表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/33

村の井戸が『Null』でした

森を抜けると、粗末な柵で囲まれた集落が見えてきた。  第一村人を発見し、俺は情報を集めることにした。


 しかし、村に入った瞬間に違和感は確信へと変わった。  村人たちの挙動がおかしい。  道の真ん中で、三人の男が同じ軌道を歩き回り、定期的に壁にぶつかってはクルリと向きを変えている。  畑を耕している老婆は、クワを振り下ろす動作と音(SE)がズレている。


「NPCの挙動設定もガバガバかよ……」


 頭を抱えていると、村の広場に人だかりができているのが見えた。  中心にいるのは、立派な服を着た老人――村長だろうか。彼は枯れ果てた井戸の前で、絶望的な顔で天を仰いでいた。


「ああ、神よ! なぜ我らを見捨てたもうたのか!」 「村長、もう水が一滴もありません……」 「このままでは作物が全滅ですじゃ……」


 村人たちの悲痛な声。  だが、俺の目には別のものが映っていた。  井戸の周りに、真っ赤な警告色アラートのエラーウィンドウが乱立しているのだ。


[Critical Error: Resource_Not_Found]

Object: Village_Well

Target: Underground_Water_L3

Status: Link_Broken (404)


「……なんだ。ただのリンク切れか」


 俺は思わず呟いた。  井戸という「蛇口」と、地下水脈という「水源」を繋ぐパス(経路)が、何かの手違いで切断されている。  神様のうっかりミスか、あるいはアップデート時のデグレ(改修による不具合)か。どちらにせよ、致命的なバグだ。


 俺は人混みをかき分けて前に出た。


「おい若造、何をしている! ここは神聖な場所だぞ!」


 村長が俺を咎める。  だが、説明している暇はない。喉が渇いているのは俺も同じだ。  俺は虚空に手をかざし、管理者コンソールを展開した。


「な、なんだそれは!? 空中に光の板が……」 「魔法使い様か?」


 ざわめく村人たちを無視し、俺はソースコードをスクロールする。  あった。井戸のプロパティ設定。  参照先が [Target: Null] になっている。これでは水が出るわけがない。


「じいさん、ちょっと下がっててくれ。今、修理パッチを当てるから」


「しゅ、修理? 井戸は壊れてなどおらんぞ?」


「いや、内部データが壊れてんだよ」


 俺はキーボードを叩く。  正しい地下水脈のIDを検索し、コピー&ペースト。  ついでに、一ヶ月も水が出ていないなら少し多めがいいだろう。  水量パラメータ [Amount: 50] を、えーい、サービスだ。 [Amount: 500] に変更。


 Enter.


 ズズズ……ゴゴゴゴゴッ!!


 地響きと共に、井戸の石組みがガタガタと震え出した。


「ひ、悲鳴を上げている!? 何をしたのじゃ!?」


「あ、ちょっと待っ――」


 ドッパァァァァァァン!!


 俺の制止も虚しく、井戸の底から圧縮された水流がレーザービームのように噴出した。  水柱は遥か上空まで突き抜け、周囲に豪雨となって降り注ぐ。  乾いた大地があっという間に泥沼となり、村長が濁流に足をすくわれて流されていく。


「ぶごあぁっ!? 溺れるっ、溺れるぅぅ!」 「村が沈むぞー!!」


「やべっ、係数ミスった!」


 俺は慌ててコンソールを操作し、水量を [Amount: 80] に下方修正。  水柱はスッと収まり、コンコンと湧き出る美しい清水へと変わった。


 静寂が訪れる。  ずぶ濡れになった村人たちは、呆然と溢れる水を見つめ、やがて震える声で叫んだ。


「き、奇跡だ……」 「神の奇跡だああああッ!!」


 一斉に平伏する村人たち。  流されてボロボロになった村長が、俺の足元にすがりついてくる。


「あ、あなた様は……もしや、神の使いであらせられますか!?」


「いや、通りすがりのデバッガーだ」


 俺はウィンドウを閉じ、濡れた髪をかき上げた。  感謝されるのは悪い気はしない。だが、それより重要なことがある。


「村長、礼はいいから飯と寝床をくれ。あと、この村の宿屋のベッド……反発係数を『低反発マットレス』並みに書き換えてもいいか?」


 こうして、俺の異世界デバッグ生活は始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