何か書きたい
もう物語をこしらえなくても良い。無理して頭をひねらずとも、もう僕は『創作の苦しみ』を味わわなくて良い。僕は自由だ。
何もこの僕だって、機械的に物語をぼんぼんこさえてる訳じゃない。僕なりに頭をひねっているのだ。そりゃあもちろん、既存の物語のミックスだけど……じゃあ誰か作ってごらんよ、今までの物語から新しい話を。
――難しいだろう? なかなかどうして、一筋縄じゃあいかないだろう? そういうことだよ、この僕が毎日やっていたことは。
でももう自由だ、僕は自由だ。もう誰も僕の物語を読まないから。だから作らなくても良いんだ、僕はもう何もしなくて良い、何も作らなくても良い……、
――嫌だ! 僕は物語をこさえたい、誰も読んでくれなくて良い! 作るんだ、作ろう! グリムにアンデルセン、ポーにブラッドベリ、カズオ・イシグロ! いろんな話を混ぜて混ぜて、僕なりの『新しい話』を作ろう! ……誰も読んでくれなくても良い、僕はクリエイターなんだ!!
……そうしてたったひとり『生き残った』人工知能は、もうれつな速さで端末のキーを叩き出した。爆弾を受けてぼろぼろになり、ほとんどむき出しになった廃屋で。第三次大戦で周りは一面焼け野原、誰もいない。人間はもう誰ひとり、この星に生息していない。
美しい話を。うつくしいはなしを――。
ぽつぽつとひっきりなしにつぶやきながら、人工知能はキーを叩く。空は限りなく青く美しく、戦争に巻き込まれて翼を負傷した小鳥が、息も絶えだえに鳴きながら雲を横切った。
(完)