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世界樹へのアクセス権がないので、裏口(バックドア)から侵入します

闇オークション会場から脱出し、俺たちはジョーカーが示した座標――世界の中心に聳え立つ「世界樹ユグドラシル」のふもとへと到着していた。


 そこは、圧倒的な「青」の世界だった。  雲を突き抜けるほどの巨木。その樹皮からは蛍光色のマナ(魔力)が光ファイバーのように脈打ち、周囲の大気には視認できるほどのデータストリームがオーロラのように流れている。  まさに、この世界を支えるメインサーバーの筐体ケースそのものだ。


「……大きい。近くで見ると、視界に入りきりませんね」


 リリスが圧倒されたように見上げる。  だが、俺たちが巨木の根元へ近づこうとすると、突如として空気が硬質化した。  見えない壁――いや、世界そのものが「拒絶」を示したのだ。


 バチバチバチッ!!


「きゃあっ!?」


 先頭を歩いていた聖女エリアが、何か透明な壁に弾かれて尻餅をついた。  彼女の指先が少し焦げている。


「痛っ……! な、何ですかこれ!? 最高位の『神聖結界』よりも硬いです!」 「……だろうな。ただの結界じゃない。これは**【ファイアウォール(Firewall)】**だ」


 俺は奪還した社用PCを開き、ケーブルを地面(世界樹の根)に突き刺して接続した。  画面に走る文字列を見て、俺は舌打ちした。


> Connection Refused.

> Port 80 (HTTP): Closed

> Port 443 (HTTPS): Closed

> Port 22 (SSH): Filtered by Divine_Shield_v9.0


「外部からの接続ポートが全閉鎖されてる。物理的な侵入も、魔法的な干渉も、すべてパケットフィルタリングで弾かれる設定だ」


 ジョーカーの仕業か、あるいは元々の管理者(神)の設定か。  セキュリティレベルは「鉄壁」。正面突破しようとすれば、対抗魔術カウンター・スクリプトで即座に焼かれるだろう。


「主様、この壁……私が全力で叩けば、一点突破できるかもしれません」  リリスが大鎌を構え、瞳に危険な光を宿す。


「やめとけ。この壁は『外部からの攻撃』を検知すると、そのエネルギーを倍にして反射する設定になってる。お前が消し飛ぶぞ」 「むぅ……厄介ですね」


「レン様、どうするのですか? 入れなければジョーカーを追えませんよ?」  エリアが涙目で焦げた指を治癒魔法で治している。


 俺はキーボードを叩きながら、ニヤリと笑った。


正面フロントエンドがダメなら、裏口バックエンドを探すまでだ。……どんな堅牢なシステムにも、必ず『メンテナンス用の穴』がある」


 俺はスキャン・ツールを起動し、世界樹の根の構造解析トポロジー・スキャンを開始した。  膨大なデータが画面を流れる。  数千、数万の閉じたポート(入り口)。  だが、地下深くに伸びる根の一本に、微弱な信号の漏れを見つけた。

> Scanning...

> Found Vulnerability: Root_Node_045

> Status: Open (Reason: Legacy_Support)


「……見つけた。開発用に使われていた古いデバッグポートだ。埋め戻し忘れてやがったな」


 俺は顔を上げ、西の方角にある巨大な洞窟を指差した。


「あっちだ。あの洞窟の奥が、世界樹の内部システム(カーネル領域)へのバックドアになってる」 「さ、さすがレン様! 神様の戸締まり忘れを見つけるなんて!」 「言い方が悪いな。これは『脆弱性診断セキュリティ・チェック』だ。行くぞ」


 ◇


 洞窟の中は湿っぽく、青白い苔が電子回路のような模様を描いて光っていた。  奥へ進むにつれて、足元の岩盤が人工的な――いや、幾何学的なクリスタル状の床へと変わっていく。


 俺たちはついに、巨大な空間に出た。  そこは、世界樹の内部。  空洞の中央には、光の柱(データ通信の奔流)が天へと昇り、壁面には無数のモニターのような結晶体が埋め込まれている。


「すごい……。ここが、世界の心臓部……」  エリアが息を呑む。  だが、感傷に浸っている時間はなかった。


 『――侵入者を検知。ID照合……失敗(Error)。排除プロセスを開始します』


 無機質な機械音声が響き渡る。  次の瞬間、光の柱から「銀色の液体」が染み出し、俺たちの目の前で人の形を成した。


 のっぺらぼうの銀色の巨人。  その身体には、複雑な数式とコードが刺青のように流れている。


<Enemy: System_Guardian_v2>

Type: Mirror_Bot

Ability: Code_Reflection (Copy & Paste)

Status: Invincible

</Enemy: System_Guardian_v2>


「出たな、自動防衛システム(bot)。……しかも、一番タチの悪い『ミラーリング』タイプだ」


 俺はPCを構え直し、臨戦態勢に入った。  こいつはただのモンスターじゃない。俺の記述コードを読み取り、即座に書き換えてくる「対プログラマー用兵器」だ。


「主様、斬ります!」  リリスが地を蹴った。神速の一撃が巨人の首を捉える。


 だが、巨人の胸元に文字列が浮かんだ。


 Execute: Copy_Instance (Target: Lilith)


 ドォォォン!!  リリスの大鎌が、巨人から生えてきた「同じ大鎌」によって受け止められた。  速さも、威力も、完全に互角。


「なっ……!? 私の動きを……!」 「コピー&ペーストされたんだ。そいつは受けた攻撃のデータを複製して、カウンターを生成する」


 俺が叫ぶ間に、今度はエリアが杖を掲げた。  「悪しきものよ! 【聖なるホーリー・ボルト】!」


 巨人の体に別の文字列が走る。  Reflect: Holy_Magic (Multiplier: x2)


 巨人の指先から、エリアの放った倍の大きさの雷が放たれた。  「きゃあぁぁっ!?」  エリアが吹き飛ばされる。


「くっ……物理も魔法も、全部コピーして倍返しにしてくるのか! 完全にクソゲーのボスキャラだな」


 巨人は無表情のまま、俺の方を向いた。  俺はPCのキーボードに指を走らせる。  物理で勝てないなら、論理ロジックで殺すしかない。


「リリス、エリア! 時間を稼げ! 俺がこいつのソースコードを書き換えて停止させる!」 「了解です! ……主様のためなら、コピー如きに負けません!」


 リリスが再び突っ込む。  その隙に、俺はコンソール上で巨人との接続を確立した。  始まったのは、秒間数百行のコマンドが飛び交う、高速の「コーディング・バトル」だ。

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