敵がコピー能力持ちだったので、『無限ループ(Fork Bomb)』を送りつけてフリーズさせました
俺の視界(ARウィンドウ)と、手元のPC画面が同期する。 目の前の銀色の巨人は、リリスと激しい攻防を繰り広げながらも、その内部処理で俺へのハッキング攻撃を仕掛けてきていた。
> Warning: Intrusion Detected.
> Enemy executes: Ren.HP = 0
敵がいきなり即死コマンド(HPゼロ化)を送ってきた。 俺は即座に防御コードを割り込ませる。
> Counter: Cancel_Action()
> Ren.SetStatus(Invincible, 5sec)
ギリギリで相殺。 冷や汗が流れる。こいつ、処理速度が速い。俺が一行書く間に、向こうは三行の攻撃スクリプトを生成してくる。
「くそっ、これがAIと人力の差か……!」
俺はキーボードを叩く速度を上げる。 社畜時代、納期直前のデスマーチで培ったタイピング速度が火を吹く。
Attack: Fireball -> Failed (Overwritten by Ice_Wall) Attack: Gravity_Press -> Failed (Overwritten by Levitation)
俺が攻撃魔法のコードを記述しても、実行される寸前に敵が「上書き保存」して無効化してしまう。 バージョン管理システムで、常に最新のコミットを打ち消されている状態だ。 いわゆる「編集合戦」。いたちごっこだ。
「レン様! リリスさんが押されています!」 エリアの悲鳴。 見れば、巨人はリリスの動きを完全に学習し、徐々にリリスを圧倒し始めていた。 リリスの鎌を、巨人の鎌が弾き飛ばす。
「ぐぅっ……! 私のデータを参照しているから、私の弱点まで知っているのね……!」
「……そうか。『参照』か」
俺はリリスの言葉に閃いた。 こいつのアルゴリズムは優秀だ。優秀すぎるがゆえに、**「入力されたデータはすべて解析し、模倣しようとする」**という特性がある。
ならば。 **「模倣不可能なデータ」**を食わせてやればいい。
「リリス! 離れろ!」
俺は叫ぶと同時に、新しいターミナルウィンドウを開いた。 記述するのは攻撃魔法じゃない。 システムのリソース(メモリ)を食い尽くす、禁忌のコードだ。
「これならどうだ……! 食らえ、【自己増殖プロセス(フォーク・ボム)】!!」
俺は書き上げた短いスクリプトを、敵の処理領域へ直接インジェクション(注入)した。
:(){ :|:& };:
たった十数文字の文字列。 だが、それはLinux系システムにおいて最悪の破壊力を持つコマンド。 意味は――「自分自身のコピーを定義し、それをバックグラウンドで再帰的に呼び出し続ける」。
Enter!
ズンッ。 巨人の動きが一瞬止まった。
『――検知。新規プロセスを受信。解析……実行します』
馬鹿め。優秀なAIだからこそ、送られた命令を忠実に実行してしまった。 巨人の内部で、爆発的な「分裂」が始まる。
Process 1 -> Process 2 Process 2 -> Process 4 Process 4 -> Process 8... ...Process 1,048,576...
ねずみ算式に増え続ける無意味な処理。 巨人の身体が痙攣し、銀色の表面にノイズが走り始める。
『警告。メモリ使用率90%……99%……。リソース不足。スワップ領域、応答なし』 『排熱処理、限界突破。システム、クリティカルエラー……』
「お前は『コピー』が得意なんだろ? なら、自分自身のコピー作業でメモリがパンクするまで踊ってな!」
俺はトドメの一撃として、優先度を最低まで下げるコマンドを打ち込んだ。 巨人は処理落ちを起こし、動きがカクカクとコマ送りのようになる。
「あ、あが……ガ、ガガ……」
巨人は何かを叫ぼうとしたが、処理能力が枯渇し、その場に膝をついた。 そして――
プスン。
情けない音と共に、巨人の身体が液状に崩れ落ちた。 フリーズ(強制停止)だ。
「……ふぅ。勝ったか」
俺はPCを閉じ、大きく息を吐いた。指先が熱い。 リリスが駆け寄ってくる。
「主様! すごいです! あの怪物を、剣も魔法も使わずに倒してしまうなんて!」 「レン様……今、何をしたのですか? 何か短い呪文を唱えたように見えましたが」
「ん? ああ、あいつに『自分自身の似顔絵を描き続けろ、ただし一枚描くたびに紙を倍にしろ』って命令したんだ。頭がパンクして知恵熱が出たんだよ」
俺は崩れた巨人の残骸――輝くデータ結晶――を拾い上げた。 これは「管理者権限の一部」だ。 こいつを使えば、いよいよ世界樹の中枢へ行ける。
「さて、行くぞ。この先に、俺を呼んだ『ジョーカー』がいるはずだ」
俺たちは崩れ去った巨人を乗り越え、世界樹のさらに奥、光溢れる「カーネル領域」へと足を踏み入れた。 そこで俺たちを待っていたのは、予想だにしない光景だった。




