4話
ソラ宅の大掃除から三日後。つまりタコパ当日。俺は相変わらず家でゴロゴロしていた。
「あ〜……」
別に今日まで怠惰に過ごしていたわけじゃない。
できるアルバイトはないかと毎日探してはいるものの、こんな素性の怪しい奴を雇ってくれる所は中々ない。改めて、仕事を紹介してくれていた下垣は凄かったんだなと思わされる。
「どうすっかなぁ、これから……」
暇な時間ができれば、自然とこれからについて考えてしまう。
これからとは仕事の事でもあるが、人生においてやりたい事。
「……」
ヒーローになりたい。
あの日、確かに俺はヒーローになりたいと思った。今もこの思いは変わらない。
けれど、改めて思うのだ。ヒーローっていうのはなんなのかと。
ヒーローという職業についてお金を稼ぎたいのか、はたまた誰かを助ける行為をしたいのか。
俺の中のヒーロー像は、まだ固まり切っていない。
ただ、今もなお目を瞑ると、あの日の背中を思い出す。
「……っと、ダメだダメだ」
このまま考えていてもドツボにはまるだけで何にもならない。
とにかく今はやるべき事をやって体を動かそう。
時計を見ると、午後二時を回ったところ。約束の時間まで後四時間ある。
「そうだ、買い出し行かないと」
たこ焼き器も材料も揃えてあると、昨日ソラから連絡が来た。既に準備は万端だが、更に楽しむ為にはもう少しだけ追加したい。
ソラの提案で、たこ焼きに入れてみたい具材を各々で持ち寄ろうと言う事になり、俺も何か持っていく流れになった。
今も特に思いついていないが、まあスーパーに寄って色々見れば何か思いつくだろう。
ついでに自炊用の食材も買っておきたい。
「んー!!良い天気だ」
マンションを出ると、気持ちのいい晴天が俺を迎えてくれる。
春特有の暖かい日差しに、桜の香りを乗せた穏やかな風。外を歩くのにもってこいの天気だ。
いつもならバスにでも乗って移動するのだが、今日はなんとなくこの天気を味わいたいと思い、スーパーまで歩く事にした。
「平和だ」
遠くから聞こえる子供達の笑い声。偶にすれ違う人達もみな穏やかに見える。これが天気の力か。
全てが静かなのではなく、所々聞こえる人の営みがまた気持ちいい。
こういう穏やかで平穏な日常の連続こそが、平和と呼ばれるのだろう。
穏やかな時間を感じながら、ゆっくりと片道一時間ほどかけて、お目当てのスーパーに辿り着く。
「さて、何買おうか」
とりあえず、お目当ての特価品を買い物カゴに放り投げてから、もう一つの目的であるたこ焼きの具を考える。
タコは買ってあると言っていたし、チーズやソーセージはこの前の掃除で冷蔵庫を確認した時に入っていたのを見た。
態々不味いものを作る気はないが、安牌な物は大体埋まっている。
「不味い、何も思いつかない」
タコパと言うものを体験した事がないから、何を買っていけば良いのか思いつかない。
スーパーの中をうんうんと悩みながら何周も歩く。
「……いっそスイーツもありか」
ふと、お菓子コーナーのお徳用チョコレートが目に止まった。
たこ焼きの生地には合わないだろうが、ホットケーキミックスを使えばそれなりの物が出来るだろう。
チョコレートとホットケーキミックス。他にもクッキーやら冷凍ベリーやらをカゴに入れてレジに向かう。
何を入れれば美味しいかわからないが、これだけ種類を揃えておけば何かしら美味しい物が出来る筈。
レジに商品を持っていきお金を払う。持参したマイバックに買った商品を詰め込み、スーパーを出る。
「よしよし、ミッションコンプリート」
最初の予定と違ったが、案外良い買い物ができたんじゃないだろうか。
良い買い物が出来たと気分を良くしながら、帰りも歩く事にした。
暖かい日差しに当てられながらの散歩は、やはり気持ちいい。
もう少しだけこの暖かな日差しを堪能したいから、こっそり異能を使ってマイバックの中を冷やしておく。
これで食材が痛んだり溶けたりする心配はない。
用事は済んだ。後は帰るだけで、約束の時間まで十分にある。帰ってもどうせやる事がないし、帰り道は少し遠回りする事にした。
穏やかで暖かな、平和という名の日常。何もない事が、この時代では何よりの贅沢。
だからだろう。この混迷の時代において、平和など長続きしないのは当然のことであった。
ウウーー!!!!
