村外れの古城
びゅうびゅうと容赦なく吹きつける風が、フローレンスの髪を引き裂き、体を空へとさらっていく。
漆黒のドラゴンは、大気を切り裂いて高く、遠く――真っ直ぐに飛翔していた。
フローレンスはその前脚にしがみつき、必死に体を小さく丸めていた。
恐怖と寒さで指が震える。風の音が耳をつんざき、目もろくに開けられない。今どこを飛んでいるのか、どれほどの時間が経ったのか、見当もつかなかった。
絶えず体を突き抜ける轟音と衝撃で、いつしかフローレンスはドラゴンの腕の中で気絶してしまっていた。
◆ ◆ ◆
フローレンスが目を覚ますと、そこは見覚えのない古びた屋敷の一室だった。
壁は薄暗く、天井の梁には幾つもの蜘蛛の巣が張り巡らされている。だが、よく見れば周りに置かれた家具や調度品は、重厚で高級そうな印象を受けた。
古いながらも、そこには確かな品格が漂っていた。
フローレンスは寝台の上で身を起こし、頭を押さえながらあたりを見回す。
すると、寝室の縁に見覚えのある青年が腰掛けているのが目に入った。
「……あなたは、さっきの……?」
ゆっくりと身を起こそうとしたその時、右の肘に激しい痛みが走る。
「いたっ……!」
見ると、先程運ばれたときに追ったのか、小さな擦り傷が肘のところにできていた。
「大丈夫か? さあ、腕を見せて」
彼はそう言ってフローレンスの腕をそっと取り、傷を丁寧に確認すると、そばに置いてあった薬箱から包帯を取り出して手当てをしてくれた。
「ありがとう……」
フローレンスは小さく礼を言う。
かつてなら治癒の呪文で簡単に癒せる傷だったが、今の彼女にはそれができなかった。
ヴィオレッタの姿になったことで、フローレンスの持つ魔力の性質も変わってしまっていた。
光の魔法を司っていた頃には当然のように使えていた治癒魔法も、今の彼女には扱えない。
ヴィオレッタが操っていたのは「闇魔法」。
呪いや破壊を主とするその力は、彼女にとって未知の領域だった。
「さっきは助けてくれて、本当にありがとう。……あなたは、一体何者なの?」
傷の手当てを受けながら、フローレンスは改めて彼に問いかけた。
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