6話
「バーニング、フィストォ!!」
燃える拳が、ロボットを打ち砕く。
炎を操る単純な異能だが、単純な故に出力が高い。
「うおぉぉぉー!!!!」
拳を突き出し、纏っている炎を打ち出す。
放たれた炎はロボット達を飲み込み、鉄の体を融解させて破壊する。
男に加減は無い。余力も残さない。ただ全力で身体の内を曝け出し、目の前の敵を破壊していく。
「途中でガス欠になる気か?」
「生憎と、俺はこれ以外に戦い方を知らないんでね!!」
「まったく、馬鹿正直だな!!」
俺は炎で出来た砲弾を連続で放つ。
一発一発が必殺。着弾と同時に爆発し、周りのロボットを巻き込んで破壊を撒き散らす。
「っ!お前は少し加減しろ!!街を破壊しすぎだ!!」
「残念ながら、こういう戦い方しか知らない!!」
スペックのゴリ押しこそ怪人の華。
周りを気にせず破壊をばら撒く事が、俺/怪人を最も活かせる使い方。
「それに、これでも手加減してるんだ」
こう見えて、出来るだけ配慮はしている。でなければ、後ろに立つヒーローは今頃息をしていないし、この辺り一帯は瓦礫すら残らない更地だ。
「そいつは、ありがたいな……!!」
どうやら、軽口を叩くのも限界が来たらしい。
もはや息も絶え絶えて、どうして戦い続けられているのか見当もつかない。
これ以上の長期戦は不可能。丁度ロボット達の増援も終わりが見えてきたので、素早く片付けなければ。
「おいヒーロー!!」
「なんだ……!?」
「10秒稼げ」
「はぁ!?」
俺は放っていた炎を消し去り、大地に向けて大きく拳を振りかざす。
「クソ…!!やってやる!!」
これから何をするのか男は分からない。けれど、男は俺を信じて緩まっていた拳をもう一度強く握りしめた。
四方八方から迫るロボット軍団。男はこれまで以上の炎を両手に纏わせ迎撃する。
拳の一撃を強化するだけでなく、炎の勢いを推進力に変え、縦横無尽に戦場を舞う。
「因子解放、音楽怪人マイク・ジャックホーン」
破壊と炎の舞踏を前に、俺は異能を切り替えた拳で地面を力一杯殴りつける。
地面に大きな振動が走り、怪人の力を使って振動をレーダー代わりにしてロボット達を余さず探知する。男に背を任せて丁度十秒。この場にいる敵の数と配置を全て把握した。
「因子解放、岩石怪人ガンロック!!」
地面を叩いた逆の手に別の異能を乗せて、もう一度地面を強く叩く。
拳が地面に触れると、異能の力でロボット達の足元が蜂起し、ロボット達を数メートルほど上空に持ち上げる。
「因子解放、烈風怪人タツマキ!!!!」
ここからは力技だ。更に異能を切り替え、限界まで上げた出力で暴風を作り上げると、持ち上げたロボット達を絡めとり一カ所に集める。
出力を無理やり引き上げるのは限界ギリギリのやり方だ。人間態でこの規模の異能行使は恐らく5秒と持たない。
「決めろ、ヒーロー!!」
敵は全て一カ所に集めた。後は、ヒーローの仕事。
「はあぁぁぁーー!!!!」
男は、纏っている炎を限界まで燃え上がらせると、両手を握り合わせて上空に向ける。
「バーニングゥ!!ブラストォーー!!!!!!」
男が両手に宿した炎は一つとなり、上空のロボット達に向けて放たれる。
放たれた炎は俺の風を取り込みながら肥大し、巨大な爆発を起こしてロボット達を一体残らず業火で飲み込み破壊した。
「っぁ……!いってぇ……!」
両手が痺れるように痛い。流石に無理をしすぎた。怪人態に近い出力は、人間態では負担が大きく、正直二度とやりたくない。
「……ふぅ、なんとかなったか」
何はともあれ、敵は援軍込みで全て片付けた。もうこの辺りに敵はいない筈だ。
やるべきことやりとげた。この達成感を男と共有するために振り返ろうとしたところ、バタンと倒れるような音が聞こえた。
慌てて後ろを振り向くと、文字通り全てを出し尽くした男が地面に倒れ気を失っていた。
「たく、無理しすぎなんだ」
あれだけの数を相手に一人で大立ち回り。流石に無茶が過ぎる。
だが、彼がほとんどのロボットを引き付けたおかげで、この辺りでの被害は少ない筈だ。無茶をしただけの価値は十分にあるはず。
「……しょうがねえな」
推定ヴィランがいるのに気絶するとは、ヒーローとしてはあと一歩足りないのかもしれない。まあ、本質は既に備わっているため、直ぐにでも花開くだろうが。
「運んでやるか」
ここに寝たままで放置するのは、あまりにも可哀そうだ。この辺りにあるシェルターまで運ぶとしよう。とても頑張ったのだ。これくらいの苦労は喜んで請け負おう。
