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若葉入隊 七

「ほいほい。ほな、正親先生の陰陽剣術講座、始めるでぇ。」


 一通りの自己紹介の後、俺は、おそらく隊士一明るいであろう先輩、正親さんに連れられ、屯所の裏に来ていた。


 と、言うのも、俺が任務を遂行する術こと、「陰陽剣術」とやらを学ぶためである。


「まず、陰陽剣術言うんはやなぁ。…若葉っち、『陰陽五行説』言うんの知ってる?」


「あ、はい!」


 突然の質問だが、昔から武術以外に勉学の方も、蛍雪でやってきたのだ。ざっくりとだが、大体の解答はできる。


「えぇと…。世界は光・熱・動などの『陽』と、影・冷・受などの『陰』の性質に区別でき、また、それら世界の万物は木・火・土・金・水の要素から成り立っている。それらは、育む『相生』と打ち消す『相剋』の関係を持つ。…で、合ってますか?」


「うん、ばっちりや!説明省けて楽やわぁ。」


 …のほほんとしたものである。


「要するに、それを剣術に組み込んだんが陰陽剣術や。」


「…どんなものかはわかりました。が、それはどんな術式なんですか?」


「んん、勉強熱心やね♪簡単に説明すると、万物には、五行のうちのなんかの性質を持ってるんや。人間も動物も生命体でなくとも。もちろん、妖怪にもや。妖怪と人間が争っても勝てるわけない。が、相剋の関係は絶対やろ?つまり、陰陽剣術は、人間が妖怪に抗う手段言うわけやね。…で、使用法やけど…」


 一拍を置いて、正親さんが木刀を構える。


「まず、基本の構えが、…こう。」


 中段と上段の間くらいで構え、俺から見て反時計回りに円を描く。途中、右肩、右足、左足、左肩あたりで止めて行く。


「頭上が木で、..火、..土、..金、..水、の構えや。こっから相剋の方向に斬ると術式発動。相生の方向に構えをずらすと術式強化や。」


 ――木生火―


 ―火剋金――


(…なるほど。あの時の一二三さんは、相生で威力を高め、相剋で火の術を発動したわけか…)


 と、少し回想する間に、正親さんは自らの腰の短刀に手をかけていた。


「と、言うんが陽の陰陽剣術。次は陰のやつや。」


 言って鞘ごと刀を抜く。


「陰は受けの剣術。つまり、居合いや。」


「え?でも、腰から抜いて…」


「印を結ばんとあかんからやな。ちなみに、陰の方は、印が反転するんやでぇ~。」


 また、反時計回りに動かす。今度は、下段から、右腰、右肩上、左肩上、左腰だ。


「印の相剋は抜刀術で、相生は相手の攻撃を絡め取り吸収する納刀や。」


 うむ。大体の仕組みは理解した。…のだが、


「大体は理解しました。しかし、自分に出来るのでしょうか?」


「うん!霊力あって、霊力を練れれば、誰でも出来るで?」


「いや、霊力…というのが、自分にあるとは…」


「大丈夫♪特殊な色の瞳は、霊力持っとる証拠やからね!」


(ああ、それで、零番隊の皆はああいう色の…え?)


 とんでもないことに気づいてしまった。そう、俺の瞳は英国人の血によるものだ。つまり、霊力が必ずしもあるとは…


(や、やばいぃぃぃ!!!)


「…若葉っち~?」


 はっとすると、しゃがんだ正親さんが子犬のような目で俺を見上げている。


「ボクの話おもろない?」


「あ!いや、その…あ!じ、自分にそんな力があるのかなぁって。その、霊とか見たことないんで…」


 とたん、ニパっと正親さんの顔に笑みが浮かぶ。


「そんな、見えるほど霊力密度の濃い霊ってなかなか居いひんよ!試験にも合格したやん?」


 そういえば、よくわからないが一応試験とやらには合格している。だとしたら、俺にも霊力が?


 とか、考えていると、正親さんが木刀を手渡す。


「とりあえずやってみよ?」


「…は、い…。」


「霊力の練り方は、人それぞれでちゃうけど、基本は丹田から血が流れる想像イメージや。」


(頼むっ!)


 目を閉じ、血の流れを想像しながら、俺は何度となく神様に願った。


 腹の底からの流れが体中を駆け巡っている。もとい、いてほしい。


(お願いしますっ!!)


 最後にそう乞い願い、俺は木刀を上段から右足に振り下ろした。




 …何か起きただろうか?目を開ける勇気がわかない。


「んん~…まいったなぁ…」


 正親さんの言葉に、駆り立てられたがごとく目を開ける。


 …何も起こってない、かも…


(終わった…)


 大太鼓のように鼓動が響く。滝のように汗が流れる。暗転したように目の前が真っ暗に…


「努力が必要やねぇ。」


 はっ、と苦笑する正親さんの人指し指の先を見と、木の葉が踊っている。


 凝視すると、どうも旋風風に乗っているようだ。


「厳しいけど、…三十点くらいやね。」


 安堵だろうか、不安だろうか?


 よく根本の分からない溜息を、俺は深く深くついた。

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