『寿命』で払えと言われたので、聖女の力で通貨(寿命)を浄化して紙屑にしました
『さあ、他にはいませんか? 寿命1000年、ハンマーが下りるまであと5秒!』
司会者がカウントダウンを始める。 二階席の影が、勝利を確信して腕を組んでいるのが見えた。
俺はエリアの背中をバンッ! と叩いた。
「行け、エリア! お前の『浄化スキル』の使い所だ!」 「も、もう! 知りませんからねっ!」
エリアが席から立ち上がり、ドレスの中から大量の金貨を鷲掴みにしてバラ撒いた。 そして、会場中に響き渡る声で詠唱を始めた。
「穢れし取引に神の慈悲を! 呪われし寿命よ、清らかなる『ただの数字』に還りなさい! 【広域浄化】!!」
カッッッ!!
会場全体が、目が眩むような純白の光に包まれた。 本来、聖女の浄化は「アンデッド」や「呪い」に効くものだ。 だが、このオークションの通貨システムは、参加者の命を縛る「呪いの契約」で動いている。
つまり――聖女の浄化にとっては、**「格好の汚れ」**だった。
バチバチバチッ!
参加者たちの腕輪から黒い煙が上がり、表示されていた「寿命」の数値が、次々と**「0」や「Error」**に書き換わっていく。 呪縛が解かれ、単なるプラスチックのゴミへと変わったのだ。
『なっ!? システムダウン!? 通貨管理サーバーが応答しません!』
司会者が悲鳴を上げる。 会場は大パニックだ。
「じゅ、寿命が戻った!?」 「腕輪が壊れたぞ! 今のうちに逃げろ!」 「金払わなくていいってことか!? 商品奪えェェ!」
暴徒と化した参加者たちがステージに殺到する。 結界システムも、動力源である「寿命」の供給を断たれて消滅した。
「結界が消えましたわ。……主様、やってよろしいですね?」 リリスが満面の笑み(殺意MAX)で大鎌を取り出す。
「ああ。PCを確保しろ。邪魔する奴は全員『ログアウト』させていい」
リリスが黒い旋風となってステージへ突っ込む。 警備のゴーレムたちが一瞬でバラバラのポリゴンになって空中に霧散した。
俺はその混乱に乗じて、ワゴン上のノートPCを確保した。 懐かしい感触。キーボードの隙間に挟まったお菓子のカスまでそのままだ。
「……確保完了。逃げるぞ!」
◇
混乱する会場を後にし、俺たちは安全な路地裏へと退避した。 リリスが涼しい顔で鎌をしまい、エリアは「神よ、今日も悪を浄化しました(そしてストレス発散しました)」と清々しい顔をしている。
「さて……中身を確認するか」
俺は路地裏の木箱の上にPCを置き、電源ボタンを押した。 バッテリーは死んでいるはずだが、俺の魔力を直接供給(給電)するコードを繋ぐ。
ブォン……。 ファンが唸りを上げ、懐かしいメーカーロゴが表示された。 だが、デスクトップ画面の代わりに表示されたのは、真っ黒な背景に浮かぶ一行のテキストだった。
> Welcome back, Admin "Soma Ren".
>
> Did you enjoy the debug tour?
> The real game starts now.
>
> Next Target: The World Tree [Yggdrasil]
>
> -- JOKER
「……宣戦布告か」
俺がここに来ることも、これを起動することも織り込み済みだったわけだ。 画面には、次の座標を示すマップが表示されている。世界の中心にある「世界樹」。
「世界樹……。この世界の魔力供給源ですね」
リリスが画面を覗き込む。 俺はエンターキーを強く叩いた。
「ああ。どうやらジョーカーの野郎は、俺の古巣(PC)を使って、この世界のOSそのものを乗っ取るつもりらしい」
ただの嫌がらせレベルじゃない。 これは世界規模の「システム掌握」だ。
「上等だ。元社畜プログラマーの意地、見せてやるよ」
俺はPCをパタンと閉じた。 デバッグの旅は終わりだ。ここからは、管理者権限を賭けた「全面戦争」が始まる。




