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報酬は、処理落ちするほどの『事故物件』でした

勇者アレンたちが逃げ帰った後、村には再び静寂が戻った。  

リリスが武器を消滅させた件は、村人たちには「勇者様が凄すぎて武器が壊れた」あるいは「レンが何か凄い魔法で追い払ってくれた」と好意的に解釈されたようだ。


 騒ぎが落ち着いた頃、村長が改めて俺のもとへやって来た。


「レン様。先日は井戸を直していただき、本当にありがとうございました。その上、あのような横暴な客人の相手までさせてしまい……」


 村長は深々と頭を下げた。  そういえば、井戸を直した直後はドタバタしていて、まともな報酬の話をしていなかった。


「いや、井戸はついでだったし、あいつらは勝手に帰っただけだ。気にしなくていい」

「そうは参りません。水は村の命です。貴方様は我々の恩人……。何かお礼をさせていただきたいのですが」


 村長は申し訳なさそうに顔を曇らせた。


「しかし、見ての通り貧しい村でして……差し上げられるような金貨もなく……」 「ああ、金ならいいよ。俺もこの世界の相場を知らないし、持ち歩くのも面倒だ」


俺は手を振った。  

過労死した前世の反動か、今の俺にあるのは金銭欲よりも「安眠」と「快適な住環境」への欲求だけだ。  それを聞いて、村長がハッとした顔をした。


「住む場所……土地ならば、お渡しできるかもしれません」 「土地?」 「はい。実は、村の北外れに広大な『荒れ地』があるのです。ただ……」


 村長は言い淀み、声を潜めた。


「あそこは昔から『呪われた地』と呼ばれておりまして。空が紫色に光ったり、入った人間が空中へ吸い込まれたりする、恐ろしい場所なのです。それでもよろしければ、好きに使っていただいて構わないのですが……」


 村長は恐ろしげに震えているが、俺の口元はニヤリと吊り上がった。  空の色がおかしい? 重力異常?  それ、**「マップデータの破損エリア」**じゃないか。


「いいな。そこ、俺が貰うよ」 「ほ、本当ですか!? あんな悪魔の土地を……!」 「ああ。人が寄り付かないなら好都合だ。静かに暮らせそうだしな」


 俺は村長から古びた権利書を受け取った。  人が嫌がるバグ地帯。  

だがデバッガーにとっては、誰にも邪魔されず、思う存分コードを書き換えられる最高の「検証環境サンドボックス」だ。


「リリス、行くぞ。俺たちの城を作る場所が決まった」 「はい! 主様が行くところなら、地獄の果てでもご一緒します!」


 こうして俺たちは、村人たちに見送られながら北へ向かった。


 ◇


 村から徒歩三十分。  境界線を越えた瞬間、世界が一変した。


「……うわぁ。これは酷い」


 目の前に広がる光景に、俺は思わず声を上げた。  空の色は毒々しい紫と緑のグラデーション(テクスチャ参照エラー)。  地面からは岩が浮遊し、木々は斜め四十五度に傾いて生えている。  遠くでは、滝が下から上へと逆流していた。


<Area: North_Wasteland>

[Environment: Corrupted]

[Gravity: Unstable (-0.5 to 1.5)]

[Render_Error: Severe]

</Area: North_Wasteland>


 完全にデータが壊れている。  だが、隣に立つリリスの反応はもっと辛辣だった。


「主様……ここは酷いです。ノイズが多すぎて、視界に砂嵐が混じります。……オエッ」


 彼女は口元を押さえている。  俺が4K高画質に修正したリリスにとって、このバグだらけの低画質空間は、常に不協和音を聞かされているような、生理的な不快感があるらしい。


「安心しろ。すぐに直す」 「直す、ですか? ……分かりました。では、私が綺麗にしますね」


 リリスがスッと前に出る。  その手には、あの禍々しい大鎌(データ消去ツール)が握られていた。


「この汚い空間ごと、切り取って捨ててしまいましょう」 「待て待て待て!!」


 俺は慌ててリリスの肩を掴んだ。  彼女の鎌が空間を切り裂く寸前だった。


「お前がやると『虚無(何も無い空間)』になるだろ! 俺たちはここに住むんだよ!」 「住む? このゴミ箱の中にですか?」 「ゴミ箱じゃない、リフォーム前の物件だ。見てろ」


 俺は管理者コンソールを開く。  まずは、この不快な空の色からだ。  環境設定(Environment)を開き、空のスカイボックス(背景画像)を指定し直す。


 Load: Sky_Blue_Clear_01  Enter.


 パッ、と世界が瞬いた。  毒々しい紫色が消え去り、雲一つない突き抜けるような青空が広がる。


「あっ……」


 リリスが目を見開く。  続いて、俺は重力設定(Gravity)を正常値『1.0』で固定し、浮遊していた岩を「ドスン、ドスン」と地面に着地させる。


「すごい……ノイズが、消えていきます」 「まだだ。ここからが本番だぞ」


 俺は腕まくりをした。  ただ正常に戻すだけじゃない。ここは俺の領地だ。  誰に遠慮することなく、俺の理想スペックを詰め込んだ「最強の拠点」を作り上げてやる。

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