国王が視察に来たので、テクスチャ変更で農村に偽装しました
枢機卿を空の彼方へ「転送(追放)」してから数日。 俺の領地は、奇妙な活気に満ちていた。
「おお……! 魔王様がくださった肥料(データ修正済み)の効果は絶大だ!」 「トウモロコシが! トウモロコシが光り輝いている!」 「収穫だ! 破壊の宴(収穫祭)の準備をしろ!」
黒いローブを着た不気味な男たち――元・ディアボロス教団員たちが、畑で狂喜乱舞している。 彼らは「魔王崇拝」の情熱をすべて「有機農業」にスライドさせたらしい。
忠誠心が高く、不眠不休(スタミナ無限のバフ付き)で働く彼らは、最高のNPCだった。
そんな平和な午後、リビングの警報アラートが鳴り響いた。
[Alert: Large Group Detected]
Faction: Kingdom_Royal_Army
Unit: King's_Guard & Investigation_Team
Count: 200
「……チッ。面倒な連中が来たな」
モニターには、金色の紋章旗を掲げた馬車と、重武装の騎士団が映っている。
先日の「ギルドへの大量素材持ち込み」や「空からの枢機卿落下事件」で、国が動いたのだろう。
国王自らの視察だ。
「主様、迎撃しますか? 国の軍隊なら、データ量も多いので消し甲斐がありますよ」 「やめろ。国を敵に回すと、買い物とか流通が面倒になる」
俺は思考を巡らせる。 現状、ここは「不気味な黒装束の集団がたむろする怪しい魔境」に見えるだろう。 そんなものを見られたら、「討伐軍派遣」のフラグが立ってしまう。
「……よし、偽装(スキン変更)だ」
俺は窓から手をかざし、畑で作業する五十人の教団員たちを範囲選択した。
Target: All_Cultists Change_Texture: [Dark_Robe] -> [Farmer_Overall_Cute_Ver]
Enter.
シュンッ! 一瞬にして、禍々しい黒ローブが、パステルカラーの「つなぎ」と「麦わら帽子」に変わった。 手にはドクロの杖ではなく、ピカピカのスコップ。 見た目は完全に「陽気な農夫たち」だ。
「よし、これでいい。リリス、お前もその鎌をしまって、メイド服……いや、田舎娘風のワンピースに着替えろ」 「は、はいっ! 主様の趣味なら何でも着ます!」
◇
十分後。 俺は領地の入り口で、国王一行を出迎えた。
「これはこれは、国王陛下。こんな辺境へようこそお越しくださいました」
俺は愛想笑いを浮かべて頭を下げた。 馬車から降りてきたのは、立派な髭を蓄えた国王と、その護衛騎士たちだ。彼らは険しい顔で周囲を警戒している。
「うむ。……ここが『魔王の再来』が潜むという噂の地か?」
国王が鋭い眼光を向ける。 だが、その視線の先にあるのは――
「ワッショイ! カボチャ! ワッショイ!」 「見てくれ! このトマトの赤さを! 血の色より美しい!」
パステルカラーの服を着た男たちが、満面の笑みで野菜を収穫しているファンシーな光景だった。
「……ん? 魔王? 邪教の集団がいると聞いていたのだが……」 「ははは、何の冗談ですか。見ての通り、ここはただの農園ですよ。少し野菜の育ちが良いだけです」
俺はすかさず、採れたてのカボチャ(糖度設定:MAX)を差し出した。 国王は半信半疑でそれを一口齧り――
「――ッ!?」
カッ! と国王の目が見開かれた。
「あ、甘い! まるで蜜の塊だ! それに、食べた瞬間に古傷の腰痛が治ったぞ!?」 「栄養価を高めてありますので」
「なんと……! ここは魔境などではない、豊穣の聖地ではないか!」
国王の態度が一変した。 チョロい。やはりパラメータの暴力は全てを解決する。
「誤解してすまなかった! これほどの技術を持つ者がいるとは、我が国の宝だ!」
国王は俺の手を握り、感動している。 これで一件落着――と思った矢先、国王の背後から一人の少女が進み出た。
「お待ちください、陛下。騙されてはいけません」
純白の法衣に身を包んだ、金髪碧眼の少女。 その瞳は、冷徹な光を帯びて俺――の隣にいるリリスを睨みつけていた。
「私は騙せませんよ。……そこな女。貴女からは、世界を歪める『致命的なエラー』の気配がします」
聖女だ。 面倒なキャラ(バグ検出機能付き)が来てしまった。




