若葉入隊 六
素振りを、千とおまけで二百本。後に、腕立て伏せ・腹筋・背筋・屈伸運動をそれぞれ二百回。さらに、剣術・空手・合気道の形を確認し、最後に、柔術の力と重心の流れを想像訓練する。すべてが終わるころ、東の空は明るんでいた。時刻にして卯の刻。
ふと、地響きのような音が聞こえたかと思ったら、それは、自分の内側からのものだと気付いた。
そりゃ、朝っぱらからあれだけ猛烈な運動をしたのだから当然か。今なら軽く五合はいけるだろうと思う。
ちょうど、朝食の時刻である。俺は、黒色無限吸引孔のごとき、自らの食欲を鎮めるため、食堂へと向かった。
大盛りご飯を五杯と、豆腐とわかめの味噌汁を三杯おかわりし、ようやっと腹八分目まで満たされた俺は、現在、零番隊室にいる。俺の前には、昨日見たのと同じ零番隊士の面々が整列していた。
よくよく思えば、俺は、零番隊の正体は理解したわけなのだが、肝心の零番隊士については、一二三さん含めまったくもって知らないわけである。
そんなわけで、逆自己紹介と相成ったわけだ。
「はいはい。では、まずは一二三兄さんからいきますよぉ~。」
やはり、溌剌とした口調で、一二三さんが切り込み隊長を申し出た。
「九十九一二三!二十二歳!一応、初期隊士なんで、現隊士の中では一番古株だね。特技は特訓、空元気、自己分析!好きなものは努力、仲間、風呂上がりの一杯!自分で言うのもなんだけど、零番隊の兄貴的存在だね。」
…ん?
「一二三さんて、隊長じゃないんですか?」
「ん?そうだよ?隊長は任務中だよ。」
意外だ。雰囲気とか、器…っぽいものが、…なんというか、統率者向きのような気が、…いや、まだ、出会って一日も経っていないのだが…
「じゃ、次は右京さんで。」
「…ああ。」
銀髪で目を伏せた青年が、落ち着いた雰囲気で口を開く。
「西田右京と言います。よろしく、御守戸くん。」
………。
…時が止まったわけではない。次の言葉を待っているのだ。
「…右京さん?」
藍色で左右非対称の髪の青年が話しかける。
「ん?」
「終わり、ですか?」
「ん?そうだが?」
「っなんでやねん!」
あからさまな過剰反応でずっこける。
「もっとあるやないですか!?哲学者やぁ、とか、最年長ですぅ、とか、霊魂と対話が…、ってなんでボクが言ってんねん!」
「ほい。じゃ、次はそこの喜劇芸人で。」
「お!はいはいはい。ボクは新撰組喜劇団長の青髪剃太と、…なんでやねん!」
…いろんな人がいるんだなぁ。と、言うのが正直な感想である。自分の中の新撰組の偶像が、ガラガラと音を立てて崩れて行くのが分かる。
「改めまして。ボクは小日向正親。一万とんで二十一歳!一ちゃんとは同期で、相棒で、愛人関係ですぅ。好きなものは、お笑いと婦女子のみなさん!下の話やけど、霊力操作が特技やから、若葉っちには、ボクが手とり足とり教えてあげるからね☆」
何回一二三さんが「なんでやねん」といったかは、無意味な情報なので割愛したいと思う。
「ほいじゃ、杏ちゃんといっくん。」
それはそうとして、ユル~い横拳で心が揺れている現状、次とその次の二人の自己紹介は、とどめの直拳だった。
「あ、はい。…えと、…あたしは土方杏です。不束者ですが、よろしくお願いします。」
「僕は沖田利市。十五歳の最年少隊士で、杏ちゃんの一歳下の幼馴染です。よろしくお願いします。」
…。
…今何と?
「…えっと?」
「あ、僕、総司くんの従弟で、杏ちゃんは土方副隊長の娘さんです。」
さらっと言ってくれるから、理解まで若干の時間がかかったが、一拍の後、俺が昨日のように絶叫したのは想像がつくと思う。