさに影法師。


「元々は魔法少女レインの能力をコピーする為に作り出したのですガ、彼女を超える力を今手に入れタ!!シュバルシャドーヨ、あの愚かな失敗作を葬りなさイ!!」


 俺の偽物、シュバルシャドーが右手を俺に向ける。


「因子模倣:ヘルフレイム・シュバル」


 右手から放たれる業火は、確かに怪人の炎。

 炎は俺めがけて一直線に向かって来る。避けるのは容易いが、後ろにはソラがいる。なら、選ぶ選択肢はただ一つ。


「因子解放、火炎怪人ヘルフレイム!!」


 同じく炎の異能を選択し、真正面から激突させる。正面衝突の異能比べ。

 二つの炎は激突し、爆発を起こしながらも僅かに俺が競り勝った。


「ナゼ!?」


 競り負けた結果、炎に包まれ焼かれるシュバルシャドー。上空に跳躍し炎から逃げ出しながら出て来る疑問。

 なぜ自分は負けたのか。


「何故も何もないだろうに」

「!?」

「因子解放」

「因子模倣」


 選択する異能はまたも同じ。


「怪力怪人マッスラー」

「マッスラー・シュバル」


 強化された筋力から繰り出される二つの打撃。

 しかし、シュバルシャドーが繰り出す拳は空を切り、反対に俺の拳は顔面にめり込んだ。

 空から叩き落され、地面に激突するシュバルシャドー。


「ナゼナゼナゼ!!!!」


 同じ異能、同じ力のはずなのに、こうまで性能に差がでるわけがない。シュバルシャドーのコピーは確かに機能したはずなのだ。


「馬鹿だなぁお前。ただ能力をコピーした程度で張り合えるわけがないだろ」


 確かに、シュバルシャドーは俺の体に眠る多くの力をコピーしたのかもしれない。

 しかし、前提が違うのだ。ダークマターが作り出した全ての怪人の力を持っているから最強なのではない。俺/終焉怪人エンドが全ての力を使いこなすから最強なのだ。

 異能だけをコピーしたところで、使いこなせなければ遠く及ばない。全ての能力を十全に使えてようやく俺と同じステージに立つことが出来る。


「来いよ。俺が直々に怪人の戦い方を教えてやる」

「ナメルナァ!!!!」


 影法師怪人シュバルシャドーと終焉怪人エンド。二つの結社が作り出した最高傑作同士が激突する。 

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