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序章 一

 時は慶応二年。


 頭上に広がる青は澄み渡り、それに仕える風の精たちは、厳しく、しかし、凛とした表情をしている。

 時として青色の空は風の精たちを遣わせ、まるで「舞をともに踊ろう」と言っているかのように俺の着物の袖を引かせる。

 空の玉座に君臨する黄金の帝王は、風の精たちにもてあそばれ、何時しかかじかんでしまった俺の両の指を優しく温め、その指とは真逆に、高揚し炎のように燃える俺の魂に息吹を吹きかける。

 まるで、俺、御守戸若葉みもとわかばの新たな門出を祝っているかのようだ。



 「俺」という存在を理解してもらうため、少し、昔話をしようと思う。

 俺は名家とはとても言い難い、平凡な御守戸みもと家に生を受けた。

 家柄は平凡ではある。が、しかし、俺の生い立ちは名家の者と比較しても、より特別で、また、ややこしいものであった。

 俺の色素の薄い癖っ毛や、緑玉エメラルドにも似た色の瞳を見ればわかると思うが、俺の脳天から足のつま先にまで脈々と流れる錆色は混じり物である。

 御守戸家に長女として生まれた俺の母は、英国人の父と縁を結んだのだ。

 当然のことながら、彼女の両親は猛反対した。

 しかし、彼女の意志は固く、数年ののちに俺が生まれたわけである。


 そんな特殊な生い立ちなのだから、当たり前のごとく、俺は理不尽な差別を受けた。勝手な言いがかりでケンカを売られた。

 それでも俺がまっすぐに育ったのは、母の教えだろう。

 彼女は強かった。

 いくら世間から非難を浴びても夫を愛し続けた。

 彼女は優しかった。

 世界を、国を、人を、勘当した両親すらも愛し続けた。

 だからこそ、だろう。俺はこの深緑を忌わしく思ったことはただの一度もない。誇りすら感じる。

 だれよりも偉大な母と、そんな彼女の愛した人から頂いたのなのだから。



 時がたち、いつしか俺は力を欲するようになった。

 非難する者をねじ伏せるためではない。母の愛する世界を守るためのものだ。

 才能があったかは定かではない。

 しかし、俺には後天的に母から受け継いだ、何物にも勝るちからがあった。

 俺は毎日脱水症状を起こすほどの汗を流した。

 傷や青あざなんて日常茶飯事で、骨折など両の指でも数え切れない。

 そうして手に入れた実力ちからは、母のちからの足元にも及ばないが、誰かを守るには充分なものだった。



 さて。

 少しと言いながら長ったらしくなってしまった昔話はおしまいにしよう。

 今、俺は西本願寺、新撰組屯所に向かっている。

 折りしも沖田総司が病に倒れた今。

 この、血反吐を吐くような鍛錬で得た実力ちからを国のために使わないなどという選択肢を、俺のちからが許すはずもなかった。

 母の愛した世界を俺は守る…。



 …今になって思うと、この先、あんな展開があるとは、俺は思いもしなかったわけであるが…。

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