錯乱した男のポケットから、とんでもない『バグの種』が出てきました
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ドォォォォン……!
リリスの慈悲深い(?)一撃が、ガトの後頭部に炸裂した。 強化されたステータスごと物理的に黙らせる、見事な峰打ちだ。
ガトは白目を剥いて床に沈んだ。 食堂は半壊したが、静寂が戻った。
「……はぁ、はぁ。やったか?」
俺は恐る恐る壁の時計を見上げた。 秒針がカチコチと進み――そして、運命の「午前8時」を指した。
……何も起きない。 視界がホワイトアウトすることもなく、世界は続いていた。
「や、やった……! 朝を越えました! ループ脱出ですぅぅぅ!」 「もう二度と目玉焼きを見なくて済むのですね!」
エリアとリリスが抱き合って喜んでいる。 だが、俺は気絶しているガトの元へ歩み寄った。
「おかしいな……」 「何がです? 主様」 「エリアの手紙が重すぎたのは事実だが、たかが村人NPCが、あそこまでステータス強化されて錯乱するのは異常だ。何か『ブースト』がかかっていたとしか思えない」
俺はガトの体を調べた。 すると、彼の胸ポケットから、一枚の奇妙なカードが滑り落ちた。
それは、不気味な笑みを浮かべる道化師が描かれた――「ジョーカー」のトランプだった。
「……なんだこれ?」
俺がカードを拾い上げた瞬間、管理者コンソールが自動的に開き、真っ赤な警告ログを吐き出した。
[Detected: Illegal_Admin_Item]
Name: Chaos_Card_Joker (Type: Amplifier)
Effect 1: Passive_Emotion_Boost (x1000%)
Effect 2: Auto_Loop_Trigger (On_Despair)
Created_By: JOKER
「……なるほど、そういうことか」
全ての謎が解けた。俺はギリリと歯噛みした。
「レン様、そのカードは?」
「……最悪の呪物だ。このカードは、持っている人間の感情を千倍に増幅し、その人間が『絶望』した瞬間に時間を巻き戻す機能が付いている」
ガトは、知らずにこのカードを拾って持っていたのだろう。 だから「手紙が来ない」という悲しみが千倍の「絶望」に変わり、ループが発動していたのだ。
「そして、エリアの激重ラブレターを受け取った瞬間、今度は『困惑』と『愛の重み』が千倍になって、脳が処理しきれずに錯乱したってわけだ」
俺の説明を聞いて、エリアが青ざめる。
「そ、そんな恐ろしいアイテムが、なぜ一般人の彼の手元に……?」
「……港町の『重力無限大オブジェクト』を覚えているか? あれの作成者ログも『JOKER』だった」
俺はカードを握りしめた。 これは自然発生したバグじゃない。 誰かが――この「ジョーカー」と名乗る何者かが、意図的にこの世界に悪意あるアイテムをばら撒いているのだ。
「……楽しくなってきたな」
俺はニヤリと笑った。 ただのデバッグ旅行のつもりだったが、どうやら俺と同じ「管理者権限」を持つ、たちの悪い愉快犯がいるらしい。
「リリス、エリア。旅の目的を変更するぞ」 「はい、主様!」 「えっ、ま、まさか……」
「この世界のバグを直しながら、このふざけたカードをばら撒いている『ジョーカー』をひっ捕える。……俺の快適な異世界ライフを邪魔する奴は、修正対象だ」
こうして、50回の目玉焼き地獄を乗り越えた俺たちの旅は、「バグ修正の旅」から「悪質ハッカー追跡の旅」へと、その様相を変えることになった。
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