異変
本日から連載を開始します。(毎日1話更新予定)
初投稿のため、拙い部分もあるかと思いますが、楽しんでいただけましたら幸いです。
晴れた日の昼下がり。
穏やかな魔法学園内に、突如として怒号が響き渡った。
「ヴィオレッタ・ド・ ヴィスコンティ
お前を国家への反逆罪の疑いで逮捕する」
「__ヴィオレッタ。
あの、人違いではありませんか?」
1人庭先で昼寝をしていたフローレンスは呑気にあくびをした。
「とぼけるな! すでに証拠は上がっているのだぞ。物ども、こやつを連れて行け。」
掛け声と共に、わらわらと王都の近衛兵たちが中庭に駆け込んで、フローレンスを取り囲んだ。
「ちょっ、ちょっと何をするんです!」
後ろに控えていた十数人の兵士が彼女を取り囲むと、あれよあれというまに、彼女を学園の外へと連行した。
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トリエステ公国は海に囲まれた小さな島国である。
その国では時々、魔術を操る素質のある子が生まれる。それらの子供たちは12歳になると、王立アストリアス魔法学園に入学を許可され、ここで魔道士を目指して魔術を学ぶ機会を得るのだ。
フローレンスもまた、そうやって選りすぐられて学園へと招待されたうちの1人であった。
「ヴィオレッタ。いつまでしらを切るつもりだ。いい加減に罪を認めろ。」
「いいえ、長官さま。何度も申し上げています通り、私はヴィオレッタではありません。」
フローレンスは学園から引き摺り出され、牢獄へ連行されて取り調べを受けている。
彼女は涙ながらに訴えた。
「とぼけるな!悪名高いヴィオレッタ嬢を見間違えるものなどあるか。」
「まさか、そんな。」
長官は声を荒げて、守衛の1人に手鏡を持って来させると、フローレンスの元に突き出した。衛兵が持ってきた手鏡を覗き込むと、そこに映っていたのは、フローレンスではない別の女性の姿だった。
切れ長の勝気な瞳に、スラリと長く切り揃えられたプラチナブランドの髪をした、同じ年くらいの女性が映り込んでいた。それがどうしてだか、今この手鏡に映り込んで、フローレンスがしたように驚愕の表情を浮かべている。
「これは_私ではありません。
長官さまどうか、信じてください。私は陥れられたのです。」
「黙れ、子悪党め。
衛兵、こやつを牢にぶち込んでおけ。」
フローレンスは、再び暗い牢の中へ閉じ込められてしまった。
フローレンスは、幼い頃に両親を病気で亡くし、孤児院で育った。貧しい暮らしではあったが、心優しい施設長のもと、たくさんの兄弟たちに囲まれて慎ましく幸せに過ごしていた。
幼い兄弟の世話を焼くうちに、病気や怪我を治癒する光魔法の素質があることを知り、学園に入学する事となる。
王立アストリアス魔法学園では、生徒たちは「火属性」「水属性」「土属性」「光属性」「闇属性」の五つの専攻に分かれて学ぶ。フローレンスはそのうちの光属性に所属していた。
長官が言っていた人物、ヴィオレッタ ド ヴィスコンティという生徒は、学園ではフローレンスと同学年の生徒の1人であった。先程、鏡の前で見せられたその女性に、フローレンスは見覚えがあったのだ。
彼女は闇魔法を専攻する生徒の1人であった。同学年なのと、派手な振る舞いや目立つ容姿から、学園内で彼女を知らない者などいない。しかし、光魔法専攻のフローレンスとはほとんど関わりがなかったはずだった。
(どうして、自分がそのヴィオレッタの姿になっているのだろう?)
フローレンスが首を傾げると、突然牢の外の方から誰かの足音が聞こえてきた。