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企画参加作品

まちがえた

作者: keikato

 梅雨のある朝。

 寝室のカーテンを開けた際にたまたま気がついたのだが、部屋の隅の畳に手のひらほどの大きさの黒いシミのようなものができていた。

 それまでは見なかったものである。

 そこは日当たりが悪い場所なので、一瞬カビが生えたのかと思ったが、そばに行ってみるとそれはカビなどではなく、私がこれまで一度も見たことのない奇妙なものだった。

 一言で言えば長さが三ミリぐらいの短い髪の毛。

 それが畳の上に、直径十センチほどの範囲でぎっしりと生えていた。

 指で触ると思った以上に丈夫だった。指でつまんで強く引っ張っても抜けない。

 その日。

 私はたまたま会社の仕事で他県に一週間ほど出張が決まっていたので、それ以上は調べる時間がなく、しかたなくそのままにしてアパートを出た。


 出張から帰った日。

 出張中ずっと気になっていたので、アパートに帰るとすぐに、奇妙なものが生えたところに行ってみた。

「うわっ!」

 私はおもわず悲鳴を上げ、あまりの驚きにその場で固まってしまった。

 そこには若い女の生首が生えていたのだ。

 私が出張で部屋を空けていた間に、それはタケノコのようにニョキニョキと成長して畳から出てきたようで、短かった髪の毛も畳に広がるほど長くなっていた。

 女の生首と目が合った。

 きれいな顔立ちをしている。

 さらに驚いたことに、女の生首がオレの顔をじっと見てしゃべった。

「あら、部屋をまちがえたようね」

 それだけ言うと、生首はそのまま畳の中に沈んでいった。そして最後、長い髪がズルズルと引き込まれるように畳の中に消えた。

 女の生首が消えた。

 畳にはもう何の痕跡も残されていない。

 何だったんだ、あれは?

 ただ今の言い方からすると、女の生首はどこか別の部屋に出るつもりだったのだろう。

 しかしである。

 たとえ首だけであっても、本来ならまちがえたの一言ではすまされるものではない。何をどうまちがえたか説明してから引っ込むのが筋であろう。

 気になるではないか。

 気になってしょうがないじゃないか。

 あの美しい女の生首は、いったいどこに出るはずだったのだろう?

 で、何を目的に?

 まったくもって気になってしょうがない。

 ただ二度と、私の部屋に生えてくることのないよう願うばかりである。



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― 新着の感想 ―
大浜英彰さまの活動報告から参りました。 ほんの少しずつ出てくる恐怖があるはずなのに、丈夫な髪だったり、間違いだったりで、恐怖が主人公にとってもいい意味でごまかされているように感じました。 そして、気に…
わたしだったら、一番最初の時点で、髪らしきものをチョキチョキ切っていたかも? それにしてもこわい。気味悪い。 もう少し出張が長かったら、体全部が竹のごとく生えてたんでしょうかね?
この梅雨シーズンはカビが生えないように対策をしなければならないのが悩ましい限りですが、カビ以外にも気を付けないといけないのは厄介ですね。 このまま首尾よく気付かれずに定点観察を出来たなら、どうなってい…
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