雑草を抜こうとしたら、座標ごと消えました
空と重力を正常に戻したところで、次はこの荒れ地の土壌改良だ。 足元の土を鑑定してみる。
<Soil_Data>
Type: Wasteland_Dirt
Fertility: 0 (Barren)
Toxic_Level: 5
</Soil_Data>
栄養価ゼロどころか、微弱な毒まである。これでは作物は育たない。 普通なら数年がかりの開拓作業だが、俺にはキーボードがある。
「えーっと、土壌データを書き換え……と」
Toxic_Level: 0 (None) Fertility: 100 (Legendary)
Enter.
サーッ……と、足元の黒ずんだ土が、見る見るうちにフカフカの黒土へと変化していく。 試しに、ポケットに入っていた「しなびたリンゴの種」を埋めてみた。 そして、成長速度(Growth_Rate)のパラメータを一時的に『×1000』へ変更。
ボコォッ! グググググッ……!
種を埋めた瞬間に芽が出て、数秒で若木になり、一分もしないうちに立派なリンゴの木に成長した。 枝には真っ赤な果実がたわわに実っている。
「……うん、ちょっとパラメータ盛りすぎたな。まあいいか」
俺がリンゴをもいで齧ると、蜜がたっぷりで絶品だった。 これなら食糧問題は解決だ。
「主様、すごいです! 魔法使いでも、こんなことはできません!」
リリスが目を輝かせて拍手している。 主人が褒められて悪い気はしない。
「まあな。よし、俺はあっちの岩場を整地して、家を建てる場所を確保する。リリスはその辺の雑草を抜いておいてくれ。家庭菜園を作るからな」 「はい! お任せください! 草むしりですね!」
リリスは張り切って、近くに生えていた紫色のトゲトゲした草に向かった。 俺も安心して、岩場の方へ向き直り、コンソールを操作し始めた――その時だった。
ズガァァァァァァァン!!!!
背後で、爆撃でも受けたような轟音が響いた。 地面が激しく揺れ、俺は尻餅をついた。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
慌てて振り返ると――そこには何もなかった。 文字通り、何もなかった。
リリスが立っていた場所を中心に、半径十メートルほどの地面が、半円球状に**「えぐり取られて」**いたのだ。 土も、草も、先ほど作った黒土も消滅し、底の見えない真っ暗な穴(奈落)が口を開けている。 そして、その穴の縁に、リリスが立ち尽くしていた。
「あ、あれ……? 草を掴もうとしたら……地面ごと消えちゃいました」
彼女は自分の手と、巨大な穴を交互に見ている。 俺は即座にコンソールを確認した。
[System Alert: Chunk_Error]
Area: Coordinates (X:205, Y:60)
Status: Deleted (Reason: Fatal_Access by Lilith)
「リリヌゥゥゥゥ!!」
俺は叫びながら駆け寄った。
「お前、草むしりって言ったよな!? なんで地形データを削除してんだよ!」 「も、申し訳ありません! 草の根が深かったので、ちょっと力を込めて『存在を否定』したら、周りの地面まで連鎖してしまって……」
「草むしりで『存在否定』を使うな! 物理で抜け、物理で!」
俺は頭を抱えた。 忘れていた。こいつは「高画質」で「最強」だが、本質的には**「触れたデータを破損させるウィルス」**なのだ。 彼女に「微調整」や「生産活動」をさせてはいけない。
「うぅ……主様の庭を綺麗にしようと思ったのに……」
リリスがしょんぼりと耳(あるように見える)を垂れている。 その姿を見ると、あまり強くも言えないのが辛いところだ。
「……はぁ。まあ、怪我がないならいい。この穴は……そうだな、埋め戻すのも面倒だし」
俺は穴のデータを書き換えることにした。 えぐれた空間に、水属性のデータを流し込む。 底面に石材テクスチャを貼り付け、水温を四十二度に設定。 さらに、地下水脈から直接お湯を引くコードを記述する。
Generate: Hot_Spring
ザブォォォ……。 奈落の穴が、湯気を上げる広大な「露天風呂」へと生まれ変わった。
「よし、温泉完成。……リリス、お前はもう何もしなくていい。そこで見てるだけで偉いから」 「はい……あ、お湯です! 主様、お風呂ですね!」
リリスは一瞬で機嫌を直し、温泉の縁でパシャパシャと遊び始めた。 ……危なっかしい。 この領地開拓、バグ修正よりも、リリスが引き起こす「新規バグ」の対応の方が忙しくなりそうだ。