町中に設置された警報器から、甲高いサイレンがこれでもかと鳴り響く。
この辺りだけじゃない。もっと広く、もっと遠くの街でも、同じようにサイレンや警報が鳴り響いていた。
「なんだ!?」
俺の問いに答えるように、町中のスピーカーから警告が流れ始めた。
『現在首都全域にて大規模な異能テロが発生しました!!住民の皆様はお近くのヒーローの指示に従い、指定の区域まで避難してください。繰り返します。現在首都全域にて大規模な異能テロが発生しました!!』
明らかな異常事態の発生。
詳細を知るため駆け出そうとした所、この異常の原因があちらから現れてくれた。
俺の前に突如現れた二メートルほどの黒い円。
円から現れたのは、三体の人型。ただし、人のような肉はついておらず、骨格から外装まで金属製。おまけに右腕には銃が取り付けられているときた。
『生命体発見、これよりーー』
「因子解放、鋼鉄怪人アイアーン!!」
人型のロボット達が言い終わるよりも先に、俺は異能で鋼鉄と化した右の拳を容赦なくロボットの頭部に叩き込んだ。
『脅威レベル更新。捕獲は不能と断定、排除します』
頭部を失うとロボットは動きを止め、地面に倒れる。
嬉しい事に壊す事は簡単で、悲しい事に、どうやらもう俺には手加減してこないらしい。
残り二体が、右の銃口を俺に向ける。
『排除します排除します排除しまー』
「因子解放、凍結怪人ツンドラ」
息が白い。
吐き出した息に含まれる水分が凍結し、キラキラと光を反射する。
さっきまであれほど暖かな春を満喫していたのに、ここだけは真冬を超える寒さをしていた。
「一体一体はそこまで強くないな」
銃口をこちらに向けたまま、分厚い氷に閉ざされた二体のロボットを。
表面をコンコンと叩いてみるも、中のロボット達は反応を示さない。
「なんだってんだコイツらは」
敵、だろう。
だが、ただの敵ではない。さっきの放送を聞く限り、今首都ではコイツらが沢山出ていると見える。
今までの個人が起こしていた異能犯罪とは違う。力ある組織が起こしてた異能テロ。
「いったい誰が……」
結社ダークマターは既に壊滅している。残党も、復興できるだけの力はないと下垣が言っていた。
残されるのは、ただ一つ。新たな組織の誕生。
「確か、怪人ゲノム作ってる奴らがいた筈、そこか?」
今世間にばら撒かれているらしい怪人ゲノム。
下垣の話では、どこか新しい組織が作っているらしい。このロボット達も、おそらく新しい組織が作った物なのだろう。
「面倒だな……!!」
一応、氷ごとロボットを砕いておく。
頭部を破壊したのも含め、合計三体のロボットを粉々に砕き、俺は持っている荷物を置いて来た道を引き返す。
このままでは、せっかくのタコパが台無しだ。
少しでも早くこの騒動を解決しなければ、きっとココロは無理をしてでも駆けつけるだろう。もしかしたら、また大怪我を負うかもしれない。でも、彼女は戦う筈だ。
だって彼女は、ヒーローだから。
「因子、解放……!」
俺は民間人だ。逃げるのが正解で、ココロに後を任せるのが正しい選択。
だけど、今逃げれば、俺は二度とヒーローを目指せない。なにより、今日を楽しみにしていた彼女たちの笑顔を奪おうとする敵を、放ってはおけない。
俺が歩みたい道は、目指すヒーローは、彼女達の笑顔を守る為に立ち上がる筈だ。




