闇オークションに出品されたのが、俺の前世の『呪物(社用PC)』だった件
カジノの支配人から奪った招待状を手に、俺たちは都市の地下深くに広がる「裏エリア」へと潜入していた。 そこは、表のきらびやかさとは無縁の、薄暗く湿った石造りのホールだった。
「主様、ここからは『暴力厳禁』の結界が張られています。私の攻撃も、ここでは通りにくいようです」
リリスが不愉快そうに眉をひそめる。 入り口で渡された仮面をつけた俺たちは、数百人の参加者がひしめく会場の席についた。
「レン様、なんだか空気が重いです……。ここにある商品は、どれも『人の怨念』が籠もっているような……」
エリアが震えながら身を寄せてくる。 その予感は的中した。 ステージに現れた司会者(ピエロのマスクを被っている)が高らかに宣言する。
『さあ、今宵の闇オークション、支払いは金貨ではありません! 当オークション独自の通貨……**【寿命】**のみを受け付けます!』
「なっ……!?」
会場がざわめく。 参加者たちは手首に「黒い腕輪」をはめられており、そこには自分の余命が「数値」として表示されていた。
「寿命を通貨にする、か。……悪趣味なシステムだ」
俺は冷ややかに腕輪を見た。俺の表示は【∞(無限)】。管理者権限でステータスがバグっているおかげか、あるいはリリスの契約者だからか。資金には困らなそうだ。
オークションが進む。 「隣国の王女の秘密日記」や「禁忌の魔法書」が、数年、数十年という寿命で落札されていく。 そして、司会者がメインディッシュを紹介した瞬間、俺の心臓が凍りついた。
『続きましての品は、異界より漂着した正体不明の魔道具! あらゆる計算を一瞬でこなし、光る窓を持つ【知識の板】です!』
運ばれてきたワゴン。その上に鎮座していたのは―― 黒ずんだ手垢がついたキーボード。ヒンジが少し緩んだディスプレイ。そして天板に貼られた「社外秘」の管理シール。
「……嘘だろ」
見間違うはずがない。 あれは、俺が過労死した瞬間に開いていた、あのブラック企業の「社用ノートPC」だ。
「なんであれがここにある……?」
動揺する俺をよそに、入札が始まった。
『開始価格は寿命10年!』 『20年!』 『50年だ!』
未知のアーティファクトとして人気が高いらしい。 俺は腕輪を掲げた。
「100年」
会場が静まり返る。 だが、その直後。二階の特別席から、加工された機械音声が響いた。
『――1000年』
桁が違う。 見上げると、そこには影のような人影が座っていた。
「……あいつか、サクラ(運営側の吊り上げ役)は」
俺がさらに「1万年」と提示しようとした瞬間、手元のコンソールに警告が出た。
[Warning: System_Intervention]
Bid_Rejected.
Reason: User_ID is locked by Host.
「……ハッ、なるほどな」
俺は入札しようとしても、システム側で拒否された。 どうやらこのオークション自体が、俺をおびき出し、あのPCを見せつけるための「ジョーカーの罠」らしい。 俺が欲しがるのを知っていて、目の前で他人に売り渡すことで絶望させようという魂胆か。
「主様、入札できません! システムがロックされています!」 「リリス、暴れるなよ。結界がある」
正攻法(入札)は封じられた。暴力も禁止。 PCは刻一刻と、謎の人物(ジョーカーの代理人)に落札されそうになっている。
この完全に「詰み」に見える状況で、俺は隣で震えている聖女エリアを見た。
「……エリア。お前、さっきカジノで稼いだ金貨、まだ持ってるか?」 「は、はい。ドレスの中に隠してますけど……でも、ここは金貨は使えませんよ?」 「いいや、使えるさ。……少し『荒療治』になるがな」
俺はニヤリと笑い、エリアの耳元である作戦を囁いた。




