犯人は、食堂の隅でずっとため息をついていました
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60回目の朝食。 俺たちはもう食事に手を付けず、食堂全体をジロジロと観察していた。
「いいか、よく見ろ。この世界にあるオブジェクト、NPC、環境音。全ての中に『ループの起点』があるはずだ」
俺の指示に従い、リリスとエリアも目を光らせる。 女将さんが配膳するルート。 窓の外を歩く村人のタイミング。 壁に掛かっている時計の秒針。
全てが完璧に同じ動きを繰り返している。 その中で、一つだけ「違和感」のある存在がいた。
「……レン様。あそこの男性、気になりませんか?」
エリアが小声で指差した。 食堂の隅っこ。観葉植物の陰に隠れるように座っている、一人の陰気な冒険者風の男。 彼は一口も食事に手を付けず、ひたすら宿の入り口を見つめ、深いため息をついている。
「……はぁ。来ないな……」
男が呟く。 そのタイミングは、毎回微妙にズレていた。 他のNPCが録音テープのように同じセリフを繰り返す中、彼だけは**「感情の揺らぎ」**のようなノイズを発している。
「あいつだ」
俺は確信し、管理者権限で男の内部データをスキャンした。
<NPC: Quest_Giver_04 (Role: Villager_C)>
Name: Gato
Status: Waiting
[Event_Flag: "Love_Letter_Reply" = False]
Loop_Condition: If (Time > 08:00 AND Flag == False) -> System.Reset()
「ビンゴだ……!」
俺は膝を打った。 この男・ガト。彼は特定のイベントフラグ「ラブレターの返事」が回収されない限り、世界をリセットし続ける特異点だったのだ。 彼が「手紙が来ないまま8時になる」という事実に絶望した瞬間、世界は「失敗」と判定されてやり直しになる。
「なんて迷惑な男なの……! たかが失恋で世界を巻き込まないで!」 エリアが殺意を込めてガトを睨む。
「主様、殺りましょう。彼を消去すればループ条件も消えます」 リリスがナイフとフォークを構える。
「待て。原因は分かったが、対象の殺害は最終手段だ」
俺はさらに深くコードを解析した。 彼が待っているのは「隣町のパン屋の娘」からの返事。 しかし、マップデータ検索をかけても、この町に向かう配達員や手紙のデータが存在しない。 恐らく、開発者が手紙のデータを入れ忘れたか、配達員が途中でバグって消滅したのだろう。
「……正規ルートでのクリアは不可能だ。手紙は永遠に届かない」 「じゃあ、やっぱり殺るしか……」 「いや、ないデータは作ればいい」
俺はニヤリと笑った。これがデバッガー兼チーターの特権だ。
「リリス、便箋とペンだ。俺が今から**『最高に情熱的で、世界を納得させるレベルの偽ラブレター』**を作成する」 「えっ……主様が、ですか?」
「ああ。送信元データを偽装し、筆跡鑑定スキルも騙せる完璧な偽物を作る。……中身(文章)は、エリア、お前が考えろ」
「はぇっ!? わ、私ですか!?」
エリアが素っ頓狂な声を上げる。
「聖女なら愛の教えとか説いてるだろ? 男が読んだ瞬間に『うおおおおっ!』ってなるような、感動的な愛の言葉を捻り出せ!」 「む、無茶です! 私、神様への愛しか知りませんし、そもそも恋愛経験なんて……!」 「やるんだよ! 61回目の目玉焼きを食いたいのか!」 「……っ! や、やります! 書きます!」
こうして、ループ脱出の鍵を握る「偽造ラブレター作戦」が始まった。
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