男を運ぶため、倒れた体に手を伸ばす。
視界の端に、閃光が煌めいた。次に、悪寒。
「っ!?」
野生的な勘が、思考をするよりも早く体を動かす。
とっさに一歩後ろに下がると、目の前を白い光が走り抜けた。閃光が消え、次に見えたのは眼前に迫りくる右足。
「ぐっ!?」
反射的に両手を交差して防御姿勢を取る。
なんとか顔面の一撃を防ぐ事は出来たが、とっさの防御では受けきれず、衝撃と痛みを腕に残しながら大きく後ろに吹き飛ばされた。
「――へぇ、今の防ぐんだ」
体制を整える俺の耳に入ってきたのは、少女の声。
舞い上がった砂埃を払い前を向くと、さっきまで俺が立っていた場所に、見知らぬ少女が立っていた。
金色のショートカットに、青い瞳。腹部を露出したスポーツウェアのような衣装は、最低限のプロテクターすら取り外してある。まさに動きやすさのみに重点を置いた恰好だ。
「どうやら、恰好だけの愉快犯じゃないっぽいね」
腹部や胸元など露出の多い恰好は多くの人の目を引くだろう。
だが、今一番俺の目を引いているのは別にある。彼女が体に纏っている黄金の光。時折バチンと弾ける光の正体は、
「雷か……!」
見てから反応出来た以上、光速ではないだろう。だが、少女の先ほどの一撃はあまりにも速すぎた。防御だって紙一重で間に合ったに過ぎない。
間違いなく、彼女は一般人などではない。恐らく、倒れている男が呼んていた増援。つまり新たなヒーロー。
「グレン君に何をしようとしてたのかな?ダークマターの残党さん」
雷を纏った少女は、暗く濁った瞳で俺を見る。
「……正直に言えば、信じてくれるのか?」
「もちろん。信じるわけないじゃん」
彼女が俺の言葉を信じないことなど、知っていたとも。
俺を見る彼女の瞳には、強い憎しみが嵐のように渦巻いている。
間違いない。彼女は結社ダークマターに恨みを抱いている一人だ。
「話は捕まえた後でたっぷり聞かせてもらうよ」
「捕縛で済ませるなんて、随分と優しいんだな」
「安心して。捕縛前にたっぷり痛めつけてあげる。その方が話しやすいでしょ?」
少女の持つ憎悪は本物だ。向ける言葉も、本心に違いない。
だが、生憎と俺はここでつかまるつもりはない。何せ今日はどうしても外せない予定があるのだから。
「生憎と、捕まるわけにはいかなくてね」
「いいねぇ。そう来なくちゃ……!!」
お互いが拳を構え、異能を発露する。
まさに一触即発。
「待ちなさい、ライカ」
後少し踏み込めば戦闘勃発というとこに、凛とした声が響き、俺も彼女も動きを止める。
「先走りすぎ。自分の任務を思い出して」
「先輩……!!でも……!!」
「でもじゃない。自分に課された役割を思い出す」
新たに割って入ってきた黒髪の少女に、俺は動けない。
「……グレン君を病院まで運びます」
「お願いね」
ライカと呼ばれた金髪の少女は、黒髪の少女に窘められ、溜まっていた感情をどうにか息と共に吐き出して、気持ちを落ち着かせる。
感情に整理をつけたライカは倒れている男、グレンを背負って走り出した。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「……別に。あの子と一緒に帰ってもよかったんだぜ?」
「貴方を放っておけるわけないでしょ?」
このバトルスーツを着ていて本当によかった。
顔を隠しているおかげで、動揺を見せずに済む。
「大人しく捕まるつもりは?」
「……無いね」
俺の前に立っている少女を、俺は知っている。あの通夜やかな髪を、整った顔立ちを、今よりも近くで見ているからだ。
何より、彼女の名前を知っている。
(なんでここに小日向がいるんだ……!!)
小日向ソラ。
俺の隣人が、今は目の前に敵として立っている。
「そう、じゃあしょうがないか」
ソラが右手を開くと、黒いフリルの傘が閉じた状態で現れた。
傘の持ち手を掴んだソラは一言、
「セットアップ」
白く輝く魔法陣がソラの足元に展開され、ゆっくりと上昇していく。
魔法陣がソラの体を通り抜けると、着ていた衣装が全く別の物に変わる。白を基調としていた服は、全身真っ黒なゴシックロリータのドレスに変貌した。
美しい黒髪は長く伸び、黒い瞳の片方が碧く染まる。
ソラの面影を残しながらも、別人と呼べるほどに変身した彼女の姿を、俺は知っている。今の彼女の姿を、名前を……!!
「魔法少女、レイン……!!」
かつて下垣が俺の耳にタコができるほど語り、テレビに何度も流れてきた名前。
魔法少女レイン。日本最強の魔法少女。




