聖女様が『バグ』を浄化しようとしたので、管理者権限を見せつけました
「初めまして、辺境の領主殿。私は教会から派遣された聖女、エリアと申します」
聖女エリアは、可憐な見た目に反して、殺気立っていた。 彼女は国王を制し、杖をリリスに向ける。
「陛下、この土地は異常です。カボチャの味も、農夫たちの笑顔も、すべてが作り物めいている。そして何より……その女!」
ビシッ! とリリスを指差す。
「貴女、この世界の住人ではありませんね? 神の理から外れた『異物』……浄化対象です!」
鋭い。 どうやらこの聖女、生まれつき「バグ」や「改竄データ」を「悪(邪気)」として感知する特殊能力を持っているらしい。
元・没データであるリリスは、彼女にとって「歩くバグ」に見えるはずだ。
「……主様。この女、消していいですか?」 「待てリリス。早まるな」
リリスの目が据わっている。ワンピース姿でも殺意は隠せていない。 エリアが詠唱を始めた。
「穢れし存在よ、神の光に焼かれなさい! 【聖なる光】!」
聖女の杖から、極太のレーザーが発射される。 リリスなら避けられるが、当たれば後ろの畑(教団員含む)が消し飛ぶ。
俺は一歩前に出た。
「……やれやれ。俺の庭で光魔法(エフェクトの重い処理)を使うな」
俺は飛来する光の束に向かって、片手をかざした。 コンソールを展開。
Target: Holy_Ray
Set_Color: [0, 0, 0] (Black)
Set_Damage: 0
Effect: Flower_Petals
Enter. パァンッ!
直撃する寸前、真っ白なレーザーが弾け飛び――無数の「花びら」に変わった。 キラキラと舞い散る花吹雪。ダメージ判定はない。
「は……? 花……?」
エリアがポカンと口を開ける。 国王や騎士たちも目を丸くしている。
「な、何をしました!? 私の神聖魔法を、幻覚魔法に書き換えたのですか!?」 「書き換えたんじゃない。データの『プロパティ』を変更したんだ」
俺はエリアに近づいた。 彼女は後ずさりながら、俺の頭上に浮かぶウィンドウを見上げる。
「そ、その光の板は……古代語? いいえ、これは……『神の記述』!?」
彼女には、ソースコードが「神の言葉」に見えているらしい。 まあ、世界を作っている言語なのだから、あながち間違いではない。
「聖女エリア。君が信じる神様がどんな奴かは知らんが、この領地(ローカル環境)でのルールブックは俺だ」
俺は彼女の目の前で、ウィンドウを操作して見せた。 空の色を一瞬だけ「ピンク」に変え、すぐに戻す。 重力を操作し、彼女の身体を少しだけ浮かせる。
「ひゃっ!? う、浮いて……!?」 「リリスは俺の大事な家族だ。『エラー』だの『異物』だの呼ぶなら、君の信仰対象を書き換えて、一生カボチャしか愛せない体にするぞ?」
俺が低音で脅すと、エリアは顔を真っ青にしてへたり込んだ。 彼女の「悪探知」スキルが、俺を【測定不能(Admin)】と判定し、本能的な恐怖を伝えているのだ。
「あ、ああ……申し訳ありません……! 貴方様は、神の代行者……いえ、現人神であらせられたのですね……!」
エリアが震えながら平伏した。 どうやら「魔王」の次は「神」認定されたらしい。極端だな、この世界の人々は。
「……ふん。分かればよろしい」
リリスが勝ち誇ったように鼻を鳴らす。 国王も慌てて割り込んできた。
「こ、これは失礼した! 聖女が暴走して申し訳ない! どうか国への天罰だけはご容赦を!」 「大丈夫ですよ。ただ、彼女には少し『研修』が必要かもしれませんね」
俺はニヤリと笑った。 バグを感知できる聖女。その能力、デバッグ作業(バグ探し)に使えるんじゃないか?
「陛下。この聖女、しばらくウチで預かっても? リリスの話し相手にちょうど良さそうですし」 「も、もちろん! 好きに使ってくれ!」
こうして、厄介な聖女エリアもまた、俺の領地の住人(兼デバッグ班)として加わることになった。 リリスとの仲は最悪だが、まあ、退屈はしなさそうだ。




